INTERVIEW
今作は、コロナ禍によって甲子園出場という夢を絶たれた令和の若者・令児(藤井直樹さん)が、戦時中の昭和17年にタイムスリップしてしまい、そこでかつての令児と同じように甲子園出場を目指す昭和の野球少年・昭夫(岡﨑彪太郎さん)たちに出会う…という青春物語。通称「幻の甲子園」と呼ばれる実際に行われた大会を背景に、時代の荒波の中で奮闘する若者を演じる主演の藤井直樹さん、岡﨑彪太郎さんにお話を伺いました。
(左から)岡﨑彪太郎さん、藤井直樹さん
“令和の青年”として感じることを大切に演じたい
―― 藤井さんは令和から昭和にタイムスリップする令児、岡崎さんは昭和の熱血少年、昭夫を演じます。ご自身が演じる役柄にどんなことを感じていますか。
藤井 僕が演じる令児はもともと野球部のエース、甲子園も目指していたほど熱量のある人ですが、コロナ禍で甲子園が中止となったため、人生の大きな目標を失ったまま生きています。それが、昭和にタイムスリップしてさまざまな人に出会うことで、再び熱を取り戻していく。もともと大きな熱量を持っている令児だからこそ響いてくる出会いや出来事、そんな一本筋の通った熱量の持ち方みたいなものをうまく表現できたらと思っています。
岡﨑 僕は熱血な昭和の少年、昭夫を演じます。勇ましく見える昭夫ですが、実はとても優しくて懐の深い人間。愛国心を抱きながらも、戦争が進むにつれ、近しい人が亡くなったり、食料が乏しくなったりして、色々と感じることがあると思うんです。でも、なかなか疑問は口に出せないし、弱音も吐けない。そこが、思ったことを素直に口にする令児とは違うところだなと思っています。彼も心のどこかでは絶対に平和への想いを持っているはずなので、そのことを意識しながら演じたいです。あともうひとつ僕が気になっているのは、昭夫には「許嫁」がいるということなんです。そんな経験は初めてなので、どうやって演じていけばいいのか…。それを模索していくのが少し楽しみです(笑)。
―― (笑)。おふたりは初共演ということですし、稽古もこれからかと思いますが、今の時点でお互いの役柄と本人に共通点はありそうですか。
藤井 そうですね…役とこたちゃん本人が似ているという印象はあまり受けないのですが、ただ「優しい」という部分はマサオと共通する部分だと…あれ、マサオ!?
岡﨑 ちょっと待ってください、「昭夫」ですよ!(笑)
藤井 うわ、すみません!なんでマサオ出てきたんだろう…失礼しました(笑)。昭夫の、優しいけれど決してそれだけではなく、実は芯が強かったり、他の野球部員を引っ張っていく強さやリーダーシップがあるところは、こたちゃんと共通しているところかなと思いました。そこを舞台で見るのが楽しみです。
岡﨑 僕から見ての藤井くんは…見た目は全然野球少年ぽくはないのですが、「令和の青年感」は、スマホ使いなどを見ていても感じるので、そんな今どきの青年である令児をナチュラルに演じられていくんじゃないかなと思いました。
―― 台本を読んで感じたのはどんなことでしょうか。
藤井 戦争を題材にした作品で、大きな責任を感じました。ただ、砕けたシーンもありますし、僕が演じる令児は令和の青年なので、そこは自然に演じられるのではないかと思っています。台本を読ませていただいて、令児の心情などは理解していますが、「令和の青年が昭和にタイムスリップしてどう感じるのか」は、稽古を通して自分自身もしっかり感じながら、大切に演じていけたらと思っています。
岡﨑 僕はもちろん戦争を経験したことはないのですが、台本を通して当時の状況…例えば食料が乏しくなってしまうとか、それまで野球の練習に使っていたグラウンドが軍の訓練場になってしまうとか、そんなことがあったと知って驚きました。コロナ禍とリンクさせてお話が展開するので、自分に重ねられるところが多かったですし、見に来られる方にも共感していただけるのではないかと思っています。
―― ちなみにおふたりは、「タイムスリップ」には耐えられそうですか。
藤井 え〜、いやだけど…僕は対応しちゃうのかな。
岡﨑 僕は無理かも。今はゲームとかYouTubeとか、デジタルの娯楽が充実してるから。それがなくなったら辛いから、「娯楽まわり」が心配です…。
藤井 もしも選べるなら縄文時代にスリップして、土器とか作ったら楽しいかもしれない…。
岡﨑 藤井くんのほうが対応が早そう(笑)。
投球のフォームはダンスの振り付けのように覚える!?
―― 今作は「野球」が大きなモチーフとなっていますが、おふたりには野球経験がありますか。
藤井 実はほぼ初めてで…。キャッチボールもしたことがなく、やったことがあるのはワンちゃんにボールを投げることくらい。だから今回はすごく貴重な経験になると思います。
岡﨑 僕もあまり経験はありませんが、キャッチボールを少しと、バッティングセンターくらいは行ったことがあります!
―― それぞれどのようにアプローチしようと思われていますか。
藤井 そうですよね…。僕は長年ダンスをやってきたので、投球のフォームや体の動かし方というのは、ダンスの振り付けのように身につけていけないかな、と思っています。作戦としては、野球が上手い人の投球フォームを見せてもらって、それをコピーする!それできっとなんとかいけるんじゃないかと思っています!
岡﨑 確かにそうですよね。舞台上ではおそらく、実際のボールを投げたり打ったりはしないと思うので、僕もそんな形になると思います。ただ、実際にボールを使った野球の練習も行います。
藤井 それで言うと、実は僕たちの先輩である「なにわ男子」の藤原丈一郎くんは大の野球好きで…自分で大会を開いていたりもしているのですが、少し前に僕のこともそれに誘ってくれたんです。
岡﨑 え、そうなんですか!?
藤井 僕たちが野球に関わる作品に出ると知って声をかけてくれたんですよ。こたちゃんも誘おうとしていたみたいだけど、タイミングが掴めなかったみたい(笑)。僕も別の舞台作品の公演期間と重なってしまって行けなかったのですが、気にかけてくれたのは嬉しかったです。
岡﨑 ありがたいことですね!連絡先はわからないので…この場を借りて、丈くん、ありがとうございました。
藤井 ありがとうございました!…届くかな(笑)。
人が人の目前で演じることで伝えられるものは大きいと思う
―― 藤井さんは主演舞台が『甘美なる誘拐』、『恋ひ付喪神ひら』と続き、岡﨑さんも昨年はリーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー 』を経験されていますが、舞台作品ではどのようなことを学んでいますか。
藤井 まだまだ学ぶことだらけですが、回を重ねることで気がついたのは、その日によって響いてくるセリフが変わってくるということ。「今日はこの言葉がいつもと違うように聞こえてきた」とか、「今日はこっちの言葉にハッとした」みたいなことが起こるので、それが舞台の面白さであり魅力でもあると感じています。
岡﨑 僕も、始めた頃は舞台での動き方にも不慣れで、お客さんについついお尻を向けてしまう…なんてこともあったのですが、今はどうしたら見やすいか、表情が見えるかなども意識できるようになってきて、日々鍛えられているなという感じはします。
―― お互いへの質問や何かアドバイスすることはありますか。
岡﨑 今回は公演期間もやや長いですが、藤井くんはメンタルを保ち続けるためにどんなことをしていますか。
藤井 うーん…どうしようね(笑)? 今回は責任あるシーンも多いと思うし、それをきちんと毎回演じていくのはおそらくすごく大変だとは思うんだけど、それでも毎回新鮮な感覚というのは忘れないようにしたいよね。そのためにどうしよう、という思いではあるんだけど。
―― たまに初日の公演を見返すとか?
藤井 そうだね、大事かも。ただ稽古場でやった感じと、本番を重ねて得ていく感覚もまた違うから…。ただとにかく、素敵なカンパニーを作れたらいいなと思います。関わる人がひとり違ってもカンパニーの雰囲気は変わるだろうし、そうなると作品の雰囲気も変わってくるから、それぞれが作品を素敵なものにしようと思う心が大切なのかな、と。だから、準備するのは「心」かもしれない。
岡﨑 おお、ありがとうございます。
―― 今作を舞台で上演する面白さはどんなところにあると思いますか。
藤井 今作は戦時中の日本が舞台なので、その状況の苦しさや辛さを目の前で人が演じることで伝えられることが大きいのではないでしょうか。もちろんお芝居ではありますが、生身の人間が目の前でというのはやっぱり、感じられるものが違ってくるかな、と。僕自身は実際に戦争に行く役ではないのですが、それでも仲間が行かなければならない、送り出さなければならないという状況はどんなに苦しいか、辛いか。戦争の恐ろしさをどれだけ伝えられるかは、この作品をやる意味になっていくのかと思っています。見ている方も辛い、というシーンもあるかもしれませんが、それでもそこからまた頑張っていけるんだ、と背中を押してくれるような作品だと思います。
岡﨑 舞台の一番の良さはやはり、実際に会えること、同じ空間にいられることだと思います。舞台に立っている僕たちには、常にお客さんの様子が伝わってきます。例え声を出していなくても、ちょっとした反応でわかりますし、それを受けて僕たちもその後の芝居を少し変えることもあります。舞台にいる人は、セリフがない時間もずっとその役を演じ続けていますから、この作品に限らずですが、舞台にいる人をそんな視点で見ていただくのも面白いと思います。
―― 今年は「戦後80年」となりますが、戦争について考えることはありますか。
藤井 以前戦争を題材にした別の作品に出たことがありますが、そこで戦地に赴く兵士の手紙が読み上げられるシーンがあったんです。僕がその役を演じたわけではないのですが、戦地に行きたくはないけれど、それでも国や大好きな人たちのために心を奮い立たせる、その悲痛な決断や強い心には胸にくるものがありました。僕たちも演者として、平和な時代が長く続くように、それを伝えていけたらと思っています。
岡﨑 普段あまり意識することはありませんが、ロシアとウクライナや、中東などでは今日も戦争が続いていますし、毎年8月にはテレビで太平洋戦争のことが特集されますよね。そんなきっかけで考えることはあるので…そのきっかけとなる番組やこんな舞台は続いていくべきだなと思います。
―― 最後に、劇場に足を運んでくれるお客さまにメッセージをお願いします。
藤井 改めて、この作品で主演を任せていただいたことがとても嬉しいですし、これから作っていく中で、僕にもいろんな感情が湧いてくるだろうなと思っています。少しでも誰かを勇気づけられる、そんな作品にしていけるように頑張っていきますので、直接劇場でお会いできるのを楽しみにしてます。
岡﨑 昭和という経験したことのない時代の少年を演じる、その難しさに向き合いながら、しっかり勉強して挑みたいなと思っています。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/森 浩司)
〈衣装クレジット〉(藤井直樹)
- ジャケット ¥16,500 / LA BELLE ETUDE
- シアートップス ¥5,280 / AIVER
- パンツ ¥35,200 / JUNGLES
- ※その他スタイリスト私物
お問い合わせ先
- ヘアメイク/服部幸雄(メーキャップルームプラス)
- スタイリスト/柴田拡美(Creative GUILD)