
新春浅草歌舞伎
演目
PROGRAM
第1部
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原平三景時・・・・・市川 染五郎
俣野五郎景久・・・・・市川 男寅
奴菊平・・・・・中村 鶴松
囚人剣菱呑助・・・・・中村 吉兵衛
六郎太夫娘梢・・・・・尾上 左近
大庭三郎景親・・・・・中村 橋之助
青貝師六郎太夫・・・・・中村 又五郎
二、上、相生獅子(あいおいじし)
下、藤娘(ふじむすめ)
〈相生獅子〉
姫・・・・・中村 鶴松
姫・・・・・尾上 左近
〈藤娘〉
藤娘・・・・・中村 莟玉
第2部
お年玉〈年始ご挨拶〉
近松門左衛門 作
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)土佐将監閑居の場
浮世又平後に土佐又平光起
・・・・・中村 橋之助
女房おとく・・・・・中村 鶴松
将監北の方・・・・・中村 歌女之丞
土佐将監光信・・・・・中村 橋吾
狩野雅楽之助・・・・・市川 染五郎
土佐修理之助・・・・・市川 男寅
二、男女道成寺(めおとどうじょうじ)
白拍子桜子実は狂言師左近
・・・・・尾上 左近
強力・・・・・中村 橋之助
強力・・・・・市川 染五郎
白拍子花子・・・・・中村 莟玉
インタビュー
INTERVIEW
新年の浅草を彩る風物詩であり、若手歌舞伎俳優の登竜門としても知られる「新春浅草歌舞伎」。若手が普段は演じる機会の少ない大役に挑み、経験を重ねる飛躍の場として、さらには歌舞伎の伝承という意味でも大きな役割を担っています。2026年の出演者であり、大河ドラマ「べらぼう」への出演でも話題の中村莟玉さん、2025年は3年ぶりの自主公演を成功させた中村鶴松さんに意気込みを聞きました。

「新春浅草歌舞伎」は挑戦を恐れない癖をつける場
莟玉昨年は前の世代からのバトンを受け継いだ、(中村)橋之助さんや鶴松さん、僕にとっては重い責任のある1年目でした。橋之助さんとは別の場所で顔を合わせた際も、「大丈夫かな」とお互いにプレッシャーを感じる苦しい時間もありました。でも、私たちがかつて先輩たちにしていただいたように、初参加の人たちにはとにかく楽しく「新春浅草歌舞伎」に臨んで欲しいと思っていましたので、「年上組で力を合わせようね」という話もしました。橋之助さんは本当に強いリーダーシップを取って、さまざまなアイデアを出してくださいます。一方、僕はそれを少し噛み砕いてみんなに伝える、昨年はそんな役割分担で進めてまいりました。1年目は『絵本太功記』という大変重厚な演目を上演しましたが、緊張の中で迎えた初日には多くのお客様がお越しくださって。「新春浅草歌舞伎」では、毎回開演前に「お年玉ご挨拶」があるのですが、昨年は初の試みで、ご挨拶の後に「演目解説」というのをやってみたんです。初日の第1部でご挨拶を担当された橋之助さんが、多くのお客様がいらっしゃる客席をご覧になって引っ込んでこられて「やったね!」とガッツポーズをして解説に向かう僕を送り出してくれて…。死ぬときにも思い出すのではないかというくらい、感慨深く特別な瞬間でした。
鶴松僕は「新春浅草歌舞伎」には過去にもちょこちょこ出させていただいてきたのですが、大きなお役をいただいた昨年はやはり特別な経験でした。新しい座組という重圧の中、くにちゃん(橋之助さん)と莟玉さんがいてくれたことは僕たち他の演者にとっても大変に心強かったです。昼夜ともに『絵本太功記』をやると聞いたときはびっくりしましたが、蓋を開けてみれば大盛況。さらに、自分たちで言うのはおこがましいですが、大変評判も良かったと聞き、皆で最後まで頑張っていけました。僕は年齢は上ですが、興行的なことまで考えてしっかりと公演を引っ張っていたのは橋之助さんと莟玉さん。演目も宣伝もたくさんのアイデアや意見を出して松竹さんとご相談し、まとめていってくれました。
莟玉「新春浅草歌舞伎」は若手の挑戦の場でもあります。演目解説にしてもお芝居にしても、初めてのことにとまどいははつきものですが、それでもトライすることを恐れない、その癖をつけるのがこの場所だと思っています。先輩方も、最初に「お年玉ご挨拶」を考案された時など、さまざまな意見を受け止めてこられたはずなので、私たちもそういったことに耐える強靭さを身につけたいと思っています。また、公演のことを考える機会をいただくことで、普段のお芝居でどれだけお役だけに集中させていただけているか、そのありがたさも改めて感じました。
華やかな舞踊は新年の浅草の街ともつながる演目
莟玉お客様にも、「新春浅草歌舞伎」は「世代ごとに応援していく」という文化が根付いているところもあるので、我々新世代へのイメージを持っていただくことも重要だと思っています。1年目に「ストレートな古典をやる」という姿勢をお見せしましたが、2年目もそれを継続することができました。松竹さんとは、1年目に新たな世代はどのような感じだろうと思って観に来てくださったお客様に、2年目も来ていただくにはどうしたらよいか、という話し合いを重ねました。結果、新年にお客さまの心が華やぐような、踊りの演目をお考えいただきました。第1部、第2部ともに、1本目にたっぷりとした義太夫狂言、その後に華やかな踊り…という構成なら、終わって劇場を出たときも、新年に賑わう浅草の街との「連続性」を感じていただけるはず。「新春浅草歌舞伎」ならではの強みなので、1月に行われる他の歌舞伎公演とも違いができ、楽しんでいただけるのではないかと考えました。
鶴松僕は今年も呼んでいただいたことが嬉しかったので、まずはその期待に応えるものを見せたいと思っています。昼の部の『相生獅子』では僕の名前が最初にくる、いわゆる「書き出し」なのですが、他に中村屋がいない公演で、これは僕にとって人生で初めてのこと。大変なプレッシャーではありますが、松竹さんが認めてくださったのかと思うと背筋が伸びる思いです。また、夜の部の『傾城反魂香』では、橋之助さんと夫婦役を勤めますが、このお役は「いつかふたりでやろうね」と子どもの頃から語り合ってきた夢でもあります。そんな憧れが実現できる喜びを噛み締めながら、精一杯やりたいと思っています。
師匠筋が作り上げた特別な『藤娘』を上演
莟玉そうですね。松竹さんが公演の大枠と、「みなさんが今勉強するなら、この演目が良いのでは」とご提案くださいます。僕も「今の莟玉さんならこちらはどうですか」とご提案いただき、第1部では『藤娘(ふじむすめ)』、第2部では『男女道成寺』に挑戦させていただくことになりました。映画「国宝」でも描かれていた『藤娘』は、映画での演出以外にもいろいろなやり方があるのですが、僕の自分の養祖父にあたります六世中村歌右衛門が、六世藤間勘十郎先生、つまり今の藤間勘十郎先生のおじいさまと一緒に作りあげたやり方に挑戦させていただきます。こちらは昭和27年に初演されました。現在主流の「藤音頭」のパートが「潮来出島(いたこでじま)」という、普段お稽古曲として教えていただく際には、お子さんのお弟子さんがなさるような、非常にさっぱりとした曲に差し変わるのですが、歌舞伎座でもできるようなスケールの大きな振りにと、養祖父のために作り直された、言わば「新構成」の『藤娘』です。養祖父も大変こだわった演目のようで、昭和27年の初日には、前日の舞台稽古の時の衣裳がイメージと違ったようで、本番ギリギリまで調整した結果、『藤娘』前の休憩が1時間もあったという話を聞きました。おおらかな時代ですね(笑)。養祖父と藤間勘十郎先生が作りあげたものを僕などが…という気持ちはありましたが、それでもせっかくこの一門に入らせていただいたご縁や、「新春浅草歌舞伎」でさせていただけるということを考えたとき、養祖父が残したものにチャレンジできることはとてもありがたく、その演出、振付を「残す」ということに、大きな意義があると思い至りました。一方、第2部の『男女道成寺』は、自分が道成寺ものにチャレンジさせていただけるとは考えたこともなかったので、とてもありがたく思っています。一緒に踊る(尾上)左近さんとは、2025年の「新春浅草歌舞伎」に続き、今年の7月、8月は歌舞伎『刀剣乱舞』でもご一緒しました。僕が言うのもおこがましいですが、大変しっかりとした俳優さんなので、一緒にひとつの演目を作れるのは楽しみです。僕は年下と踊るのも初めてですし、自分がリードしていくタイプでもないので心配もありますが、ふたりで毎日「楽しいね」と思いながら出来ればと思っています。
鶴松僕が勤めます『相生獅子』では後半、獅子の毛をつけて踊るくだりが出てきます。歌舞伎の獅子舞では白い毛(白頭)は年長、赤い毛(赤頭)は年下が一般的で、過去に七之助の兄とふたりで踊った際は当然僕が赤い毛で…。それが自分のほうが白い毛をつけて踊る日がこんなに早く来るなんて! 獅子の毛を振るときは通常、上手にいる白頭に合わせるのですが、これがなかなか大変で…。勘九郎と七之助の兄弟ふたりでやったときは、勘九郎さんが七之助さんに合わせていたらしいんです。その後、私が加わって3人で踊ったときは、勘九郎さんが上手で、勘九郎さんに合わせることになったのですが、今までの分を取り返すべく思い切り毛を振ったと言っていました(笑)。上手で合わせてもらう気持ちよさを味わえるのかと思うと楽しみです。
莟玉あれ、『相生獅子』は赤毛が上手じゃない?
鶴松…(驚き顔)。いろいろなパターンがありますね(笑)?
莟玉ありますね(笑)。
鶴松夜の部の『傾城反魂香』は、先ほどもお話ししましたが、とても心に響く演目だと思っています。しっかりと「女房おとく」の心を理解し演じていきたいです。橋之助さんとこの夫婦の役を演じることは子どもの頃の夢でしたが、夢が叶うなんてことも僕は初めてで…。この浮世又平とおとくのお役は、浅草では過去に(中村)歌昇さんと(中村)種之助さんがやっていらしたり、(坂東)巳之助さんと(中村)壱太郎さんがやっていらしたりしますけれども、ここはおこがましくも「橋之助と鶴松が一番良かった!」と言っていただけるように…それくらいの気持ちで向かっていきたいと思っています。

先輩たちから続く「風通しの良い雰囲気」も守っていきたい
莟玉課題はたくさんありますが、一番大切なのは「チームワーク」だと思っています。「舞台は良かったけれど、なんだかみんなの空気が悪かったね」と言われることは絶対に避けたくて…。「風通しの良い雰囲気」は僕が「新春浅草歌舞伎」で先輩たちから学んだことのひとつです。新世代の「新春浅草歌舞伎」を一緒に作る後輩さんたちにも「それぞれがやりたいことをやっていれば、ギスギスしていてもいいんだ」とは思ってほしくないですね。世代が交代していく「新春浅草歌舞伎」ではありますが、代々繋いできている大切なものはこだわって守っていきたいと思っています。
莟玉ええ!?うーん、まぁでも「橋之助カラー」ではありますよね。
鶴松確かに。暖色か寒色かで言ったら……暖色かな。
莟玉オレンジとか!
鶴松そうですね。燃えているカラーだと思います(笑)!若手だけでやる意味というのは、みんなで助け合いながら作り上げられるということ、加えて同世代だからこそ「負けたくない」という強い思いがあって、切磋琢磨して高め合うことができることだと思っています。2026年の「新春浅草歌舞伎」も、みなで力を合わせ磨き合って、精一杯努めて勤めてまいりますので、どうぞ足をお運びください。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/中村麻子)
公演情報
INFORMATION
- 公演名
- 新春浅草歌舞伎
- 会場
- 浅草公会堂
- 公演日程
- 2026年1月2日(金)~1月26日(月)

