『明治座十一月花形歌舞伎』メインビジュアル

明治座十一月花形歌舞伎

演目
PROGRAM

一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

車引

松王丸・・・・・坂東 彦三郎
梅王丸・・・・・中村 橋之助
桜丸・・・・・中村 鶴松
藤原時平・・・・・坂東 楽善

長谷川 伸 作
村上元三 演出

二、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)

駒形茂兵衛・・・・・中村 勘九郎
お蔦・・・・・中村 七之助
堀下根吉・・・・・中村 橋之助
若船頭・・・・・中村 鶴松
酌婦お松・・・・・中村 梅花
波一里儀十・・・・・喜多村 緑郎
船印彫師辰三郎・・・・・坂東 彦三郎
老船頭・・・・・市川 男女蔵

三、藤娘(ふじむすめ)

藤の精・・・・・中村 米吉

一、鎌倉三代記(かまくらさんだいき)

絹川村閑居の場

佐々木高綱・・・・・中村 勘九郎
時姫・・・・・中村 米吉
おくる・・・・・中村 鶴松
阿波の局・・・・・中村 梅花
母長門・・・・・中村 歌女之丞
三浦之助義村・・・・・坂東 巳之助

四世鶴屋南北 作
渥美清太郎 改訂
於染久松色読販

二、お染の七役(おそめのななやく)

中村七之助早替りにて相勤め申し候

浄瑠璃「心中翌の噂」(しんじゅうあしたのうわさ)

油屋娘お染/丁稚久松/許嫁お光/
後家貞昌/奥女中竹川/芸者小糸/土手のお六・・・・・中村 七之助
鬼門の喜兵衛・・・・・喜多村 緑郎
油屋多三郎・・・・・坂東 巳之助
船頭長吉・・・・・中村 橋之助
丁稚長松・・・・・坂東 亀三郎
腰元お勝/女猿廻しお作・・・・・中村 鶴松
山家屋清兵衛・・・・・坂東 彦三郎
庵崎久作・・・・・市川 男女蔵

インタビュー
INTERVIEW

新型コロナウイルス感染拡大の影響で全公演が中止となったあの日から4年。明治座十一月花形歌舞伎に中村屋が登場します。中村勘九郎さん、中村七之助さんを中心とした座組で、昼の部・夜の部と多彩な演目でお届け。今回は勘九郎さん・七之助さんご兄弟に「明治座 十一月花形歌舞伎」にかける想いや作品の見どころを伺いました。

(左から)中村七之助さん、中村勘九郎さん
(左から)中村七之助さん、中村勘九郎さん

4年お待たせした分、チーム一丸となって歌舞伎の“心”を伝えます

―― お二人が共演される『一本刀土俵入』でそれぞれの役を演じる中で意識されていることを教えてください。

勘九郎 風景が大切になってくるので嬉しい、悲しいといったストレートな感情もそうですが、その風景を見ている時の心情を表現することが鍵なんです。セリフに心を込めるのはもちろんですが、気を抜いてしまうとただ流れていくだけになってしまいます。茂兵衛として生きないと粗が見えてしまうんですよ。その役柄になってしまえば何を言っても何をやっても大丈夫だと父(十八世中村勘三郎)から教わりました。

七之助 お蔦は様々な演じ方があると思いますが、親身になって聞いている部分もありつつ、同情しすぎてもいけないし、反対に冷たくなったり、怒ったりしてはいけません。日常の自然な空気感を出せるように意識しています。お酒を飲む場面があるのですが、以前1ヶ月公演をやらせていただいた時に飲むお酒の量を変えて試してみました。お酒を1杯、2杯と変えてみて、飲まないことも飲みすぎてしまうこともありましたね(笑)。そうすることでどんどん空気感が出てくるんですよ。
原作者の長谷川伸さんがすごいのは、物語の中で時間が一気に10年飛ぶことです。10年の間をお客様自身がそれぞれ想像していただきます。最近ではすべて説明しないとわからないと言われてしまうのですが、この作品は10年という時間をお客様がどう埋めていくかは自由なんです。休憩ではなく場面転換だけで10年経ってしまうというのが面白いですよね。前半と10年経った後半とでお蔦が別人格に見えないようにすることも大切にしています。演じる我々もその10年で何をしていたかなと考えて演じていますね。
昔の役者の芝居を見るといろいろな演じ方があって、様々な心の出し方があります。私たちが昔の歌舞伎の悪い部分をなぞってしまって取り入れてしまうということがあるんですよ。私の個人的な意見ですが、昔の演じ方を真似する時にその人の悪いところを模倣してしまいます。悪いところが良く見えてしまうので気を付けないといけません。最初に演じた方は想いがあってやっているので悪くないんです。真似する時に気持ちがないことが良くないんですね。

勘九郎 本作のような「股旅物(またたびもの)」が歌舞伎の代表的なものになってきているので、習っておいてよかったなと思います。例えば、もし習っていなかったら、茂兵衛の草鞋は相撲取りがする結び方になっているとわかりませんでした。足首を守るための結び方ですが、その名残で渡世人(とせいにん)になってからもその結び方をしているんです。年中履くものは習慣でずっと同じ結び方をしてしまいますよね。茂兵衛は一途な人なので私もその結び方を貫いています。あとは、当時相撲取りから渡世人になる人が多かったそうですが、道の真ん中を歩かないということが書かれていました。それを知って、私は花道の少し端側を歩くようにしています。これは観ているお客様にはわからないと思うのですが、気持ちの部分で意識していることです。こういった細かい口伝が非常に大切になってきますね。

七之助 これが歌舞伎の型になっていくわけですね。理由を知らないでただ言われた通りにやるのと、渡世人だから人に道を譲ると知っていて歩くのでは醸し出すものが全く異なりますよね。しかも、人に道を譲ることが茂兵衛らしくもあります。そのこめられた気持ちを忘れないということが大切です。

勘九郎 群像劇なので本当に難しいんですよ。昔は良かったと言いたくないのですが、昔の役者はセリフの先に景色が見えるんです。それが出演者全員でないといけません。今後の目標は全員が意識高く持ち、ただセリフを言うだけではなく、みんなが同じ方向を向いてやらなければ観ているお客様をその時代にタイムスリップさせることはできないと思います。

中村七之助さん、中村勘九郎さん
―― 『一本刀土俵入』の作品としての魅力はどんなところでしょうか?

勘九郎 受けた恩を10年越しで返すという、現代人が忘れがちな人と人との繋がりや人の温もりに溢れています。でも、本来はみんな人と繋がって楽しく生きていきたいと思っているものなので、それを呼び起こさせてくれる作品です。人情に触れていただけたらいいなと思います。
長谷川伸さんの台本を読んでいてハッと気づいたことがあります。「こんな姿に成り下がりまして、お目通りは致さないつもりだったんでごぜえますが、10年ぶりにこっちの方に流れてきたんで思い出し」という台詞があるんです。茂兵衛はどこかしらにお蔦から頂いた巾着と櫛簪があるのですが、こっちに来てちゃんと思い出したというのはなかなか味噌だなと思いました。その時の茂兵衛の気持ちでやらないといけないなと改めて思いましたね。

―― 勘九郎さんは『鎌倉三代記』の佐々木高綱役が今回初役ということですが、初役に臨む際に心がけていることはありますか?

勘九郎 高綱役はずっとやってみたいなと思っていました。とにかくぶっ飛んでいる男の役じゃないですか(笑)。かっこいいを追求する役作りをしています。最初は三枚目な雰囲気でひょうひょうと登場して、槍を引っ掛けて上がってくるというTHE不気味な部分もあるので面白いですよね。義太夫さんとの掛け合い、乗地(のりじ)の魅力がふんだんに詰まった作品なので、音楽的な楽しさもあり、バラエティに富んだ演目です。
歌舞伎の時代劇ものは良くできている作品からあまり良くないものまであります。出来がイマイチでもスケール感だけですごく見せてしまうものもあります。本作は鎌倉幕府に対する反骨精神が凝縮した名作です。義太夫狂言の中でも三姫の中の一つに数えられる作品でもあります。

―― 七之助さんの代名詞と言われている『お染の七役』ですが、何度も演じているからこそ意識されていることはありますか?

七之助 初心を忘れないように心がけています。ただ衣裳の早替りを見せるだけでなく、それぞれのキャラクターやお話が詰まっています。早替りショーにしようと思ったら、生地を薄くした衣装を重ね着してどんどん脱いでいけば可能ですが、それは本質ではないんです。セリフや仕草で役が伝わるようにしないといけません。若い女性だから高い声を出せばいい、後家(夫と死別した女性)だから低い声だということではないんです。上手い落語を聴いてみなさいと教わりました。女性だから女性っぽく、男性だから極端に低い声にしてはいません。声のトーンは同じですが、仕草や雰囲気で演じ分けています。舞台に出てきた瞬間に、「若いお嬢さんだろう」「キャピキャピしているな」というのがお客様に伝わらないといけないと口酸っぱく言われてきましたね。
七役の女性それぞれの手の仕草や首の傾け方などはすべて玉三郎のおじさま(五代目 坂東玉三郎)から学びました。玉三郎のおじさまもおっしゃっていたのですが、土蔵の場面で久松を演じるあたりが体力的に厳しいですね。「パワーブリーズ」で呼吸筋トレーニングをするようになってから息が切れなくなったので、ラクになりました(笑)。玉三郎のおじさまからかなり細かく、厳しく所作を教わったんですが、最後、花道の上げ幕に来た時に「はい、全部忘れなさい。あなたが中村座を揺らすのよ」と言われたんです。稽古したんだからあとは自信を持ってお客様の前に出なさいと言うことだと思います。

勘九郎 (玉三郎のおじさまは)日本代表の良い指揮官になるね(笑)。血反吐を吐くような練習をさせられて、試合前にそんなこと言われたら間違いなく士気が上がりますよね。

中村七之助さん、中村勘九郎さん
―― 七役の中で鍵となるのはどの役でしょうか。

七之助 純粋に演じていて楽しいのは莨屋(たばこや)を営む土手のお六、最も重要だと思うのは前半に登場する許嫁お光ですね。前半に出さない方もいらっしゃいますが、お客様のためにも出した方が良いと思います。お染とお光の対立から気が触れてしまうということに繋がっていくところが見どころですね。

―― 『お染の七役』の見どころを教えてください。

七之助 演じている側は気持ちだ仕草だといろいろなことを考えていますが、そんな理屈は抜きに肩の力を抜いて観ていただける作品です。いろんな女形がありますし、おかしみもふんだんに散りばめられているので、シンプルに楽しんでいただければと思います。

―― 最後に観に来てくださるお客様にメッセージをお願いします。

勘九郎 2020年にお見せできなかったものが念願叶ってようやくご覧いただけるのが非常に嬉しいです。チーム一丸となって良い芝居をお届けできたらいいなと思っています。11月は歌舞伎座が改装中で大型公演は観ることができないと思うので、是非明治座に足をお運びください。

七之助 いろんなジャンルの作品を取り揃えていますので、昼夜共にご覧いただければ歌舞伎の魅力が存分に味わえる演目立てとなっています。明治座の周りは芝居町でまだその雰囲気が残っていると明治座・三田社長もおっしゃっていました。公園に老舗の食事処、新しいカフェなど花形歌舞伎の公演前後も1日を通して楽しめますので、満喫していただければと思います。

(取材・文:白井由香里)
(撮影:中村麻子)

公演情報
INFORMATION

公演名
『明治座十一月花形歌舞伎』
会場
明治座
公演日程
2024年11月2日(土)~11月26日(火)
料金
1等席(1階席・2階席正面):15,000円⇛《優待価格》12,000円