INTERVIEW
お芝居も、音楽も、衣裳もすべて新しいから
新たな気持ちで、舞台をつくりあげていきたい
1981年のスタートからロングランという言葉では表現できないほど、日本人の心をつかんで離さないミュージカル『ピーターパン』。国内に広がるコロナウイルス禍の影響を受け、昨年は残念にも中止になりましたが、2021年は40周年という節目で、演出に森新太郎氏を迎え、すべてを一新。新しいお芝居、新しい舞台美術、新しい衣裳で登場します。しかも40周年を期して音楽も新しくなり、目黒パーシモンホールではオーケストラピットが設けられ、生のオーケストラが毎日演奏。小さいお子さんのミュージカルデビューで、生演奏の『ピーターパン』が楽しめるのは今年だけです。そして、この演奏を音源に、ツアーを回ります。
今回は、新生の舞台で4度目のピーターパンを演じる吉柳咲良さん、そして初めてフック船長/ダーリング氏を演じる小西遼生さんに、今回の舞台への思い、見どころなどを伺いました。
女優 吉柳咲良さん
俳優 小西遼生さん
―― 今回、ピーターパンのオファーをいただいたときのお気持ちを教えてください
吉柳 ピーターパン役は4度目になります。去年は中止になってしまったので、今年、また新しくピーターパンを演じられるというのはとても幸せなことだと思います。セリフも変わるし、音楽も変わる、衣裳も変わるというように、何もかも新しくなってスタートするので、初心に帰り、また新たな気持ちで演じられたらと思います。
小西 『ピーターパン』は昔から知っている作品でしたし、2014年の玉野和紀さん演出の舞台を観ています。子どもが喜んでその世界に没頭できるような仕事をしたかったので、今回はそれにもつながり、しかも誰でも知っている作品『ピーターパン』に出られるのはとても嬉しかったですね。知り合いの俳優さんも以前出演していたりするので、自分だったらどんなフック船長になるのだろうと。まだ未知の部分ですが。
―― 今回はまったく新しい演出になりますが、お二人はご自身の役にどのようなイメージを持っておられますか
吉柳 ピーターパンは一見、子どもっぽくて明るく元気というイメージです。私は中学1年生のときから3年間演じてきて、ピーターパンは、実はいちばん考え方が大人で、寂しい子なんじゃないかなと思いました。大人とはどういうものか、ネバーランドにいてわからないはずなのに、どうしてこんなに大人になることが嫌いなんだろうと、いろいろ疑問が出てきて。
今は、いちばん子どもでありいちばん大人であるのがピーターパンだと思えて。対称的な存在にフック船長がいるのかなと思ったりします。ピーターパンは複雑な感情があった方がおもしろいかもしれないと思うので、今年はそこに挑戦してみたいと思います。
小西 今回は初参加なので、演じる中で見つかることに素直に身を任せていこうと思っています。例えばフック船長の姿での写真撮影では、悪役ではありますが、どう動いたらおもしろくてユーモアがあるように見てもらえるかと考えたり。元々J・M・バリ氏の原作が好きで、ずいぶん昔に読んだのですが、かなりシニカルで、子どもより大人がいろいろ考えさせられるような作品だった印象です。森さんにお話を聞いたとき、原作のイメージを持たれていたようなので、残酷な部分もあり、でもちょっとユーモラスでありという感じになるのかなと思っています。
―― 森新太郎さんは今、注目の演出家ですが、期待することは?
吉柳 何回かお稽古を見学させていただいたことがあります。そのときに、いろいろな方から「森さんの稽古、頑張ってね」と激励頂いたので、必死にくらいついて行きたいと思っています。
小西 森さんとは初めてご一緒します。森さんは非常に演劇畑の方ですね。そして、この作品は、原作もブロードウェイのオリジナル版も、ネバーランドのシーンなどに演劇的なおもしろさをたくさん詰め込んだものだった印象があります。その演劇的な遊び方で、子どもも大人も楽しめるものをイメージしてくれる演出家が森さんではないかと、とても期待しています。
―― 吉柳さんに。コロナ禍で舞台上とお客さまとのふれあいが封じられてしまうとしたら、どんなコミュニケーションを図っていきたいと思われますか
吉柳 先日、森さんとお話させていただいたときに、「アナログ化」したいと仰っていて。小道具や美術、舞台機構などを最大限使って表現するのではなくて、観てくださる皆さまの想像力にお任せしたらというお話を聞いたので、演じる側とお客さまとで一緒に舞台をつくっていくような感じになるのではないかと思います。全員が楽しめる舞台になるよう、まだ詳しいことはわからないですが、私も皆さまに楽しんでいただくにはどうしたらいいのか、いろいろ考えたいと思います。
―― 「アナログ化」とは、具体的にどういうことですか
吉柳 今は技術が進歩しているので、いろいろな道具が使えるし、なにかを使って「これだよ」と言った方がわかりやすいかもしれません。でも、自分たちのお芝居、歌、動きがあれば観てくださるお客さまの想像力だけでも成立するのではないかということかと。だから、演じる側も想像力をふんだんに働かせ台本をしっかり読んで、頑張ってつくりあげていきたいです。
―― お二人に伺います。お会いになったお互いの印象はいかがでしょうか
小西 いや、頼もしいですよ。しかも扮装している姿を見るとすごくボーイッシュですが、ふだんはとても女の子らしいイメージで。役柄によってさまざまに変えられるのだろう、役者としてもとても素敵だろうと思わせる。キラキラした印象です。
吉柳 フック船長の姿を見たときに「本物だ!」とちょっと怖気づきました。原作や絵本には全部目を通していましたが、あまりにフック船長そのもので。私はとても緊張しやすくて、人見知りの部分があるのですが、優しくたくさん話しかけてくださって、ありがたい気持ちでいっぱいです。
―― 今回の見どころ、注目してほしい点はどんなところでしょうか
吉柳 本当に、今までとはまったく違うものになるということだけは感じていまして。これまで培っててきたものはもちろん忘れないでおこうと思いますが、本当に一から感覚で挑みたいです。今まで見たことないようなピーターパンが見られるのではないかという期待を、皆さまに持っていただければいいのではと思います。
小西 私が以前、ピーターパンを観たとき、ピーターパンとウエンディがネバーランドからお家に戻ったときに、ピータパンが後ろの方で寂しそうな表情を見せている姿がとても印象的で、ピーターパンの光と影の部分を感じました。、私が演じるもう一つの役、お父さんであるダーリング氏は大人の代表で現実的な人、でも実は愛情がある、そのような表裏一体がいくつもあって物語ができ上がっていくのが、たぶんこの作品の良いところなのではと思います。森さんが演出をされることで、よりそういう部分を深く掘り下げていかれる気がするので、大人も子どもも、観る人によって見え方が違う作品、同じ人でも、観るタイミングによって感じることが違う作品になっていけばいいと思います。
―― この舞台を通して、子どもたちに伝えたいことはありますか
吉柳 まずは純粋に楽しんでもらえたらと思います。それから、どんな作品を見ても自分なりの解釈があって、子どもならではの目線は今の私とは全然違うので、自分の視点、解釈で楽しんでもらいたいです。
また、公演を観ている表情や反応から子どもたちの個性が、演じている私たちにも毎年伝わってきます。森さんの言う「アナログ化」することで、たくさん想像力を働かせて、いろんな解釈が飛び交う劇場になればと思います。
小西 子どものうちに、ピーターパンという夢のある作品を、生の舞台で観て、生のエネルギーを感じて楽しんでもらえるのは嬉しいですね。ご家族で観に来られる方はお父さん、お母さんにとっても、おそらく良いものを観る時間になると思いますし、子どもが喜んでいる姿を両親が見られるというのも幸せですね。そんなハッピーな気持ちで、子どもたちに観てもらいたいです。
もちろん前からピーターパンのファンの方にも期待して頂きたいですけど、コロナ禍で去年は舞台ができなかったので、待っていた子どもたちにとって「やっと会えた」と思ってもらえる作品をみんなでつくっていけたらと思います。
―― 今回の公演を楽しみにされているファンの皆さまにメッセージをお願いします
吉柳 舞台を観た後の感想は一人ひとり違うとおもうので、「こういうものを届けたい」という明確なものよりも、何か問いをお渡しできればと思います。観る人によって考え方、見方、伝わり方や目線、感じること、皆さんそれぞれに受け取って帰っていただければと毎年思います。一緒に考えて、一緒に舞台をつくりあげていけるような感覚で、今年は演じたいと思っているので、そこを楽しんでいただけたら嬉しいです。
小西 大人になったら忘れがちなもの、わかっているけれどそちらに考えがシフトしないことはたくさんあると思います。でも大人も、どこかでいつまでも子どもの目線で世の中を見ていたいという憧れもあります。そういうことが身につまされる作品だと思います。
それから、ファンタジーの世界はやはりどなたも好きですよね。ピーターパンのフライングでキラキラキラ飛んでいる姿を観ると、それだけですごい世界ですし、そういうものを大人も楽しんでほしいです。
受け手のそのときの感性や気持ちによって、いろんな広がりのある作品ですから、そのときどきで発見があると思います。子どものつきそいで来ている大人の方でも絶対に楽しめるのと思います。
―― ありがとうございました