Interview
ミュージカル『奇跡を呼ぶ男』は、伝道師を装って「奇跡」を演出し、献金を集める詐欺師ジョナス・ナイチンゲールが、旅の途中で出会った人々によって変わっていく物語。ジョナスはウソを重ねた人生から抜け出し、“本当の奇跡”を起こすことができるのか。ジョナス役を務めるのは、近年映像作品で圧倒的な存在感を放つ俳優・竹内涼真さん。ミュージカル出演は5年ぶりとなる竹内さんに、本作への熱い想いを聞きました。
竹内涼真さん
アップデートした自分で舞台の充実感を再び感じたい
―― 今作は竹内さんにとって2021年の『17 AGAIN』以来、5年ぶりとなるミュージカル出演です。初舞台を経験した当時の感想と、再び舞台に立つことを決めた理由を教えてください。
前回のミュージカル出演では、初めてのことが多く戸惑うことがたくさんありました。それでも稽古を重ねるうちに、舞台作品ならではの楽しみや「自分は稽古が好きなんだ」ということにも気がつくことができました。稽古を積み重ね、役者同士の信頼関係ができた状態で本番を迎え、舞台で生まれるものをぶつけ合う作業は本当に楽しかったです。一方でこのときは50回以上ものステージをやりきったので、しばらく舞台はいいかなとも思いました(笑)。
―― それから5年の時を経て、再び舞台作品に出演することを決めたのはなぜでしょう。
舞台ならではのライブ感とスリル、充実感がまた欲しくなったからかもしれません。映画やドラマの現場にももちろんライブ感やスリルはありますが、こちらは撮影後に編集され、多くの人の手で大切に仕上げられてから届けられます。一方舞台は、役者が積み上げてきたものをそのままお客さまの前で解き放つもの。演じる役の人生を一生懸命歩むところは映像作品と同じですが、劇場の反応や熱量が生で返ってくるところは舞台ならではだと思っています。初舞台から5年という歳月を経て、僕自身も少なからず成長しているはず。そんなアップデートされた自分で再び舞台に挑戦してみたいと思いました。
単純な正義ではない複雑な役柄に惹かれます
―― 今作にどんな印象を持っていますか。
『奇跡を呼ぶ男』は、アメリカ、カンザスの田舎町が舞台です。僕はこの作品を読んで、この物語の空気をとても感じられる気がしました。もちろん僕は日本に住んでいますし、詐欺師でもないですが(笑)。僕が演じる主人公のジョナスは、「単純な正義ではない」というところが好きですね。ジョナスは詐欺師で、一見道徳から外れているように見える人間。でも実は心の奥底に光のようなものを抱えています。でも、その光に向き合うことはなかなか簡単ではありません。なぜなら、向き合う過程では必ず、ウソを重ねてきた自分の過去とも向き合わなければならないから。それはとても怖いことだと思います。でもだからこそ、そんな彼の人生を僕らしく演じてみたいと思いました︎。
―― ジョナスは人々の前で「奇跡」を起こしてみせることで生きてきた人物です。竹内さんご自身は「奇跡」についてどのように考えていますか。
僕は20歳の頃、親に『俳優で成功します』と言ってスポーツをやめました。もしそれが実現しなかったら、この言葉はウソになっていました。でも幸い僕は今、俳優として作品を残すことができています。そんなふうにギリギリのハッタリやウソのなかにある可能性を信じて、そこに人生をかけている人は世の中にたくさんいると思いますし、ジョナスもまたそのひとりです。だから僕が思うのは、「奇跡」は起こそうと思って起こせるものではなく、何か本気で目の前のことに打ち込んでいたり、何かを信じて、そこに100パーセント自分をベットした時に「気づいたら生まれていた」というものじゃないか、ということ。そんな瞬間は自分にもあったと思います。
単なるコピーではないオリジナルを目指したい
―― 今作で描かれるのは、日本とは文化も習慣も違う世界ですが、アラン・メンケンが手掛ける音楽もまた、ゴスペル調の楽曲が多いですね。どのようなアプローチを考えていますか。
リズムの刻み方からして馴染みのあるものとは全然違います。だから正直、とてもハードルが高いですよね(笑)。
ただ僕は元々ゴスペルも含め、「Boyz II Men」や「スティーヴィー・ワンダー」などのブラックミュージックが大好きで、子どもの頃からよく聞いていたんです。だから、この作品のブロードウェイ版の映像を見たり音楽を聴いたりしたときには、「カッコいい!」と大きな感銘を受けて。これを日本でやるなら…もちろん歌い方、リズム感、グルーヴ…難しい要素はたくさんありますが、それでも何か奇跡が起こって成功するなら、それは僕がやるしかないじゃないかと思ったんです。今はまだできない自分ではありますが、幸い幕が上がる来年4月までにはまだ少し時間があります。それまでに自分を追い込んで、今は「これ、本当にできるの?」と思われているのであれば、それをひっくり返したいと思っています。そもそもこの作品自体、ジョナスの噓から始まる物語でもありますし。
―― この作品と竹内さんが持たれる情熱やエネルギーとは呼応するものがありそうです。
そうですね。これは好みもありますが、僕は例えばマンガの実写化や海外作品の日本版という作品を作るとき、「コピーする」という考えかたはあまり好きではないんです。今作も、ブロードウェイの完成された作品のコピーを目指しても、うまくいかない気がしていて…。それならもっと、みんなをびっくりさせるものを作りたい。見た人の心に届くものを作るには、「なるべくウソをなくすこと」。それはどんな状態かというと「自分の体の中で鳴っているものを自分で信じて表現できるようになること」だと思うんですね。たとえ人種や文化が違っても、作中のキャラクターの感情や感覚、人間としての根本的な部分を理解し、それを自分自身としっかり結びつけることができれば、僕の中にはきっと沸々としたエネルギーが湧き上がってくるはずなんです。元の作品でそのエネルギーは「ゴスペル」という音楽に乗せて表現されますが、僕たちが表現するなら、ゴスペルとともに自分たちがもともと持っている表現方法とうまく組み合わせて、今までに見たことのないものが生み出せるのではないかと期待しています。もちろん、この感覚を掴むまではとても大変だと思うのですが…。時間と戦いながらなんとか手に入れていきたいです。
―― そうですね。ダンスに関してはいかがでしょうか。前作では「もっと早く練習を始めたかった」とおっしゃっていました。
ダンスに関しては、今回は幸いにも2025年2月まで『10DANCE』という競技ダンスをモチーフにした映像作品に参加していましたので、以前よりかなり経験を積めた状態で始められるのではないかと思っています。それこそ一番最初にミュージカルに取り組んだ頃より、かなりレベルは上がっているかと。『10DANCE』で学んだことを活かせるところがあればいいなと思っています。
―― 最後に、来場されるお客様にメッセージをお願いします。
公演はまだ先ですが、すでに演出家のジェニファー・タン氏ともお会いし、お話することができました。とても熱い方であると同時に、俳優のことをきちんと考えてくださるので、「信じられる人だな」と安心感を覚えました。役作りについて最近思うのは、そのとき演じる役というのは、これまで生きてきた自分の人生や、今自分が感じている等身大の自分ととても深くつながっているなということです。今作の稽古は2月頃からなのですが、おそらくひとつ前の作品をやりながら自分の状態を確かめて、そのときの自分とジョナスを結びつけていくことから始まるのかなと思っています。自分の体ごと作品とリンクした、よりウソのない、ワクワクするような舞台が作れたらと思っています。
(取材・文/小川聖子)