
石井光三オフィスプロデュース
ザ・ポルターガイスト
INTRODUCTION
ミュージカルからストレートプレイまで数々の舞台で活躍する村井良大が初めて一人芝居に挑みます。
フィリップ・リドリー特有のダークな世界の中にも、一筋の希望が見える物語。
主人公の青年サーシャを中心に11人の登場人物をシームレスに演じ分ける一人芝居。
ミュージカル「手紙」2025での好演が記憶にも新しい村井良大にご期待ください。
INTERVIEW
『ザ・ポルターガイスト』は、ダークで幻想的な世界観で知られるイギリスの作家、フィリップ・リドリー作のひとり芝居。2020年に本国で上演されると好評を博し、今回はおよそ1年半ぶりの再演となります。初のひとり舞台に挑む俳優・村井良大さん、前回に引き続き上演台本・演出を務める村井雄さんに作品への思いを聞きました。

演出・村井雄さん
自分の生きる「場所」を獲得していくお話です
雄さん 初演時のお客さんの反応が良く手応えを感じていたのですが、そのときは残念ながら途中で中止になってしまって。ぜひ再演できればと思っていたので嬉しかったですね。今回は良大くんの力を借りて、さらに良いものを作れればと思っています。良大くんが聞いたのは去年かな?
良大さん そうですね、僕は去年の夏くらいにお話をいただきました。もともとひとり芝居はやってみたいと思っていたのと、いただいた脚本を読んでみたら面白くて。登場人物は10人以上と多いのですが、それぞれの心情が伝わってきますし、ものすごく大変そうだとは思いつつ、不思議と「行けそう!」「行ける行ける!」と確信しました(笑)。
雄さん これは僕が演出で大切にしていることとも重なるのですが、今作では特に「場所」をきちんと描くことが重要だと思っています。「場所」とは、主人公であるサーシャが「居る場所」ですが、実はサーシャが「獲得したい場所」のことでもあります。サーシャは才能がありつつも世の中に認められていないアーティスト。本人のパーソナリティとも相まって、いわゆる「社会的弱者」とされている人物です。そのサーシャが他者と出会いながら、少しずつ自身の「生きる場所」を獲得していくという物語です。ここで僕が演出としてやるべきなのは、「今はどんな状況か」がきちんとわかるよう、具体的な「場所」を提示すること。お客さんはサーシャがどこにいるかを把握することで、彼の置かれている立場や状況を理解していきます。それはリビングだったり、庭だったり、バスルームだったりしますが、そこに他人がやってくると、そこはサーシャにとってそれまでとは違う「場所」になっていく。するとサーシャも同じサーシャではなくなり、新しい自分になっていく…。それを丁寧に描いていくことで、お客さんが自分自身とも重ねて共感できる物語になっていくのではないかと思っています。
ひとり芝居は自分の「場所」を知る機会でもある

良大さん 今はセリフを覚えている最中ですが、いつもなら人のセリフを受けることで自分のセリフが出てくる、そんな感情の流れがあるのですが、今回はひとりなのでそれがありません。相手がいるお芝居のありがたさを改めて感じているところですね(笑)。それから今作は非常にセリフが多いのですが、「ブレスをしていてはダメだな」とも思っていて。
雄さん 確かに、息を吸うとテンポが崩れてしまうことがあるよね。
良大さん そうなんです。なぜか吸えば吸うほど吐けなくなってしまう(笑)。だから、基本的にブレスはせずに読み続ける。感情を変えたり、気持ちを入れるときにはブレスしますが、とにかくブレスの使い方を意識しています。さらに継続的な呼吸を維持するためには、体幹が強くないと息切れしてしまうことにも気がつきまして…。だから今は体幹を鍛えるトレーニングもしっかりとやっています。
雄さん さっき僕は今作で「場所」を大切にしたいと言ったけれど、こうやって取り組む初のひとり舞台が、良大くんの代表作のひとつのようになれば、それもまた良大くんの新しい「場所」の獲得にもつながるな、なんてことも思いますね。
良大さん 確かにそうですよね。さらにひとり芝居は自分の今の場所、役者としての現在地が確認できる機会でもあると感じています。役者は、自分が今までに経験した楽しかったこと、悲しかったことをもう一度感じて再現して、お客さまにお見せするのが仕事。僕はそんなことを18年ほど続けてきたのですが、今作ではそれを全部出すことになるなと思っています。もちろん今回新たに経験することもあると思いますが、それらも全部ひっくるめて総決算するつもりで臨みます。もちろん、どんなに準備しても、やってみなければわからないことはたくさんありますが…。
雄さん お客さんによっても変わるしね。
良大さん はい。舞台はライブなので、お客さんからエネルギーをもらうこともありますが、自分も負けないようにしていきたいです。
舞台は人が人を見る来る場所 よいお話より素敵な人を見せたい
雄さん それはもう「いい感じ」ですよ。なにしろ同じ苗字ですし(笑)。
良大さん そうですよね(笑)。
雄さん 舞台の作り方は…僕は基本的に役者さんとはたくさん話します。それでやりたいことが見えてくることもありますからもう、ダラダラと話します(笑)。さっきお話したように、舞台は「場所」が大切だと思っています。「場所」が提示されないと、人はなかなか動けない。僕は法学部出身なのですが、法律の世界でも「法律がないと犯罪は起きない」と言われることがあります。それはつまり、法律があるから自由の範囲が決まる、その中で振るまえる、ということ。だからしっかり「場所」を作って、そこで役者さんが人間らしい振る舞いをしてくれれば、舞台はそれで成立すると思っています。僕は舞台上で生き生きと人が生きているドラマこそが作るべきもので、「キャラクター造形」をしたいわけではありません。舞台というのは結局、「人間が人間を見に来る場所」。だから、「よいお話」というよりは、よいお話の中で生き生きと動く「素敵な人」を見せたい。鮮やかな人間が見えればいいと思っているんです。

雄さん そうですね。実はこの戯曲、原文はどれが誰のセリフかもわからないような感じで書かれているんです。きちんと読んでいけばわかるのですが、曖昧なところは芝居にするにあたって少し整理させてもらいました。作者のフィリップ・リドリーさんが描いているのは、大きく言えば「サーシャのある一日」。だから究極的には登場人物たちも、「サーシャがとらえた、サーシャの中にいるその人たち」でいいと思っています。演じ分けも、厳密にキャラクターを十何種類も作ることでなくていい。人が普通に話しているときって、場所がきちんと想像されれば、わざわざ声色を変えなくても「これは本人の話じゃないんだ」とわかりますよね。そんな感じでいいのではないかと思っています。
良大さん 前に雄さんとお話したとき、「全部良大でもいいと思う」と言ってくださったことがあるのですが、脚本を読んでいくうち「なるほどこういうことか」とその意味がわかっていきました(笑)。
雄さん そういうことです(笑)。
まだ何者でもないと感じている人に見てほしい
雄さん 彼の作品は不穏な結末も多いですが、今作は決して希望がないわけではなく、むしろ人間讃歌、前向きな感じで終わるところに惹かれました。むしろこれこそリドリーさんが一番描きたかったことではないかと、そう考えると演出するにもやりがいを感じます。さらにこの作品はコロナ禍で書かれたもの。当時は盛んに「ソーシャルディスタンス」ということが叫ばれましたが、「そもそもソーシャルって何? 距離って何?」という疑問は多くの人の中にあったと思います。リドリーさん自身もリモート会議やステイホームで閉じこもっていたはずですから、その間に考えたことが、この作品でサーシャが考えることに結びついていったのかなと思います。サーシャは最後にはそこから飛び出していくのですが、すごく面白い内容ですし、まさに今やるべき作品だと思いました。
良大さん 距離とか場所とか、いろいろな意味が重なっていく面白い作品ですよね。これを何人もの役者で演じるとちょっと不気味な感じになりそうですが、ひとり芝居だからこそ、伝えられる、受け入れてもらえることがあるのではないかと思っています。

雄さん 世の中にはサーシャのようにマイノリティで、自分の「場所」を探している人はたくさんいると思います。この作品はそんな「自分は何者でもない」と感じている人、僕自身もそうですが、「この先どうなるかわからない」と思っている人、劣等感があったり、自信がない人…実はそれこそが個性だったり、人が見たら羨ましいものだったりするわけですが…そこに気がついていない人に見ていただけたらと思っています。この作品は、才能や能力と、世間から「社会的弱者」と評されることにまったく関係がないことを伝えています。サーシャも実は、才能があると言われた時代から何も変わってはいません。コミュニケーションの不得手さや、先ほど話した社会的距離によって「弱者」にされているだけ。そのことがわかると、「場所ならなんとなするからさ」という最後のチェットのセリフがすごく刺さるんじゃないかと思います。
良大さん ひとり芝居は、多人数でやる舞台に比べて「何をやるんだろう」というワクワク感が大きいと思うのですが、今作はワクワクと共に「気づき」も得られる作品ではないかと思います。誰しもが思っていることを掘り下げているので、最後は「悩んだかいがあったな」と共感したり、「どんな明日になるんだろう」と前向きになれるはず。ひとり芝居は独特の見え方があるというか、お客様も慣れるまでに時間がかかる場合もあると思うので、そんな方はぜひ2回目もご覧いただきたいです!僕自身も日によって変化するところがあるでしょうから、その揺らぎも楽しんでいただけたら嬉しいです。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/山本春花)
CAST&STAFF
【出演】
村井良大
【作】
フィリップ・リドリー
【翻訳】
小原真里
【上演台本・演出】
村井雄
EVENT
- 公演名
- 石井光三オフィスプロデュース『ザ・ポルターガイスト』
- 上演期間
- 2025年9月14日(日)~9月21日(日)
- 会場
- 【東京】本多劇場
- 料金
- 全席指定6,800円