INTERVIEW
劇作家・演出家の瀬戸山美咲により「新たな未来の物語」として再構成された音楽劇『コーカサスの白墨の輪』で主人公のグルーシェ役を務めるのは、数々のミュージカルとともに、昨年は大河ドラマ『べらぼう』をはじめ映像作品への出演等、活動の場を広げた木下晴香さん。グルーシェの婚約者で戦地に赴く兵士・シモンを演じるのは、高いダンススキルと繊細な表現力で多くのミュージカルに出演する平間壮一さん。共演経験もあるおふたりに、作品の魅力と意気込みを聞きました。
人間は環境によって行動が変わるもの
—— 『コーカサスの白墨の輪』は半世紀以上前に書かれた戯曲でありながら、今も世界中で繰り返し上演される演劇界の金字塔と言われる作品です。原作にはどのような印象を持たれましたか。
木下出演が決まり、原作を読ませていただいたのですが、何十年も前に書かれた戯曲なのに、今を生きる私たちに刺さる部分がたくさんあると思いました。戦争が終わった後の混乱の中、極限状態に置かれた人たちの姿が描かれていますが、人間は本当に環境によって行動が変わるものなのだと。そこがこの作品の可能性を広げ、面白さを深めていると思いました。
平間今、晴ちゃんが言ったように、人は自分を取り巻く環境、例えば周囲の「これは当たり前」という認識やルールによって、全然違う存在になってしまうところが怖いと思いました。今作は瀬戸山さんが「未来の戦争が終わった後の物語」として脚本も書き下ろし、再構成されています。どんなルール、どんな世界になっていくのか、楽しみにしています。
—— 木下さんは戦争、戦後の混乱の中から赤ん坊を救い育てる料理女・グルーシェ、平間さんはその婚約者である兵士シモンを演じます。今の時点で役柄への印象や手がかりはありますか。
木下原作で印象的だったのは、恋人同士であるふたりがとても詩的、ポエティックな距離感で描かれていたことです。「このふたりだから惹かれあったんだ」というのがわかるような描写になっていたので、その深い関係性をつかんで表現できたら、と思っています。一方でグルーシェはかなり追い詰められる存在で、原作には赤ん坊を抱えたまま、裸足で逃げる描写などもありますから、とにかく心身ともに消耗しそうだなと覚悟しています。私自身、しっかりと自分を追い込んで頑張りたいと思っています。
平間晴ちゃんとは何度か共演していますが、グルーシェと共通するところは多い気がします。晴ちゃんは外に対してはとても優しいのですが、見えない深いところでは自分に厳しくストイックで、お芝居にしても裏でたくさん練習していたり…という一面があって。グルーシェも優しさと同時にそんなストイックさや芯の強さを持っている女性なので、シモンもそこに惹かれたのではないか…なんて今は考えています。
木下ありがとうございます。
平間この戯曲は半世紀位以上前に書かれたものですが、僕は当時は「愛」というものがもっと深かったんじゃないか、というふうにも想像しています。グルーシェやシモンたちの時代には、もっと絶対的な確信みたいなものがあったんじゃないかなと。そのあたりはこの先稽古をしながら見つけられたらいいなと思っています。
ギリギリの状況だからこそ出てくる言葉や行動がある
—— 今回演出を務める瀬戸山さんは「人間とは何か」をテーマにしているとお話しされていました。おふたりはこの作品のどんなところに魅力を感じていますか。
木下この作品ではギリギリの状況下だからこそ起こす行動、口をついて出てくる言葉というのが多い気がします。最初に原作を読んだ時は、グルーシェは「ものすごく怖いもの知らずの子だな」と思ったんです。「思ったことをそんなに言ってしまっていいの?」と驚くところもあったのですが、逆にギリギリの状況だからこそ、まっすぐな言葉が出たり、行動が起こせるのかもしれないとも思い直しました。
平間確かにそうかもしれないですね。
—— 役者さんは舞台上で「ギリギリの状況下で選択する」という瞬間を何度も経験されているかと思いますが、やはり実際には難しいと思われますか。
平間そうですね。僕は自分が演じる役に、「いやいや、そんなことするわけないでしょ!」と、ツッコミを入れることもありますよ(笑)。本番はもちろん、その人物の気持ちになって演じますが、実際に自分が同じようにできるかと言ったら、なかなかできる気はしないなって。
木下そうですね。私は、お芝居を始めたばかりの頃は、台本を読んで、演じる人物の心情を理解し、「なぜこうするのか」という動機を探して、頭で理解しようとしていたのですが、中にはどうしても理解しきれない行動もあって…。でもそれはそのキャラクターの本能的なものなので、その場に直面したときの閃きや直感が大切なのだと最近は考えるようになりました。どの瞬間も役としてありのまま舞台の上にいられるよう、稽古でたくさんトライ&エラーを繰り返し、準備していきたいと思っています。
平間役者は頭も体も使う仕事ですが、僕自身は私生活でも「体が先に動く」ということが多いんです。困っている人を見かけたとき、「手を出すとちょっとややこしくなっちゃうかも」と頭では躊躇を感じるのですが、気がつくと体のほうが動いちゃう(笑)。「優しいね」と言っていただくこともあるのですが、自分では「そういうわけでもないんだけど」なんて思うこともあって不思議な感じです。体と心が少し別の動きをすることもあるんですよね。
「言葉」について改めて深めていきたい
—— 平間さんがおっしゃった「体」と「心」のほかに、人間には「言葉」もあります。作品に寄せた瀬戸山さんのコメントには、「言葉があるから人間は争いをやめられない」という指摘もありました。木下さんは瀬戸山さんが手がける舞台に何度か出演されていますが、どのような印象をお持ちですか。
木下初めて瀬戸山さんとご一緒させていただいた舞台『彼女を笑う人がいても』(2021年)は、瀬戸山さんがオリジナルで書かれた脚本でした。本番で、私はその瀬戸山さんが書いた言葉たちに支えてもらいながら舞台に立っていたという感覚があって…。厳しい現実を見据えながらも、同時に希望を感じさせてくれる、瀬戸山さんの紡ぐ言葉が私はとても好きでした。ですから、今回も脚本が届くのは本当に楽しみです。それに私は勝手に、壮ちゃんと瀬戸山さんは共鳴するところがあるんじゃないかと思っています。おふたりと作品を作れることが嬉しいです。
平間僕は今回瀬戸山さんとは初めてなのですが、きっと晴ちゃんが瀬戸山さんとの橋渡しをしてくれるんじゃないかなと安心しています。僕は初対面の人に自分の思いをうまく伝えられないことがあって…。それこそ「言葉」って本当に難しいと思います。でもそれを、「こういうことを言いたいんだと思いますよ」と通訳してくれるのが晴ちゃんで、いつも本当に助けられています。そんな「言葉」をめぐる勘違いやすれ違い、真意についての話も、瀬戸山さんとお話し、深められたらいいなと思っています。
木下私は今作ではもちろんですが、これからも自分の中に「言葉」をしっかり蓄えて過ごしていきたいと思っています。今年の目標でもあります。
—— 最後に、作品の見どころやお客さまのメッセージをお願いします。
木下「過去から学ぶ」という作品は多いと思いますが、今作は設定を今より少し未来に置くことで、「こうなれたらいいね」「こうならないようにしたいね」を一緒に考えるきっかけになるようなものになっていると思います。また、新たに楽曲を作っていただいている「音楽劇」でもありますので、そこも大きな見どころです。歌えるメンバーが揃っていますし、ぜひ楽しみにしていただだければと思います。
平間新たに書き下ろされる楽曲の中は、今どきらしい音楽だという話も聞いていますし、衣装やメイクなどのビジュアルも含め、新しい挑戦がたくさん詰まっている作品です。例え不安があったとしても、やっぱり「挑戦」というのは、やったほうが絶対に楽しいと改めて思っています。僕たちにとっては2026年最初に迎える舞台、みなさんが後で振り返っても大切にしてもらえるような作品を目指しますので、どうぞ劇場に足をお運びください。
(取材・文/小川聖子)