赤堀雅秋プロデュース 「ボイラーマン」のチケット情報

赤堀雅秋プロデュース
ボイラーマン

INTRODUCTION

素性を隠し慎ましやかに暮らす主人公、悪の組織に捕われてしまった悲劇のヒロイン、主人公の相棒は実は悪の組織から送り込まれたスパイ、主人公はヒロインの前でついに己の正体をさらすことに。その名は……という物語ではないことは確かだ。何しろボイラーマンだ。地獄のように何も起こらない現実の社会に生きる地獄のように何もない凡庸な中年の男。何もない世界に生きる市井の人々。それでも作者の私にとって彼ら彼女らはヒーローでヒロインだ。そう、その名は、ボイラーマン!!!

STORY

冬、夜が更けつつある頃。
古いマンションを挟むようにY字になった二股の道があり、左には石段、右には細い路地が続いている。
電話ボックス、自動販売機、ごみ集積所、放置自転車。
何処にでもある片隅の光景に、一人、喪服の女が現れた。
続いて石段の上からは中年男。
互いをやり過ごした後、残った男は煙草に火をつけ、それをマンションの住人である中年女が見咎め、糾弾する。
体調の悪そうな警官が現れ、中年女とのやりとりから、この町で連続放火事件が起きていることがわかる。
さらには奇矯な言動の老人と、彼を庇護する様子の小柄な女、喪服の女のつれの男、マンションに住むキャバクラ勤めの若い女と彼女を追い回している様子の若くもない男という手近な関係以上には繋がるはずのない9人が、その夜、偶然Y字路の周辺で行き会った。
そこに行かねばならない、居なければならない理由はきっと誰にもなかったのに。
消防車のサイレンが聞こえてくる。
夜空が明るくなるほどの火の手が上がり、町を赤く照らし出す。
中年男は甲州街道を見出せるのか。
彷徨う9人は夜の涯てを越え、朝に辿り着けるだろうか。

MOVIE

INTERVIEW

かっこ悪い人間模様を描くことで鬱々とした世の中に希望が見出せる作品になれば…

赤堀雅秋さんプロデュースの『ボイラーマン』。作・演出・出演の赤堀雅秋さんと主演の田中哲司さん、安達祐実さん、でんでんさんに、稽古が始まった今の気持ちや今回の作品にかける意気込みを伺いました。
赤堀雅秋さん、安達祐実さん、田中哲司さん、でんでんさん
(左から)赤堀雅秋さん、安達祐実さん、
田中哲司さん、でんでんさん
── 稽古が始まりましたが、今の率直な気持ちをお聞かせください。

赤堀 正直、暗中模索といった状態ですね。いったいどこに辿り着くのかまったく見えていません。自分が文字で書いたことを役者の皆さんが生で動いているのを見たかったので、稽古初日からほぼ初見の台本で立ち稽古をしてもらいました。
赤堀雅秋プロデュースと銘打っているので、新たなチャレンジをしたいなと思っています。本来は狭いコミュニティの中でのドロドロした人間関係を描こうと思っていたのですが、それだと自分のこれまでやって来たことを踏襲してしまいそうな気がしました。新しい試みを課さないと面白くないと思いながら稽古初日を迎えています。どうなってしまうんだろうと怖くてしょうがないというのが本心です。でも、稽古している役者さんたちを見ていると面白くなりそうだなという期待感がどんどん増えていきます。

── 赤堀さんが役者の皆さんに期待されているのはどんな点ですか?

赤堀 お三方とも佇んでいるだけで何かが滲み出てくるような方々です。立っているだけで面白いんですよ。演技の技量も抜群ですが、ご自身の中では常に何かを壊そうとするなどの葛藤があるのかもしれませんね。結局はそれぞれの人が生きてきたものが年輪のようににじみ出てくるので、それを見るのが楽しみです。清濁併せ呑んで来たことが魅力になっていると感じます。
今回は明確な背景があるわけではなく、劇中の人物が思いのたけを叫ぶようなわかりやすい作品にはなりません。お客様にも事前に細かい設定はお伝えしないつもりです。役者さんの佇まいや言葉の行間の中で共感していただけるような舞台にしたいと思います。

赤堀雅秋さん
── 今回の作品に臨む意気込みをお聞かせください。

田中 稽古初日の早朝に台本が送られて来たんですが、読み進めていくうちにドキドキして来ました。それは今までの赤堀作品にないテイストだったからです。まず、1シチュエーションで場面転換がないんですよ。しかも、設定が店の中ではなく屋外で、時間も一夜で常に夜です。赤堀さんの舞台によくあるカラオケも飲み屋のママも出て来ません。演劇的に難しいところに挑戦しているなと思います。役者の存在だけで舞台を持たせるので、役者への負担が大きくなると思います。どういう仕上がりになるのか僕自身も楽しみです。赤堀さんプロデュースの舞台は何度か出させていただいていますが、これまでは映像作品の現場のごほうびで赤堀さんの舞台に出られると思っていたのですが、今回はごほうびではないですね(笑)。台本を読んだ時に赤堀さんがヤバイところに手を出してしまったのではないかと感じたので、一緒に頑張ろうという気持ちです。暗闇からいつか光が見えると信じて稽古を進めたいと思います。

安達 舞台の経験が多くはないので、緊張していますが、稽古はとても楽しいです。経験豊富な皆さんと同じ舞台に立てるというのはとても勉強になります。赤堀さんの作品に出演するのは初めてなので、どのように演出をするのか楽しみが膨らんでいく感覚です。舞台役者としてのスキルはないので、本番まで自分ができることを精一杯やるだけだと思っています。でも、田中さんから今回の作品の難しさを聞いてどんどん心拍数が上がって来ました(笑)。

でんでん 演者として内容はすごく面白いと思います。ただただ楽しみですね。舞台への出演は2年ぶりなのですが、稽古中は夢心地のような気分です。セリフが入らないといろいろと試したりもできません。全編が長くて、自分だけではなく他の役者さんとの絡みもあるので、新たな動きにトライする時間が少ないのが不安に思います。

赤堀 場面が変わらないので、役者に頼るところが大きくなると思います。作家と演出家で見解が違うので矛盾が出てくるのですが、作家としてはわかりやすく説明したいとか喜んでもらいたいという気持ちはないんです。観客を突き放すくらいの感覚でいいのではないでしょうか。演出家はもっとわかりやすく大きな声を出すようにと安易なことを言うかもしれませんね。役者に演技の技量だけを求めるつもりはありません。

でんでんさん
── 赤堀さんの作品に出演経験がある田中さん、でんでんさんから作品の魅力を教えてください。

田中 赤堀さんの作品はそのまま映画にできそうなものが多いのですが、今回は映画にはできませんね。『ザ・演劇』という感じです。

でんでん 人間臭いところが良いのではないでしょうか。人の悪いところも描くことが人間臭さであり、作品の魅力になっていると思います。人の悪いところをたくさん出して、良いところを少しだけ出すから引き立つのでしょうね。人間らしくとは違うんですよ。あるがままをぶつけていかないと、「○○っぽい」と雰囲気だけになって甘くなってしまいます。

── でんでんさんが人間臭さを出すために稽古で意識されていることはありますか?

でんでん 余分なことをたくさんやって削っていきます。初めから抑えて演じて調子を上げていこうとするとそう簡単に上がるものではないんですよ。空回り気味でもいいんです。自分が高齢になって来て、悔いのないようにやりたいなと思い、思いつくものをすべて試してみるようになりました。思いっきりやって、自分で気づいたり、演出家に言われたり、周りの反応を見たりして調整しています。この歳になってくると仲間の力をたくさん借りるようになるんですよ。自分が演じているのではなく仲間の代わりに演じていると感じています。ときどき邪魔になるかもしれませんがご容赦願います(笑)。

── 安達さんは台本を読んで、どんなところに人間の魅力を感じていますか?

安達 一人の人間でもいろんなものを持っているいびつさに魅力があるような気がします。表面で見せているものとは違うことを内包しているところが素敵なんだろうなと思います。私は不器用なのでただそこに立って、ただ生きることしかできません。嘘も必要なんだと思いますが、ちゃんと本当の心を感じているようにしています。

安達祐実さん
── 皆さん演劇作品でも映像作品でもご活躍ですが、舞台で演じることの魅力をどう感じていますか?

赤堀 舞台は基本的に観客とのコミュニケーションで出来上がると思っています。我々は稽古場でこちらの考える完成形を作らなくてはいけないのですが、お客さんに感動してもらいたいとか、何か啓蒙したいとは思っていません。100人が観ていたら100通りの受け取り方があるはずです。それは映画も同じですけどね。演劇だからどうとか映画だからこうと言うのはあまりないと思います。私の場合は映画を撮ったら舞台みたいだと言われるし、舞台を手がけたら映画みたいだと言われるんです(笑)。作品を作る時も演じる時も同じだと思います。

田中 演技に関しては舞台も映像も変わらないです。変えるほどのスキルもありません。舞台だと少し声を大きめにするくらいですかね(笑)。あと舞台はやり直しができないので緊張感が違うと思います。でも、映像作品の撮影でもNGを連発した時の緊張感は凄まじいものがあるので、緊張感も同じかもしれません(笑)。

安達 私は演劇作品と映像作品の違いがよくわかっていないのですが、映像は寄って撮影をすると見えない部分が出て来ますよね。舞台だとお客さんが好きな時に好きなところを観ることができるので、その見方が少し違うのかなと思っています。舞台はごまかしが効かないという印象です。映像作品でごまかしているというわけではないのですが(笑)。

でんでん 基本は同じですね。真剣に取り組んで全力投球するだけです。ただ、時間的な制限があり、スタートしたらカットがかけられないのが舞台。舞台も映像もクタクタになるほど疲れるのは同じです。それを楽しめるかどうかは本人次第ですね。とにかくクタクタになるので1日2回公演と聞いた時にはがっかりします(笑)。それだけエネルギーを注げるものがあるというのは喜ばしいことですね。

── 赤堀さんの稽古の特徴があれば教えてください。

田中 赤堀さんの作品では稽古初日に台本があるとは思っていません。最初は赤堀さんが台本の遅れを謝っていて、役者が「いいよ、いいよ」と許すという構図なんですが、だんだん立場が逆転してくるんです(笑)。赤堀さんから無言のプレッシャーを感じるようになります。その追いつ追われつを楽しんでいます。

でんでん 赤堀さんは作・演出と演者もやりますよね。演じている時に「俺は台本も書いて、演出もして演技もできるんだぞ」という雰囲気を醸し出してくることがあります(笑)。どんな舞台の稽古現場でもそうですが、役者は演出家が頭の中に描いている演出ではなく、別の表現を準備していくのが楽しみだと思っています。

── 安達さんは今回の舞台が「特別な修行」になりそうだとコメントしていましたが、どのように感じていますか?

安達 自分の伸びしろを伸ばして行くというポジティブな意味の修行です。できないことがたくさんあるので、まだまだできることがたくさんあると思っています。赤堀さんは稽古初日に台本がないというお話がありましたが、もし台本があったらどこまで覚えなくてはいけないのかとプレッシャーがかかるのですが、なければ覚えていかなくてもいいので気持ちが楽ですよね(笑)。先ほど田中さんから台本が来たらすぐに覚えるという掟は教えていただいたので頑張って覚えます。

田中哲司さん
── 今回の作品で描いている世界観を教えてください。

赤堀 『ボイラーマン』というタイトルから蒸発している人のイメージです。そこに存在しているのかいないのかよくわかりません。細かい役柄についてはまだ私自身もわかっていないんですよ。これまでは役名や年齢、関係性を明記するのですが、今回の作品は、役名も年齢も明記していないことです。役との距離感がこれまでと異なります。男1、女2だとその人物との距離が離れてしまうので、小柄な女、老人といった書き方にしました。
昨今の世の中は閉塞感があって、いろんな感情が飽和状態で破裂寸前だと感じています。清廉潔白でないといけないとか、これが正義だみたいな応酬に嫌気が差しているんです。そういった世の中の空気感を描きたいと思いました。田中さんが演じる中年男は家庭の不和や仕事の問題といった明確の理由があるわけではないのに、突然糸が切れたように投げやりになってしまうことがあるというのを表現したいですね。安達さんが演じる喪服の女も様々な事情を抱えながら社会性を持って生きています。この物語の中で暴発はしないと思いますが、何かしら漏れ出すものがあって、観ている方が共感できて、ひとつのカタルシスになればと思います。
横尾忠則さんの絵でY字路が描かれたものが多くあります。私の感覚なのですが、横尾さんのY字路が何とも言えず怪しげというか寂しげで、そこからインスピレーションを受けています。あと、三好十郎さんの『夜の道づれ』という小説からもヒントをもらっていますね。今回の作品で陰鬱とした世の中に唾を吐きたいなと思っています。

── 観に来てくださる方にメッセージをお願いします。

赤堀 今回に限らないのですが、人間ってこんなに無様でもいいんだという思いで作品を作っています。こういう現代だからこそ、舞台上に生きている人のみっともない姿、普段社会人としては出せない感情のうねりみたいなものを感じて、観た方が自分も同じように生きてていいんだと感じてくれたら作者としては嬉しいですね。

田中 赤堀さんの作品全体に言えるのですが、陰鬱とした世界を描きながら最後は人の優しさを感じて、人間っていいなとか、明日からまた頑張るかと感じていただけたらいいのではないでしょうか。赤堀作品ファンにとってはちょっと今までと違うので新鮮さを味わえるはずです。

安達 鬱々とした毎日に、なぜもっと自由じゃいけないんだろうと思いながら、でも踏み外さないように生きなきゃと自分を抑圧する気持ちもあります。そういう思いで今回の舞台に臨むと面白くなりそうだなという期待感でいっぱいです。イメージは箱に入っていたものがパンパンになって歪んでいく感じですね。今はどこに辿り着くのかわからないですけど、観る方によって感じ方は違うはずですが、どこに辿り着いたのか確認しに来ていただけたらと思います。

でんでん 観に来てくださる方が劇場を出る時に、喜んで帰れるような作品に頑張って仕上げるしかありません。全力でやり切ります。

(取材・文:白井由香里)
(撮影/ 森 浩司)

CAST

【出演】

田中哲司

安達祐実

でんでん

村岡希美

水澤紳吾

樋口日奈

薬丸翔

井上向日葵

赤堀雅秋

INFORMATION

公演名
赤堀雅秋プロデュース『ボイラーマン』
会場
【東京】本多劇場
上演期間
2024年3月7日(木)~3月20日(水・祝)
料金
定価(全席指定)8,500円→
《ご優待価格》8,330円