INTERVIEW
俳優 新納慎也さん
── 『鎌倉殿の13人』阿野全成役が大評判でしたね。ご自身でも反響は感じていらっしゃいますか。
ありがとうございます、行くところ行くところで声をかけていただいています。昨日も取材の際にカメラマンさんが会った瞬間に「鎌倉殿、見てましたー!」と言ってくれて。先日は初めて行ったお店で、「全成さんが来ていると聞きまして……」と奥からわざわざシェフが出てきて挨拶をしてくれたりも。「生きている姿を見ておきたかった」と言われて、それはどうなんだろうと思いましたが(笑)。
── 撮影は大変でしたか。
楽しくやっていました。先日、尾上松也と一緒の取材を受けたのですが、彼は後鳥羽上皇という身分の高い人物の役でしたから、お付きの人とのシーンばかりで、ほぼ他の共演者に会っていない、(主演の)小栗旬にも会っていないそうです。「僕は毎日北条家に囲まれてとても楽しかった」と言ったら、悔しがられました(笑)。作品的にはシリアスな物語ですが、割と僕はコメディ要素もたっぷりな役柄だったこともあり、おそらくピリッとしたシーンをやっていたんだろうなあというところに僕が入っていくとスタッフさんの空気がちょっと緩むのがわかるんですよ。おそらく「なんだ~、次は全成のシーンか」「なんだよ~」と思われていたに違いありません(笑)。
── それは自然と? それとも新納さんが意図してその空気を作り出していたのでしょうか。
もちろんコメディシーンって、計算してやらないと面白くないので、そういう意味では考えました。大変なところももちろんありましたよ。三谷幸喜さんの台本がわりと「無茶ぶり!」みたいなのもありましたから。台本に「(紫式部の物真似)」とだけ書いてあったときには、一週間くらい「紫式部……どうしよう……会ったことも見たこともないし……」と悩みましたし(笑)。でも本当に楽しい現場でした。
── ありがとうございました。さて、新納さんは来年2月には『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』へご出演されます。こちらはブロードウェイミュージカルで、エジプトの警察音楽隊がイスラエルで迷子になってしまい、田舎町で一夜を過ごす……という物語。2018年のトニー賞では10部門も受賞した傑作が日本初上陸です。新納さんはブロードウェイで観劇しているとのこと、その時の印象を改めて教えてください。
現地の友だちに「絶対、新納は好きだから観た方がいい」と勧められて観に行きました。公式サイトのコメントに「心に優しく暖かい陽がさす様な感覚」と書いたとおり、なんと良い作品を観たんだろうと、温かいものが胸の中にじわぁ~と広がり、穏やかな気持ちになりました。いわゆるブロードウェイ作品といわれて想像する派手で賑やかなものとは真逆で、とてもシンプルな舞台。大きな事件は何も起こらない。印象としてはこれをブロードウェイでやるんだ!? という驚きもあります。でも根本に“音楽がある良さ”、いわゆるミュージカルの醍醐味を改めて痛感したというか。実際に鳴っている楽曲も素敵なのですが、物語自体が「音楽は素晴らしい、音楽ってすごい」というもの。世界中がこうだったら、もっと平和なのに……とまで言うと大げさかもしれませんが、そういうことにも思いが馳せられる。僕はこの時、少し外れの方のホテルに泊っていて、劇場まで7.8キロあったのですが、物語の余韻を味わいたくて、その距離を歩いて帰ったのを覚えています。
── 物語としては、言語もアラビア語とヘブライ語と異なるアラブ人とユダヤ人、政治的にも複雑な歴史を抱える人たちの交流が描かれます。その中で、新納さんがおっしゃったように「大きな事件は何も起こらない」ということが素敵に感じます。
はい、もちろん「何も起こらない」と言っても、音楽隊が迷子になるというのは彼らにとっては大事件だろうと思います。でもそこでケンカが起きたり人種差別が起きたり……ということではなく、起きるのは日常の事件なんですよね。誰かが死んだり、革命が起きたり、才能に悩んだりといったミュージカルっぽいこともない(笑)。夫婦喧嘩をしたり、離婚した寂しさを語り合ったり、女の子を口説けないと悩んだりする。皆さんの身にも起こるよねというくらいの事件しから起らない。日常なんです。それを物語として見せられて「じわぁ~……」と染みてくる。ちょっと珍しいタイプの作品です。
── 音楽も中東風で、あまりミュージカルでは聴かないタイプ。
そうなんですよ。僕自身はあまり聴き馴染みがない音楽なのですが、でもなんか、日本人の感性に合うのか……もしかしたら世界のどこの人の感性にも合うのかもしれませんが、すごく琴線に触れた。カッコいいしリズミカルなんだけれど、なんだかセラピー効果がある(笑)。心が落ち着いていく音楽。音楽が心を癒してくれる部分もあります。
── その中で新納さんが演じるのがカーレド。エジプトのアレクサンドリア警察楽団のトランペット奏者ですね。観劇後にすぐ主催でありブロードウェイ公演にも出資していたホリプロに「カーレドをやりたい」と立候補されたそうですが、どこに惹かれたのでしょう。
正直な話、どの役をやりたいというより、この作品に絶対に出たい、関わりたいと思ったんです。ホリプロが出資しているということは、いずれ日本でも上演するでしょう(笑)。その時に僕がやれる役は……と、考えていった。年齢的なことに加え、警察音楽隊が田舎町に迷い込んでしまうという話なので、音楽隊の人はピシッとしていて、町の人は“地元の人”という感じ。僕のキャラとして町の住人は向いていないと思ったので「カーレドをやりたいです!」と言いました。
── カーレドさんは実際にトランペットの演奏をするのでしょうか。
音楽隊は、役者と実際のミュージシャンで構成されていて、トランぺッターは役者が演じています。ブロードウェイでは録音の“当て振り”だったんです。今回も当て振りになるかもしれませんが……一応チャレンジはしてみようと、昨日から練習を始めました(笑)。でも手応えは今のところないです、たぶん無理です(笑)。うまくいったら吹きます、くらいの気持ちで練習しています。
── では新納さんの演奏が聴けるかは本番のお楽しみで……。カーレドという役柄に関しては、どんな印象ですか?
演出がどうなるかわかりませんが、僕の印象としては“チャラい”(笑)。あと事件の発端でもあって「クビだ!」みたいなことを言われたりもする。軽さとチャラさがあるなと感じています。僕、実生活は意外と地味であまりチャラくないのですが、けっこうそう見られるらしい(笑)。でも先ほど物語に「大きな事件が起こらない」と言いましたが、キャラクターも同様なんです。魔法が使えるわけではない、暗い過去もない。特筆することはない“普通の人”。僕ら俳優にとって、普通の人というのは難しい。チャレンジだなと思っています。
── カーレドは永田崇人さん扮するパピに恋愛指南っぽいことをしたりもしますね。昨年新納さんが初演出をした『HOPE』には永田さんも出演していました。そこで演出家と俳優だった関係性が活かされてくるのかなと期待したりもしていますが。
それ、本当にイヤなんですよ(笑)! キャスティングを見た時に崇人がいるのを見つけて「うわ、最悪」と思った(笑)。自分が演出した役者と共演するのって、すごく嫌です。しかも演出が森新太郎さんでしょう。僕、きっと崇人の前で怒られ(厳しい演出をされ)ますよ……。そうすると崇人が「俺、こんなに森さんに怒られている人に演出されていたんだ……」と思うでしょ……その状況が今からすでに目に浮かんでいます……。まあでもおっしゃる通り、崇人とのシーンはまさに『HOPE』の稽古場で「ああやれよ、こうやれよ」「だってできないんです!」と言っていたことを彷彿としますよね(笑)。
── 森新太郎さんとは3回目ですね。そんなに怖い方ですか?
怖いです。顔が(笑)。でも僕は大好きなんです。だから森さんからのオファーはスケジュールが許す限り出たい。怒るというか、怒っているわけじゃないのに声もデカいし語気が強い、顔怖い、最近さらに貫禄も出てきて迫力があるんですよね。だからビビッてしまう(笑)。僕はこういう性格ですので「そんな言い方せんでもいいんちゃう!?」と言い返していますが。ただ、おっしゃることは真っ当で「なるほどね」といつも思う、信頼する演出家さんです。仲良くしています。
── ほかに新納さんが今回楽しみにしていることは。
日本のミュージカルって、うっすら“レギュラーメンバー”みたいなのがあるじゃないですか。そのメンバーで色々な作品を回している、みたいな。でも今回は全然違うんです。もちろん濱田めぐみさんを筆頭に、ミュージカルを主戦場にしている方も何人もいますが、「この人、ミュージカルやるの!?」という方が出ていたりもします。僕自身、風間杜夫さんと共演するのは初めてですし。ぱっと見、顔ぶれからして新鮮。それが、ブロードウェイでこの作品を観た時に感じた「え、オン・ブロードウェイでこれ?」という意外性、新鮮さに似ているんですよね。だからその皆さんが、稽古場や舞台にどんな空気を持ち込んでいらっしゃるのか、とても楽しみにしています。
(取材・文・撮影:平野祥恵)