
詩と音楽の光景
『エレクトラ』
INTRODUCTION
ギリシャ悲劇「エレクトラ」を原典に、
“復讐”と“正義”の連鎖を、言葉と音楽で立ち上げる―。
栗山民也が次なる新作として挑むのは、濃密な人間ドラマと、音楽、叙事詩的な言葉が激しく交錯する、“詩と音楽の光景”。
父を殺した母への“復讐”に取り憑かれた娘・エレクトラを演じるのは、元宝塚歌劇団花組トップスターとして絶大な支持を集め、退団後も舞台・映像と活躍の場を広げ進化を続ける明日海りお。繊細さと激情を併せ持つ唯一無二の存在感で、壊れそうな魂を抱えたエレクトラを演じる。
そして、その母クリュタイムネストラには、圧倒的な演技力で観る者を呑み込むキムラ緑子。愛する娘を失った痛みと怒りを抱え、“正義”の名のもとに夫を裁いた王妃を、深い哀しみと凄みをもって体現する。
さらに、神託という義務と母殺しの罪の狭間で激しく引き裂かれる、エレクトラの弟オレステスには、確かな演技力で人間の脆さと狂おしき苦悩を体現する中尾明慶。
そのオレステスに寄り添い、過酷な運命を共にする従兄弟ピュラデスを、瑞々しくも芯のある佇まいで魅せる渡邉 蒼が演じる。
クリュタイムネストラと共にアガメムノンを暗殺し、玉座を奪った愛人アイギストスには、確固たる重厚感と威圧感で一族の因縁を体現する徳重 聡が扮する。
また、破滅の未来を幻視し、予言を響かせるトロイアの王女カッサンドラには、圧倒的な歌唱力と神秘的な存在感を放つ豊原江理佳。
そして、戦争の影を背負いながら凄惨な現実の虚しさを炙り出し死と生の淵をさまよう酔っ払い役には、卓越した緩急で舞台に確かな説得力をもたらす山西 惇が名を連ねる。
そして、新たにメネラオス役として、石橋徹郎の出演が決定。
加えて、俵 和也、上條 駿、栗山絵美、町屋美咲、湊 陽奈、元榮菜摘、安福 毅、ユーリック武蔵らたしかな実力を備えた俳優が集い、濃密な悲劇を立ち上げる盤石の座組が完成した。
父を奪われた娘エレクトラ。
夫を裁いた王妃クリュタイムネストラ。
家族の愛と憎しみが交錯するなか、
それぞれの「正しさ」は、やがて誰かを傷つける刃へと変わっていく。
台詞と旋律、沈黙と叫び、身体と呼吸がせめぎ合いながら、観客を物語の深層へと没入させていく、まったく新しい劇空間。
これは、遠い神話ではない。
戦争、分断、暴力が繰り返される今を生きる私たちへ向けた、「正義とは何か」を問う壮大な叙事詩である。
INTERVIEW

何度も上演されてきた作品にはきっと大きな意味があるはず
明日海ギリシャ悲劇も栗山民也さんの演出も初めてで、今までのミュージカルやお芝居とも違う予感がしていて、正直不安が大きいです。自分の中で良い転機にしたいですし、自分がこのお芝居に愛されるか、武者ぶるいするような思いです。エレクトラは復讐の炎を燃やす女性で、強くもありますが、同時に脆くもある存在。非常に演じがいがあると感じています。
キムラ「ギリシャ悲劇は難しそう、あの恐ろしい世界は私には無理かも…」と最初は思いました。でも、紀元前から語り継がれ、何度も上演されてきた作品にはきっと何か大きな意味があるはず。自分自身がその世界に入って挑戦してみたいと思いました。
中尾緑子さんが無理なら僕はもっと無理です(笑)。栗山さんの演出も初めてですし、演劇経験も決して多くない中で、素晴らしいみなさんとご一緒できることが嬉しいです。作品は内容が重く、オレステスの苦しみは僕にはまだまだ背負いきれないですが、12月の本番までにしっかりと向き合い、覚悟を持って舞台に立ちたいと思います。
明日海緑子さんにはカッコいいイメージがありましたが、楽屋でお会いしたときの優しい笑顔に一気に心をつかまれました。舞台上では対立する存在ですが、魂で向かっていきたいです。中尾さんはテレビなどで一方的に拝見していましたが、役者としても、素晴らしいムードメーカーとしても頼りにしています。
キムラ明日海さんの舞台でのオーラは別格だと思います。板の上で対峙するのは怖くもありますが、自分が引き出されて頑張れるような、濃厚な時間を過ごせそうだなと期待しています。中尾さんとは10年ぶりの共演ですが、当時とても楽しかった思い出があります。
中尾いえいえ、僕も栗山さんは初めてですし、こんな状況でムードメーカーは務められないですって(笑)。もちろんそうなれたら良いですが…。おふたりは頼もしいお姉さんとお母さんなので、おふたりの大きな包容力に甘えて、舞台上ではたくさんぶつかっていきたいですね。
今までの「エレクトラ」にない「人間らしさ」を感じる脚本です

キムラ昔観た『エレクトラ』作品は、自分が若く未熟だったこともあって、どこか遠い世界の話に感じられました。でも岩切さんの台本を読むと、ひとりひとりのキャラクターがしっかりと「人間」として描かれているんですね。クリュタイムネストラには悪女のイメージがありますが、いただいた台本には柔らかな部分があり、「この人にはこの人の正義があるのだ」と伝わってきました。娘(イフィゲネイア)を奪われた悲しみを持つ、情が深く強い女性として挑戦したいです。
明日海私もクリュタイムネストラの人間らしさや、お母さんとしての葛藤・悲しみに深く感情移入してしまいました。エレクトラの弟であるオレステスも、さまざまな事情に挟まれて本当につらいだろうから、「お姉ちゃん」としては罪悪感が生まれてしまうほど。それぞれの役が信じている「正義」や「信念」が、違う側から見ると復讐の種になってしまう、そんな悲しさを感じました。
中尾「悲しい人しか出てこない」と感じました。全員が(正義と復讐の)両方の思いを持ち合わせていて、どこかで止められたらよかったのにと思うのに、突き進むことで悲劇がバタバタと起こってしまう。僕のなかでは最初から最後まで、すべてがつながって『エレクトラ』という一つの物語を描き切っている作品だと思いました。「ギリシャ悲劇」と少し構えていましたが、分かりやすく、切なく心に届く物語です。
明日海私はエレクトラを演じますが、生きている時代も住んでいるところも全く違うので、なかなか想像がつきません。ただ、父への思いだったり、父を待つ間の親子関係だったり、その辺りにお芝居の糸口があるのかな、と思っています。細かなところは稽古場で栗山さんとご相談して進めていきたいですが、それまではセリフをしっかり覚えて、イメージを膨らませていくしかないと思っています。
キムラ役作りはそこからですものね。少し偉そうな言い方になってしまいますが、「その役を演じる」ということは、「その人になる」ということ。だから、発する言葉がセリフではなく、本当に自分の言葉にできるかどうかが課題です。それにどれほどの時間がかかるかが恐怖なのですが…。今回は「詩と音楽の光景」という副題もついていますので、私もまずは滑舌良く、言葉をしっかり届けたいと思います。
明日海実は今回、「人間らしいセリフ」がとても多くて…。それを栗山さんがどんなふうに演出されるのか。舞台というのはやはり演出家さんのものなので、栗山さんの思いをしっかり聞き、その上で「自分はこれはできる、これは難しい」と稽古で試行錯誤していきたいです。だから、稽古が始まらないとなかなか想像しにくいんですよね。中尾さんは、(明石家)さんまさんの舞台に何度も出ていらっしゃいますが、どんなふうに進められてきましたか。
中尾うーん、やはりさんまさんがやりたいこと、やろうとされていることに向かって、何とか必死で着いていき、みんなで稽古を重ねていきました。そうして夢中でやっているうちに、気がつくと出来上がっている感じ。でもこればかりは、やはり実際に幕が上がるまではわからないものだと思います。
オレステスの葛藤や苦しさについては、僕が家であれこれ考えていっても、足りないところがたくさんありそう。だから、いろいろ考えたとしても、稽古場ではそれは捨てて、まっさらな状態で取り組みたいと思っています。オレステスをどうやって背負っていくのか、どこに向かっていくのか。極端に言えば、一番大切なのは「ファイト」。とにかく毎日稽古場に行きます!
イライラは「なぜ嫌だったか」を突き詰めればヒントに
明日海私は嫌なことがあってもすぐに忘れてしまうタイプで…なかなか思い出せないですね。
キムラ明日海さんは、ふだんの穏やかな様子と舞台とがガラッとお変わりになるところが素晴らしいですよね。
明日海いえいえ、それは緑子さんこそ、です。でもそこがお芝居の一番の醍醐味ですよね。私は今回、緑子さんを「正解」として追いかけていくつもりです。
キムラ私はやめたほうがいいですよ(笑)。怒りや復讐の感情については、私は「嫌だな」と思ったことがあると、メモに残しておくことがあります。そんなにしっかりと記録しておくわけではありませんが、「何が嫌だったのか」「なぜ嫌だったのか」を掘り下げることは、お芝居のヒントになることもありますから。怒りは大きなパワーになるもの。だからときには「本気で怒る」ことも必要だし、「怒らないとダメだ!」と思うこともあります。ただ、感情に任せて怒るのではなく、「何が嫌なのか」という怒りの元はきちんと把握しておかないと、と思っています。
明日海確かにそうですね。
中尾僕も明日海さんと同じくあまり根に持つことはないのですが、思ったことはその場ではっきり言うタイプ。その場で怒りを解消する分、復讐心を持ち続けずにすんでいるのかもしれません。
余韻のあるラストシーン、ぜひ劇場で感じてください
中尾今の世の中、僕たちではどうすることもできないことが多々あります。自分の日常に追われ、つい遠い出来事のように感じてしまうこともある中で、この作品に出会えたことをありがたく感じています。12月の開演まで皆さんとたくさん話し合い、しっかりと稽古を重ねて良い舞台をお届けしたいですし、栗山さんのお力を借りて新しい自分を見つけられたらと思っています。
キムラ栗山さんの舞台は絵のように美しく、役者がどこに立つかまで緻密に計算されています。そこに入る緊張感と喜びを感じます。栗山さんは長年、演劇を通して「戦争」や「今、考えるべきこと」を訴え続けていらっしゃる方です。どんな作品もそうですが、それを観たからといって明日からガラリと人間が変わることはありません。それでも、作品について少しでも考える時間を持つこと、作品を通してメッセージを訴え続けている人の存在に触れることには、意味があると思っています。
『エレクトラ』は家族の話ですが、ひいては世界の話、戦争の話、憎しみの連鎖がなぜ起こるのか、どうしたら終わらせられるのか、そんなことにもつながっているお話です。私自身もこの世界に入ってしっかりと考えていきますので、みなさんにとっても何かのきっかけになれば嬉しいです。
そうそう、今作は終わりかたも良いのです。復讐に取り憑かれたエレクトラが最後に何を思うのか。後悔しているのかしていないのか……。いろいろなことを想像させる、余韻のあるラストになっているので、ぜひ劇場で確かめていただきたいです。とても良い作品になると思います。
明日海お客様の数だけ受け取り方がある、さまざまな深い問いを含んだ作品です。豪華なキャストやスタッフのみなさんに、甘えられるときは素直に甘えつつ、自分も新しい世界に飛び込むつもりで心を込めて挑みます。今回は新作、かつオリジナル楽曲の書き下ろしもある贅沢な舞台。光と影、踊りが加わったら一体どうなるんだろうと、楽しみもあり、怖さも感じます。ガッツと体力を持って稽古場に向かいますので、どうぞ劇場に足をお運びください。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/藤本聡太)
CAST&STAFF
【出演】
エレクトラ
明日海りお
クリュタイムネストラ
キムラ緑子
オレステス
中尾明慶
ピュラデス
渡邉 蒼
アイギストス
徳重 聡
カッサンドラ
豊原江理佳
酔っ払い
山西 惇
メネラオス
石橋徹郎
俵 和也
上條 駿
栗山絵美
町屋美咲
湊 陽奈
元榮菜摘
安福 毅
ユーリック武蔵
【原作】
ギリシャ悲劇
(アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス)
【翻案】
岩切正一郎
【歌詞】
高橋亜子
【音楽】
ブランドン・リー
【演出】
栗山民也
INFORMATION
- 公演名
- 詩と音楽の光景『エレクトラ』
- 会場
- 【東京】東京建物 ぴあ シアター
- 上演日
- 2026年12月13日(日)~12月30日(水)
- 料金
- 全席指定:14,500円→《ご優待価格》平日昼13,090円/平日土日夜11,550円
- 公演名
- 詩と音楽の光景『エレクトラ』
- 会場
- 【愛知】Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 上演日
- 2027年1月16日(土)、17日(日)
- 料金
- 全席指定:14,500円

