INTRODUCTION イントロダクション

トップクリエイターたちの手で舞台化された村上春樹の代表作がついに再演!

世界的に評価される村上春樹の傑作長編『ねじまき鳥クロニクル』を、イスラエルの奇才 インバル・ピントが気鋭のアミール・クリガーと共に演出し、日本演劇界の俊英 藤田貴大が脚本を、映像作品を数多く手掛ける大友良英が音楽を手掛けた創造性豊かな意欲作。2020年の初演時に、公演期間の短縮を余儀なくされた伝説のステージが、ついに今秋11月に再演される。

初演から引き続き、主人公の岡田トオル役は成河と渡辺大知が二人で一人の人間の多面性を演じ、村上ワールドにいざなう不思議な女子高生・笠原メイ役を門脇 麦が演じる。

圧倒的な悪として存在する綿谷ノボル役は、初演で衝撃的なダンスシーンを見せた大貫勇輔と、新たに、バレエダンサーとして世界的に活躍し現在は俳優としても多くの舞台に出演する首藤康之がダブルキャストで務める。
トオルを不思議な世界へ導く加納マルタ・クレタ姉妹役は、昨年退団した宝塚歌劇団で娘役として歌・ダンス・芝居の技量が高く評価された音くり寿が新たに挑む。
さらに初演でこの壮大な物語をクリエイターと共に創り上げた松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ、吹越満、銀粉蝶が再演でも演じ・歌い・踊り、表現していく。
またインバル・ピントによる唯一無二の振付を、加賀谷一肇、川合ロン、東海林靖志、鈴木美奈子、藤村港平、皆川まゆむ、陸、渡辺はるか、8名の表現力豊かなコンテンポラリーダンサーが魅せる。
観客を異世界へ導く生演奏は大友良英、イトケン、江川良子の3名が続投する。

STORY ストーリー

岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく――。

物語は、静かな世田谷の住宅街から始まる。主人公のトオル(成河/渡辺大知)は、姿を消した猫を探しにいった近所の空き家で、女子高生の笠原メイ(門脇 麦)と出会い、トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれる。赤いビニール帽子をかぶった“水の霊媒師”加納マルタが現れ、本田老人と間宮元中尉によって満州外蒙古で起きたノモンハン事件の壮絶な戦争の体験談が語られる。

そしてある日、妻のクミコが忽然と姿を消した。クミコの兄・綿谷(わたや)ノボルから連絡があり、クミコと離婚するよう一方的に告げられる。クミコに戻る意思はないと。だが、クミコ失踪の影には綿谷ノボルが関わっているのではないかという疑念はしだいに確信に変わってゆく。トオルは、得体の知れない大きな流れに巻き込まれていることに気づきはじめる。

何かに導かれるように隣家の枯れた井戸にもぐり、クミコの意識に手をのばそうとする主人公トオル。世田谷の路地から満州モンゴル国境まで、クミコを取り戻す戦いは、いつしか時代や空間を超越して、“悪”と対峙する“ねじまき鳥”たちの戦いとシンクロする。暴力とエロスの予感が世界をつつみこむ……。

はたして、“ねじまき鳥”はねじを巻き、世界のゆがみを正すことができるのか? トオルはクミコを探し出すことができるのか――。笠原メイとふたたび会えるのか。

INTERVIEW インタビュー

再びあの不思議な世界の住人になれることが嬉しいです

2020年の初演時に続き、“圧倒的な悪”として存在する綿谷ノボルを演じる大貫勇輔さん。近年はミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 〜北斗の拳〜』のケンシロウ役が高い評価を得たほか、2023年は大河ドラマ『どうする家康』での浅井長政役も話題を集めるなど、目覚ましい活躍を見せている。3年ぶりに綿谷ノボルを演じる現在の心境や、作品にかける意気込みを聞いた

大貫勇輔さん
俳優 大貫勇輔さん

初演で「衝撃的」と言われたクレタとのダンスシーンが見どころ

── 2020年の初演につづき、このたび3年ぶりとなる『ねじまき鳥クロニクル』で、大貫さんは再び綿谷ノボル役を演じられますね。まずは、今のお気持ちからうかがえますか。

2020年の公演はコロナ禍により、東京の数公演と、大阪での上演が中止になってしまいました。やはり、全公演できなかったことへの心残り、悔しさがありますので、こうして再び同作に取り組めるというのは本当に嬉しいことです。3年たった今だからできる、新しい『ねじまき鳥クロニクル』があるはずなので、それを探していきたいです。

── この3年でご自身が変わったところはありますか。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 〜北斗の拳〜』で主演をやらせていただいたことは大きいです。もちろんまだまだではあるものの、自分の中では役者としての自信がつきました。そんな成長した実感を携え、再び綿谷ノボルに臨んだら、自分がどう変化しているのか、どう進化しているのかが感じられるかと思いますので、それが楽しみでもありますね。

大貫勇輔さん
── 再び取り組む綿谷ノボルというキャラクターをどう作り上げるか、すでに何か考えていらっしゃることはありますか。

そうですね、いろいろと考えてます。綿谷ノボルは、決して感情豊かなキャラクターではなく、感情に起伏がない中、淡々としゃべって、偉そうにして……という人物です。歩いて、踊って、座った状態で歌って……という動きの中、どれだけ「怪しさ」を出せるのか、そんなところが課題になるかなと思っています。また、この役では劇中で歌を歌うのですが、前回は音程を取るのも必死、というところから始めたのですが……あれから僕も経験を積み、今回は恐らくもう少しいろいろなことに意識を向けて歌うことができるようになっているのではないかと思っています(笑)。大きな見どころとしては、クレタに乱暴する様子を踊りで表現するシーンですね。本当によく考えられた振り付けですし、照明とのコントラストも見事で……お芝居なのか、踊りなのか、その境界が曖昧なところがインバルらしく、演出とあいまって素晴らしい総合芸術になっています。僕の良さが発揮できるシーンでもありますね(笑)。

── 前回も話題になったシーンですね。悪役を演じる楽しさのようなものはありますか。

それは役によりますね。綿谷ノボルは正直、楽しいとは言えないですよ(笑)。もちろん精一杯演じるのですが、明るくもないし、性格も良くないし、人を傷つけるし……。悪役で言えば、少し前に、ミュージカル『マチルダ』でミス・トランチブルを演じたのは楽しかったですよ。子どもたちを恐怖で押さえつける人物でしたが、ビジュアルも強烈でしたし……。綿谷ノボルを演じる楽しみな点を挙げるとすれば、今回綿谷ノボルは僕の憧れのダンサーである、首藤康之さんとのダブルキャストであるところです。首藤さんとは前に一度だけお会いしたことはあるのですが、今回のようにしっかりコミュニケーションを取るのは初めて。首藤さんがどんなふうに綿谷ノボルを作りあげていくのかを見るのが楽しみですし、その姿からはきっと影響を受けたり、刺激をいただいたりということがあると思います。僕が作るものとはきっと全然違うものになるでしょうから、そこは予測がつきません。でもだからこそ本当に楽しみにしています。

大貫勇輔さん

人間の思考はこんなにも自由なのだと驚されます

── 次は、作品自体について教えてください。舞台『ねじまき鳥クロニクル』はどんなところが魅力だと思われますか。

今作は、イスラエル出身のインバル・ピントとアミール・クリガーが演出を務め、藤田貴大さんが脚本を、大友良英さんが音楽を手がけた作品です。舞台は、原作を読んだときの、夢なのか現実なのかわからなくなる感じや、なにか不思議な映像を見ているような感覚が見事に表現されていてとても美しいんです。僕はこの舞台の世界観が大好きなので、再びあの世界の住人になれることが嬉しくて。2020年度の上演では、村上春樹さんご本人もとても喜んでくださったことを覚えています。

── 前回公演で印象に残っているシーンはありますか。

間宮中尉を演じた吹越満さんのシーンですね。あのシーンは稽古にとても時間をかけたんですよ。夢のように移り変わっていくセットチェンジもいいのですが、照明をどのタイミングで切り替えて、小道具を誰がいつどこで掴んでという細かなところもしっかりと詰めて。大変でも、こだわって時間をかけて作ったシーンは面白くなるんだと実感しましたし、吹越さんが演じる間宮中尉がとにかく素晴らしくて……。とても好きな時間です。今回はダブルキャストなので、客席からも見られるんじゃないかな。それも楽しみですね!

── 大貫さんは、『ねじまき鳥クロニクル』という作品自体には何か印象をお持ちですか。

そうですね、僕は作品が伝えるメッセージももちろんですが、「あぁ、人の思考ってこんなにも自由なんだ」「人間の可能性って無限なんだ」ということを一番強く感じました。「村上春樹さんの頭の中はどうなっているんだろう」ということとか……そんな村上さんの偉大さ、人間の偉大さみたいなものが感じ取れる作品だと思っています。

── 最後に、劇場に足を運んでくれるお客さまにメッセージをお願いします。

僕は近年、特にこの一年は舞台から映像まで本当に幅広く、いろいろな役をやらせていただき、「役者になってよかったな」「役者って楽しいな」と思うことが増えています。前回の舞台『ねじまき鳥クロニクル』をご覧になった方には、そんな3年間を過ごした僕の進化も見ていただきたいですし、初めての方にもぜひこの不思議な世界を体験していただければと思っています。前回は、「チケットを持っていたのに見られなかった」というお声もたくさん聞きましたので、そんな方にもぜひ! ようやくとなりますが、見ていただけたら嬉しいです。それから実は僕、『ねじまき鳥クロニクル』と同じ時期に『ハリー・ポッターと呪いの子』にも出演しているんです。『ハリー・ポッターと呪いの子』の本番を行いながら、今作の稽古をして本番を迎える……映像作品と舞台の同時進行はありましたが、舞台と舞台は初めてで。まるで違う役を演じるので、自分でもどうなることやら(笑)。劇場に足を運んでくださるお客様の中に、二役の違いを楽しんでくださる方がいたら役者冥利につきますし、大変嬉しく思います。

(撮影:森 浩司)
(取材・文:小川聖子)

CAST&STAFF キャスト&スタッフ

【キャスト】

<演じる・歌う・踊る>

岡田トオル:成河
岡田トオル:渡辺大知
笠原メイ:門脇 麦
綿谷ノボル:大貫勇輔/首藤康之(Wキャスト)
加納マルタ/クレタ:音 くり寿
赤坂シナモン:松岡広大
岡田クミコ:成田亜佑美
牛河:さとうこうじ
間宮:吹越 満
赤坂ナツメグ:銀粉蝶

<特に踊る>

加賀谷一肇
川合ロン
東海林靖志
鈴木美奈子
藤村港平
皆川まゆむ

渡辺はるか
(五十音順)

<演奏>

江川良子
イトケン
大友良英

【スタッフ】

【原作】村上春樹

【演出・振付・美術】インバル・ピント

【脚本・演出】アミール・クリガー

【脚本・作詞】藤田貴大

【音楽】大友良英

EVENT 公演情報

メインビジュアル
公演名
舞台 『ねじまき鳥クロニクル』
会場
【東京】東京芸術劇場プレイハウス
上演期間
2023年11月7日(火)~11月26日(日)
料金
定価 S席:平日10,800円/土日祝11,800円→
《ご優待価格》S席:平日 9,095円/土日祝 11,180円

販売終了