インタビュー
明治座創業150周年記念公演『赤ひげ』で、養生所にやってくる医院見習・保本登を演じる新木宏典さん、保本と入れ替わりに養生所を去る同僚の津川玄三を演じる崎山つばささんにインタビュー。過去には共演経験もあり、旧知の仲であるおふたりに、作品への思いや意気込みを聞きました。
(左から)崎山つばささん、新木宏典さん
明治座の舞台には身が引き締まる思い “アニキ”と一緒に頑張ります
── 今作は、明治座創業150周年記念作です。まずは、出演が決まったときのお気持ちから聞かせてください。
新木宏典さん(以下、新木) 僕は明治座150周年の前月祭にも出演させていただいているのですが、このようなアニバーサリー期間に再び明治座の舞台に立てることがまずは嬉しいですね。『赤ひげ診療譚』の小説はお話をいただいてから読みましたが、とても面白い作品でした。タイトルになっている赤ひげこと、新出去定医長の活躍はもちろんなのですが、同時にこの作品は、僕が演じる保本登という青年医師の成長記でもある作品です。江戸時代が舞台ではありますが、若者が大人になる上で必ず通る道のようなものが描かれていますので、現代の方が見ても共感する部分が多いと思います。明治座でどんな舞台になるのか、僕自身も興味をそそられています。
崎山つばささん(以下、崎山) そうですね。まずは身が引き締まる思いです。『赤ひげ』のドラマは長年愛されている作品ですし、さらに明治座創業150周年記念作品ということなので、ただならぬ緊張感があります。失敗できないという思いもあるので、自分なりにしっかり準備して取り組んでいきたいです。
── 主演の船越英一郎さんは、テレビシリーズでも長らく赤ひげ(新出去定)役を務めていらっしゃいます。どのような印象をお持ちですか。
新木 僕、過去に共演させていただいたご縁で、的場浩司さんとプライベートでもお会いすることが多いのですが、先日お会いしたときに、「僕今度、船越さんとご一緒するんです」とお話したら、的場さんが「え!アニキと!?」って(笑)。僕にとっては的場さんが「アニキ」でもあるので……。
崎山 ふふ、ちょっとややこしいですね(笑)。
新木 そうそう(笑)。それくらい的場さんご自身がとても尊敬していらっしゃる方なので、僕も船越さんにお会いする日は緊張しました。実際にお会いした際は……「寡黙な方」という感じでしょうか。会話をしていても、言葉で埋めるというタイプではなく、必要なものを感じ取って作り出してくださるというか、空気をコントロールするのがうまい方なんだな、と感じました。さらに、船越さんは実は今作が初の舞台作品ということで……。芸歴を積まれた方が、今でも新しいことに挑戦されるのはカッコいいなと思いますし、その現場に立ち会えるというのも贅沢なことですよね。これから稽古に向かうのが楽しみです。
崎山 船越さんには、スチールの撮影時に初めてお会いしました。僕自身はあまり意識せず、普通にしているつもりだったのですが、撮影時にはカメラマンさんに「もうちょっと柔い表情で」と声をかけられてしまって(笑)。なにかやっぱり、オーラに圧倒されていたところがあったんだと思います。とはいえ、今回は僕もアニキと一緒なので!(と、新木さんを見る) それが嬉しいですし、今作ではいろいろな方に刺激を受けつつ、(置いていかれないように)しっかり食らいついて行きたいと思っています。
反抗期丸出しの保本の成長をしっかりと見せていきたい
── おふたりが演じる保本登役、津川玄三役についての印象や「こう演じたい」と今思っていらっしゃることがあれば教えてください。
新木 保本登を舞台化する際に気をつけなればと思っているのは、彼の「成長」をどう表現していくかということ。舞台は2時間〜2時間半くらいでしょうから、当然彼が成長するポイントとなる出来事を全部やるわけにはいかないはず。そこをうまく表現し、舞台の上で自然に見せるにはどうしたらいいか……そんなことを勝手に課題にしています。僕は、自分が想像していたのとは違う職場で、色々な人から色々なことを言われ、居心地の悪さを感じながら、それでも自分の信念を貫こうともがく、あの思春期丸出し、反抗期丸出しな保本が、少しずつ変化していくところをしっかり見せることが重要だと思っています。見えないところでの帳尻合わせ、みたいなところでしょうか。演出の石丸さんとしっかり相談して進めたいですね。
崎山 僕は津川という役を演じますが、この舞台作品で描かれている津川像は新しいなと思いました。というのも、原作の津川は、一度養生所を去って再び戻ってくるところはこの舞台と同じでも、そこまでフィーチャーされていないんです。黒澤監督の映画『赤ひげ』でも、津川は最初しか出てきませんし……あまりモデルがいない状態なのです。ですから、舞台で津川はどう立ち回ればいいか……。保本が入ってきて、彼が変わっていく姿を見て感じたこと、影響を受けたことをどう表現するか。それが僕の課題かなと思っています。津川という男は皮肉屋で掴みづらいところもあるのですが、僕なりに解釈して表現していきたいなと思っています。
現代にも続くテーマを含む作品、今、舞台でやる意味を感じます
── 実際に原作や舞台の台本を読まれて、どんな感想をお持ちになりましたか。印象に残っている部分や演じる際にポイントになりそうなことがあれば伺いたいです。
新木 台本を読んでいると、前半部分はお客さんを惹きつけるような小ネタがところどころに挟み込まれていて、飽きさせない構成になっていると思いました。物語の後半はしっかりとストーリーが展開していきますから、舞台という特色が出やすいのは前半部分かなと思っています。子どもを道具と思うような親が出てきたり、追い詰められた人間というものが描かれていますが、この作品は、こんな人が今後も増えていくんじゃないかという懸念があって書かれたものかとも思いますし、だからこそ、見る人が感じるところは多いと思います。「こんな世界にはなってほしくない」と思う人が増えれば、状況は変わっていくかもしれませんよね。また、今作は医者の話、診療所の話だからこそ盛り込むことができるテーマもあると思います。命を扱う医者という役柄なので、そのプレッシャーまで背負って、しっかり表現していかなければと思っています。
崎山 僕は原作を読んで長次の銀杏の話が本当に辛かったです。「結局、医療とは情けないものだ」と、赤ひげの、去定先生も言っていましたが、貧困と無知との戦いのようなこともこの作品のテーマになっています。作品の舞台は、あれだけたくさんの人と関わり、いろいろなものを見てきた先生が、医療を「情けないもの」というほど生きにくい時代であり、それが子どもまで影響しているというところに胸が締め付けられる思いがします。そんなお話を読んでも聞いても、今を生きる僕たちには正直、わかるようでわからない、どこかフィクションのように感じてしまうこともあります。でも、こんな時代は本当にあったわけですし、それを僕たちが舞台でやることによって、見る人が強く感じられることがあるかもしれない……それが今、この作品を舞台でやる意味ではないかと思っています。ちょうどコロナという大きな壁を乗り越えた人たちがどう思うか、個人的にはそこも気になっています。
心を許せる数少ない仲間 共演するのが楽しみです
── ここからはちょっと気分を変えて、おふたりの関係についてお聞きします。先ほど、崎山さんは新木さんを「アニキ」と呼んでいらっしゃいましたが、お互いから見て、それぞれの人間として、役者としての魅力はどんなところにあると思いますか。
新木 つばさのいいところですか……。
崎山 ケイタイで録音しておこうかな(笑)。
新木 (笑)。まず、社会人として完璧だなと思います。社交性もあるし、ひとつひとつのことに意味を感じながら誠実に向き合うから、関わった人たちがみんな好印象を持つんだと思います。あと頭がいいなって。色々なことを考えていて、だからこそ悩むんだけれど、悩み方もちゃんとしているというか。僕も連絡もらうことがありますが、この悩みは誰に聞くと有効な情報やヒントが得られるのかということまで自分自身で考えて解決しているんだなと感じます。だから……しっかりしていて、自立している。ただしっかりしているあまり、手を差し伸べるのを忘れてしまいそうになるときもあります(笑)。会うたびに面白いですし、会ってない時もウワサしてます(笑)。
役者として舞台で見るときは、緩急でいえば、「緩」のほうにもともとの持ち味がある気がします。でもなぜか「急」のほうを任されている現場が多いような(笑)。僕的には正直、「逆を振られてるな」「緩のほうが本人の素材が生きそうなのにな」と思うこともあるんだけど、でも一見、得意というわけではなさそうなことも、積み重ねれば磨かれ、武器になるし、成長する材料になりますから、つばさ自身本人もそれをわかって取り組んでいるんじゃないかなとは思っています。
崎山 ……アニキ、ありがとう(笑)。今、お話にも出てきましたが、僕は自分で言うのもなんですけど、心を許せる人って多くないんです。扉は常に開けておいてはいるのですが、そこから奥に入ってこられるのは……より奥の部屋に相手を入れるかどうかは、「ちょっとごめんなさい」という場合が多くて。でも新木さんは最初からすぐに扉を開かせてくれた人。男としてもですし、役者としても、人間としても、いつもカッコいい背中を見せてくれる存在です。僕には新木さんと同い年の兄がいるのですが、本当に東京のアニキみたいな感じです。
役者としては……以前ご一緒した時に役作りに取り組む思いが凄かったです。役柄を表面上ではなくて本質から捉えようとアプローチする姿勢がとても印象に残っています。演出においてもすごく細かいところまで、「こうやったらもっと良くなる可能性があるよね」みたいなことを話してくれる。さらにその役者の特性を見て、どう伸びていくか、どんな可能性があるかを瞬時に判断して考えて。あまりにたくさんのことをされているので、「この人、いつ寝てるんだろう」って最初の頃は心配もしましたが、だんだん「これはもうこの人の生き方なんだ」って。だから今はもう心配する段階は超えて、「そのまま行ってください」と思っています。むしろ、「ついていきたい!」って感じですね。共演が楽しみです。
新しい挑戦を続ける明治座に呼んでいただけて嬉しいです
── 最後に明治座についてと、劇場にいらっしゃるお客さまにメッセージがあればお願いします。
新木 もともと明治座には敷居の高さを感じていましたが、前回の舞台で自身が出てみたら、ずいぶん印象が変わりました。もちろん襟を正したくなるような格式はありますが、常に時代に合わせて新しいことにチャレンジしている劇場だと知って驚きました。そして、そんなチャレンジを毎回楽しみにしているお客様との信頼関係があることにも感激し、だからこそ150年も愛されているのだなと実感しました。「温故知新」を大切にしている劇場の姿勢や、エンターテインメントをやっていく上でのマインドのようなものにもとても感銘を受けたので、そんな場所に出会えたことは僕にとって幸せなことです。また、僕が出ることによって、僕を応援してくれている人たちにもそれを伝えることができるのも嬉しなと。それから、あの劇場前ののぼりに自分の名前を入れてもらえることも贅沢だなと思っています。
崎山 僕、初めてなので絶対写真撮っちゃうと思います(笑)。
新木 みんなが知っている長寿番組に出る、みたいな高揚感があるよね(笑)。
崎山 明治座という場所は、僕なんかにとっては本当に計り知れないほど大きな存在であり、文化でもあると思っています。役者としてここに立たせていただけることは光栄なことですし、さっき新木さんが言った「新しい挑戦」に自分を選んでもらえたことへのプレッシャーも感じます。その期待には応えたいですし、何かを残したいですね。
新木 僕、先月オランダに行ってきたんですよ。そこで『レ•ミゼラブル』の舞台を見たんです。当日はほぼ一日中劇場にいて、お芝居を見る幕間に食事をとったり、買い物をしたり。アミューズメント施設にいるような感覚で、ゆっくりと長いお芝居を楽しみました。明治座はその感覚にとても近いなと。出かける準備の段階から楽しみが始まって、劇場に足を運ぶこと自体に価値がある、そんな場所であると思います。「特別な日」のために買われるチケットを無駄にさせないため、素敵な思い出にするために僕も努力していきたいと思います。
崎山 そうですね、僕は先月オランダには行ってないんですが……(笑)。
新木 ふふ、聞いてないな(笑)。
崎山 『赤ひげ』は、山本周五郎さんの原作を読んでいても、辛酸を舐めながら人生を進む苦しさや、道半ばで倒れてしまう口惜しさなど、生きることの辛さが描かれている作品です。その中で、登場人物の生き様や、誰かがぽろっという言葉に、生きるヒントが隠されていると感じます。見る方にはぜひそんな、聞き逃してしまいそうなセリフ、実際に生きている人からは聞けないような言葉たちにも耳を澄ませていただけたらと思っています。
(取材・文/小川聖子)