INTERVIEW
1926年、ミステリーの女王アガサ・クリスティが引き起こした「11日間の失踪事件」をベースにアガサの心の迷宮を描き、韓国で大ヒットを記録したミュージカル『AGATHA(アガサ)』が、アガサ没後50年の節目に日本初演を迎えます。7月の開幕に向けて準備を進めるアガサ役の花總まりさん(主演)、謎の男・ロイ役の黒羽麻璃央さん、事件の鍵を握る青年・レイモンド役の渡邉蒼さんに、それぞれの役どころやお互いの印象について伺いました。
(左から)渡邉蒼さん、花總まりさん、黒羽麻璃央さん
アガサの写真もヒントに。イメージを壊さず演じたい(花總まり)
―― 実在の天才作家「アガサ・クリスティ」という大きな役にどう取り組まれているか教えてください。
花總アガサ・クリスティは世界中の誰もが知っている「ミステリーの女王」です。スチール撮影のときに彼女の有名なポートレート写真を見せていただいたので、その写真のアガサさんの顔を思い浮かべながら、少しずつ役づくりをしています。ミステリアスな方のようなので、そのイメージは壊さないようにしたいと思っています。とはいえ、取り組むものはあくまで『11日間の失踪事件』をベースにした今作の脚本なので、そこに書かれた内容やセリフ、音楽を感じながら、そして、演出家の末永さんと相談しながら作っていきたいと思っています。今回は若い頃と晩年という2つの年代を行き来しますが、なんとか自分なりに楽しみながら、アガサ・クリスティという人物をうまくつくっていけたらいいなと思っています。
黒羽花總さんには「アガサの説得力」を感じます。先日、今出来上がってるところまでを(稽古で)見せていただいたのですが、すごいなと思いました。ロイはアガサに深く関わっていく存在なので、「このアガサにどう働きかけよう?」というのを考えさせられました。花總さんは、舞台ではアガサを演じ切りますが、出番が終わると一転して「ほわん」とされてるんですよね(笑)。そんなギャップも素敵だなと思いました。
渡邉花總さんはお花みたいなイメージです。花束というより、一輪挿しにスッと立っているようなお花のようで、僕にとってはアガサ・クリスティそのものです。レイモンドもアガサを敬愛しているので、僕は稽古場でも照れまくってしまうんです。花總さんがいてくださるだけで、レイモンドが自然と作り上げられていく感覚があります。
ロイは謎に満ちた男です(黒羽麻璃央)
―― 黒羽さんが演じるロイは、失踪中のアガサの前に現れる謎の男です。ご自身の役どころをどう捉えていますか。
黒羽僕は『謎の男』なので、今の段階ではお話しできることが少なくて。ただ、ミステリアスな雰囲気は大切に演じたいです。突然現れてくる存在なので、みなさんも『こいつは一体なんなんだろう』と思うはずです。それが、物語が進むにつれてだんだんとロイの存在も紐解かれていくので、そこを楽しみにして欲しいです。とにかく、ミステリアスな男にご注目ください(笑)。
花總黒羽さんのロイはご本人にぴったり!以前『エリザベート』のルキーニ役で共演したときは、役柄的に怪しいイメージがありましたが、実際にお話するととっても爽やかな好青年です。そんな意外な二面性はロイにぴったりだし、他にもいろいろな面を持っているのかも、というところも重なります。
渡邉黒羽さんが演じるロイは、ご本人そのものです。特に一幕のロイには、プレッシャーや世間の批判などと戦っているアガサを救い出してくれる包容力のようなものがあって、まさに普段の黒羽さんだなと思います。いつも『大丈夫だよ〜』『なにかあっても僕がいるからね』みたいな、温かい心で包んでくれているように感じます。その後の展開はまだ言えませんが…とても面白い役だと思います。
賢いけれど、完璧ではないのがレイモンド(渡邉蒼)
―― 渡邉さんが演じるレイモンドは、アガサの失踪事件から27年が経った1953年から物語を紡ぐ、非常に重要な役どころです。
渡邉僕はレイモンドの13歳から40歳までを演じます。13歳とはいえとても賢い子ですし、アガサの小説で言うならポアロ的な役割。でも、ただの推理小説では終わらないのがこの作品のいいところです。演出の末永さんから「13歳としての初登場シーンで、このキャラクターがお客様に何かを与えられる人であることを見せてほしい」と言われて…。レイモンドがアガサから「もらうもの」も多いし、「渡さなければならないもの」もたくさんあるので、花總さんとの関係性をお稽古の中で深めていけたらと思っています。最も大切にしたいのは劇中にある、『レイモンドは賢くはあるけど完璧ではない』というセリフです。推理力に自信を持って突き進むけれど、完璧ではないというのが人間らしい点なので、そこを大切にできたらいいなと思っています。
花總レイモンド役の渡邉さんはとっても少年っぽくて、玄人揃いのカンパニーの中でも新鮮な存在です。『これはもう、まさにレイモンドでしょ!』という感じで、ぴったりです!
黒羽渡邉さんは本当に、自然発光しているんじゃないかというくらい「少年」です(笑)。レイモンドが似合うナンバーワン!そんなに少年なのに、本編の中では年齢を自由に行き来してしまうんだからすごいです。少年からガラリと変わって40歳になる佇まいも見どころです。ただいつもはお芝居仲間から噂で聞いていた通りのいい子で好青年、『この先、変な大人に捕まらないでね』と思ってしまいます(笑)。
【黒羽麻璃央さん単独インタビュー】
役柄に多くの秘密が隠されているレイモンド役の黒羽麻璃央さんにインタビュー。事前の情報解禁にやや制限があるなか、作品への尽きないワクワク感や自身の課題について語ってくれました。
アガサやお客さんを引き込む「何か」を稽古で見つけたい
―― 今回は非常に秘密が多い役どころということですが、まずは最初にお話をいただいたときや、脚本・役柄を知ったときのお気持ちから聞かせてください。
黒羽お話をいただいて、資料や動画を見たときは、不安はありつつも『この作品をどうやろう?』というワクワク感が大きかったですね。ロイは、出てきた時から『この人はなんなんだろう?』という役なんです。「もしかしてアガサといい感じなのかな?」という瞬間もありつつ、だんだんと様子がおかしくなって…(笑)。とてもやりがいがある役だと思います。ミステリアスさや色気も必要ですが、「影」もキーワードかもしれません。序盤は特に「良い人なのかな?」と思わせるところがありますが、それでもどこかに「影」や「黒さ」みたいなものが滲み出てくる…そんなロイをつくっていきたい。アガサやお客さんを一気に引き込んでいく「何か」が必要だと思っているので、稽古を通してそれを見つけたいですね。自分がこれまで携わってきた作品からもヒントがあると思うので、うまく落とし込んでやっていきたいです。
―― アガサと向き合うことがとても大切な役になるかと思いますが、今の時点でアガサをどんな人だと解釈されていますか?
黒羽むずかしいですね、これどう言おうかな(笑)。ロイはアガサの人生をずっと見てきた存在なんです。彼女の抱える苦しみ、周りの人のことや起きていること…それら全部に気がついている。ふたりは一体どんな関係なのか…お客さんの頭の中に、たくさんのクエスチョンを散りばめていきたいです。
今までにない低い音域への挑戦、頭がおかしくなりそうです!(笑)
―― 演出の末永(陽一)さんとは、テーブルセッションなどを通してどんなお話をされましたか。作品全体で大切にしたい部分などは共有されたのでしょうか。
黒羽末永さんの演出は初めてですが、とても丁寧に場面を解説してくださるので、今後立ち稽古になったときにもやりやすそうだなと思っています。以前、末永さんが演出助手をされていた作品(『エリザベート』)に出演したことがあるので、今回のご縁は嬉しくもあり、不思議でもあり、という感覚です。
―― 現時点で、ご自身の中で課題とされていることはありますか。
黒羽実は今回、歌のキーが低い曲が多くて。それは、ロイの持つ毒々しさ、黒い部分を表現しているからなのですが、これが本当に難しいんです。僕はもともと高い音のほうが楽に出せることもありますし、今まで下の音域に感情の揺らぎをのせる…ということをあまりしてきていないので、とても苦労しています。家でも楽曲をずっと聴いて練習しているのですが…もう脳がおかしくなりそう(笑)。音の運びが複雑で難しいので、プライドも恥ずかしさも捨てて、音楽監督の甲斐先生や、歌唱指導のやまぐち先生に細かく教えていただきながら、必死に取り組んでいるところです。みなさんがお芝居の稽古をしているときに、僕だけ歌稽古をしていることもあるので、これが課題ですね!
カンパニーでは中間管理職?!素晴らしい方々に支えられています
―― カンパニー内での関係性の作り方や、稽古場などで仲良くなるために意識していることはありますか。
黒羽逆に知りたいです、何をしたらいいですか(笑)。実は年齢を重ねるにつれて、人見知りになってきていて、それが最近の悩みです。人見知りというか、家を出た瞬間に本来の自分より少し気持ちを高めるスイッチを入れる感じ。「頑張っている」という、そんな日が増えてきました。特に今回のカンパニーで僕の立ち位置は、渡邉さんのような若手と、先輩方のちょうど真ん中、いわゆる「中間管理職」みたいなところかなって(笑)。とはいえ、共演者のみなさんの人柄が素晴らしくて、心の支えになっています。僕はこの仕事をもう15年くらいやらせてもらっていますが、長く続けてらっしゃる方は本当に素晴らしい方ばかりだと感じています。最初はどうしても緊張してしまいますが、ありがたい環境だなと実感しています。
―― 最後に、開幕を楽しみに待っているファンの方やお客さまに、見どころとメッセージをお願いします!
黒羽アガサの作品(原作小説)を知らなくても、このミュージカル自体がひとつのミステリー作品になっているので、予備知識なしで楽しんでいただけると思います。一人の女性の苦痛と苦悩、そして悩みながらも立ち向かっていく姿には、きっと勇気づけられるはず。ミステリーでもあり、SFのようでもあり、ラブでもあり、さまざまなジャンルが混ざった素敵なエンタメ作品になっています。 そして、僕自身も「新境地」です! 自分で言っちゃいますが(笑)、この作品に取り組みながら『自分にはこんな一面もあったんだ』と驚いているところなので、ぜひその姿を劇場に見にきていただければと思います。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/藤本聡太)