Interview
2023年の初演で大きな感動を巻き起こしたミュージカル『ファインディング・ネバーランド』。40代を迎え、「この作品が本当に大好き!」と語る山崎育三郎さんが、再び主人公・ジェームズ・バリを演じます。初演の手応えと共に彼自身が大切にし続ける「子どもの心」について聞きました。
山崎育三郎さん
本当に大好きな作品で、テーマに深く共感します
―― まずは、再演の決定を聞いた時の心持ちからお伺いできますか。
素直に嬉しかったですね。この作品には強い思い入れがあって、本当に大好きな作品です。僕が演じるジェームズ・バリは、想像力や子ども心をとても大切にしている人物。この作品のテーマ自体、僕自身が生きていく上でも役者としても、とてもしっくりくると思っています。3年経った今、自分がこの作品の中でどういう表現ができるのか、とてもワクワクしています。
―― 前回、実際に演じてみての手応えや発見について教えてください。
この作品にはダブルキャストで子どもたちが4人ずつ、計8人出演します。バリは彼らとの関わりの中で変化していき、最後にはバリ自身が持つ本来の想像力や自分を取り戻していく……というストーリーなので、僕も稽古場から彼らとの関係性を大切にしていました。過去にも例えば『エリザベート』や『モーツァルト!』などでも子役の子たちと共演していますが、通常、「子役であってもきちんとしていなければいけない」という稽古場の空気感があります。沢山の大人達の中で〈いい子でいる姿〉を僕も見てきました。でもこの作品に関しては、とにかく子どもたちが子どもらしく自由に表現し、気持ちよく参加できる空間を作るべきだと思っていて。だから前回は、稽古場からなるべく子どもたちにプレッシャーや緊張感を与えないように、通常のミュージカル現場とはまた違う作り方をしました。だから本当にもう、やんちゃな稽古場でしたね(笑)。
―― 「それでいいよ」と受け止めていたんですね。
そうですね。僕自身、舞台の上ではドキュメンタリーのような感覚でいました。子どもたちが本当に楽しそうに、ただそこに存在する空間が作れたことが良かったなと思っていますし、その姿に僕自身もたくさん心を動かされました。それがお客様にも伝わって、たくさんの感動を届けることができたんじゃないかなと思います。
新キャストとの間に生まれる化学反応も楽しみ!
―― 今回楽しみにしていることはありますか。
今回、フック船長役として橋本さとしさんが登場されるので、さとしさんがこの役をどう作られるのかというのが個人的にはすごく楽しみです。僕とさとしさんは、『レ・ミゼラブル』(2007年)以来の共演ですね。さとしさんがジャン・バルジャン役で、僕はマリウス役だったのですが、そこからもう20年近く経つなんて! 20年目にして再びこの作品で出会えることに運命を感じます。稽古場から楽しみですね。そして、子どもたちも入れ替わって、新しいキャストが入ってきます。だから一番は「そんな子どもたちがどう輝くか」ではないでしょうか。彼らがのびのびと自由に表現できるような空間を作りたい。実は今回の子役オーディションには僕も最終審査から参加して、子役の皆さんと一緒にお芝居をする、ということをやらせてもらったんです。もうそこから彼らのことを見ているので、今回もとてもいいものを作れるのではと期待しています。
―― 好きなシーンや、特にお気に入りの曲についてはいかがでしょうか。
ピーターと2人で歌うシーンです。父親を亡くして大人を信用できなくなり、心を閉ざしていたピーターに、バリが一生懸命向き合ううちにだんだんと壁が溶けていく。でもその後、お母さんが大きな病気で命を失うかもしれないと知ったピーターが、「なんで僕にウソをついていたんだ」とバリに対して激怒しながら自分の気持ちをぶつけるシーンがあります。その直後に2人で歌うデュエットナンバーがあって、またひとつになっていく。そのシーンは本当に何回やっても泣けるというか。前回は、稽古場から狭い部屋でピーター役の子と2人きりで歌の練習をしたり、ディスカッションをしたり、お芝居したりして繊細に作っていったので、今回のピーターがそれをどう表現するのか、とても楽しみです。
「12歳の自分がどう思うか」は今も自分のベースです
―― オーディションにご自身が参加されたエピソードを聞いても、バリという役に重なるように感じます。『昭和元禄落語心中』などオリジナルのミュージカル立ち上げにも尽力されていますが、この3年間の経験はどのようにバリを演じることに生きてくるでしょうか。
僕は今40歳になって、もう一回原点に戻っているような感覚があるんです。僕のデビューは1998年、12歳の時。子役として初めて出たミュージカルがオリジナルミュージカルで、その後の20代の頃は、『レ・ミゼラブル』や『エリザベート』『モーツァルト!』などの名作に出たいという思いがあり、30代はミュージカルとメディアの架け橋になると決めて頑張りました。そして40代を迎えた今は、日本のオリジナルミュージカルを作りたいと思うようになって…。再び12歳の頃に戻っているような感覚で、ワクワクしながら仕事に臨んでいます。「12歳の時の自分が今の自分を見てどう思うか」や、12歳の自分が「いいじゃん!」と言ってくれるかどうかは、自分の大きなベースです。そのあたりはバリにも通じる部分かもしれません。
―― 作品自体のテーマが「大人にならない心」ですが、育三郎さんはそれをずっと持ってらっしゃいます。消えかかったことはないのですか。
ないですね。大人になるとは、「空気を読むこと」でもあると思うんです。でもそれは、エンターテインメントをやる上ではマイナスになる瞬間がとても多い。エンターテインメントでは「いかに自分らしくいるか」が大切です。子どもはキラキラしていて、何を見ても新鮮で、いつもワクワクして好奇心がある。経験を重ねるにつれてそれは削られていくかもしれないけれど、僕はそういうワクワクする気持ちや、自分の心がいつも動いている状態でいないと、この仕事はできないと思っています。だからその「子ども心」が消えたら、僕はこの仕事を辞めようと思っています。実際、子役のオーディションで大切にしたのは、テクニックではなくその子自身の内側から出てくるもの。身につけた表現力を取り払った後に残る、その子らしさを見るようにしました。
―― 映像や舞台など様々なスイッチを切り替えながら活動される中で、どうすればその心を失わずにいられるのでしょうか。
「自分自身と本当に向き合う」ということではないでしょうか。他の人や周りにばかり気持ちを向けていると、苦しくなったり、比較したり、妬ましくなったりして心が止まってしまう。だから常に、自分自身と会話をする。「本当にやりたいの?」「これでいいの?」と。「自分は何がしたくて今これをやっているのか」の答えは、自分の中にあるはずで、特別な時間を取るというより、僕はいつもその意識をもつようにしています。常に気にしているのは、とにかく〈自分がどうしたいのか〉というところ。そこを辿っていくと、あまりブレずにいられる気がしますね。
明日への活力になるものがその人にとっての「ネバーランド」
―― 長年続けてこられて改めて感じるミュージカルの魅力とは何でしょうか。
やはり「総合芸術」ということではないでしょうか。歌もダンスもお芝居も、何でもできなければいけないのがミュージカル。僕は12歳からこの世界に入り、歌・ダンス・芝居を勉強し、さらに20代前半の頃からは歌って踊っておしゃべりもするディナーショーなどもやってきました。大人のお客様の前では、何をやっても「キャー!」と喜んでいただけるわけではないですからね(笑)。その後、30代からはドラマ、映画、ラジオ、バラエティ番組と色々な挑戦をさせてもらいましたが、その上で「やはりミュージカルが一番好き!」と思っています。ミュージカルを目指す人には、あらゆるエンターテインメントの基盤が詰まっていて、すべてを楽しめるということが最大の魅力。あとは、空間ですね。僕はディズニーランドが好きなんですが、それと同じで、非日常の空間に行ける、想像力の世界に行けるというところです。
―― 今回の作品のテーマである「ネバーランド」について、山崎さんはどのように捉えていらっしゃいますか。
〈ネバーランド〉というのは想像の世界であり、演劇やミュージカルがまさにそうです。非日常の空間の中に、自分が想像した世界があり、それを見ながら幸せを感じ取ったり、一緒に想像の世界に入って生きることですごく満たされる。それが「明日また頑張ろう」と思える生きる上の活力になる。それぞれの〈ネバーランド〉はアイドルでもミュージカルでも映画でも何でもいい。心がわーっと動いたり、誰かの存在に心を動かされる瞬間があることで、現実に縛られすぎずに生きていくことができる。それが〈ネバーランド〉なのではないかなと思います。僕の場合は、やっぱり〈人が喜んでいる姿〉を見ることが自分にとっての〈ネバーランド〉かもしれない。ミュージカルだろうと、テレビや映画、ラジオやバラエティだろうと、見に来てくれる人がどうしたら面白がってくれるか、どういう自分がいたら喜んでもらえるかを想像して考えるのが好きなんです。
―― 最後に、観客の皆さんにメッセージをお願いします。
ネバーランドは、それぞれが心の中に持つものです。だから答えは1つじゃない。あなたにとっての〈ネバーランド〉を見つけられれば、それはきっと人生を豊かにし、前に進むための力になります。想像力は子どもの頃は全員持っていたはずなのに、大人になるにつれてだんだん薄れていってしまう。それを「もう一回見つけようよ、あなたにとって心が動くものは何?」と問いかけるような、そんな空間になる劇を目指したいと思っています。それぞれの想像力で見えたものはすべて正解なのだと優しく肯定してもらえるような、本当に温かい作品なので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/山本春花)