須賀健太さん(左)
木村達成さん(右)
──『血の婚礼』への出演のお話が来た時はどう思われましたか。
木村達成(以下、木村) 以前、森山未來さん主演で上演されたことのある作品だと聞いて('07年)、そんな作品に出演できる嬉しさを感じ、ぜひやってみたいと思いました。でも何より、健太と共演できるということが大きかったですね。数年前までは1週間顔を見ない日はないくらいずっと一緒にいて、ともに作品を作り上げた仲。この共演していなかった数年間、それぞれ別の現場で培った経験をぶつけ合える場所を与えてもらった。今も興奮が止まりません。
須賀健太(以下、須賀) 僕も同じです。戯曲のタイトルを知るより先に、達成と一緒にやると聞いたのですが、その時点で断る理由はありませんでした。達成の言ったとおり、しばらく別のフィールドで戦ってきたお互いの成長をぶつけ合える場所をいただけたというのは特別なこと。それだけで嬉しいし、やる価値があると思いました。
──おふたりとも、何よりも共演が一番の嬉しかったポイントだったのですね。では、お互いの俳優としての魅力はどう捉えていらっしゃいますか。
木村 健太は僕がデビューするよりずっと以前から子役として活躍していたから、共演時(ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』'15年、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』'15~'17年)は、僕から見ると、もう上手いを通り越して別の次元の存在でした。
須賀 僕の方は、達成は自分が持っていないものを持っているというのはすごく感じていました。すごいなと思う瞬間がいっぱいあった。アクロバットも多い作品でしたが、本当になんでもすぐ出来ちゃう。振付の人と話をしていて「こんな感じですか」とすぐ動いてみせちゃう。恐怖心とか、ないよね?
木村 そのへんのリミットは完全にぶっとんでたかも。でも今あれをやれと言われても怖くてできない! バク天やバク宙はもう1年はやっていないんじゃないかな。回ったり跳んだりする年齢じゃなくなった……(笑)。
須賀 あの頃の達成は怖いもの知らずだったよね。
木村 今は何をやるにも怖いです(笑)。色々な作品に出て、揉まれて、怖いものを知りました。
須賀 でも本当に、全然自分とは違うものを持った人がそばで芝居をしてくれていたなという感覚です。そういう人がそばにいるというのは、とてもありがたい環境だなと当時もすごく思っていました。
木村 当時は健太を前に、僕は何を武器に戦えるかということを考えていました。健太は幼い頃から芸能界で生きてきて、僕はもともと普通の高校生としてスクールライフをエンジョイしていましたから。その経験をぶつける場が、青春やスポーツをテーマにした作品だったのが良かったのかも。僕も野球をずっとやってきましたし、ある意味ホームな物語。自分の経験を嘘偽りなく発揮できる場だったから。そういうところを武器にして戦わないと、舞台上で健太と一緒になって、素敵な奇跡を生む瞬間は生まれないだろうと思って必死にやっていました。
──共演経験の中で印象的なエピソードを教えてください。
木村 僕はけっこう感情が高ぶることが多く、涙もろいのですが、千秋楽に健太が「達成、絶対泣くやん」って言ってきたからその瞬間に「絶対に泣いてやんない!」と思ったんですよ(笑)。そうしたら実際は、一番最初に泣いたのが健太だった(笑)。それはすごくよく覚えています。
須賀 達成の(『ハイキュー!!』の)卒業タイミングだったんだよね。顔を見た瞬間に泣いちゃった(笑)。
──作品について伺います。『血の婚礼』はスペインの伝説的劇作家、ロルカの三大悲劇の1作で、実際に起きた事件をもとに1932年に書かれた作品です。この物語については、どんな印象を抱いていますか。
木村 綺麗だしドロドロしているし、この世界観の中に入れるのなら、今すぐ入りたいくらい。役柄も、僕がまだ挑戦したことのないタイプなので、やりがいを感じています。……公私混同しないように頑張りたいですね。
須賀 今の大丈夫!? 見出しになっちゃうよ?
木村 そりゃ生身の人間が演じているんだもん、憎しみとか苛立ちとかも共感していっちゃうでしょう!
須賀 そっちか、びっくりした~。(相手役の)早見あかりさんと仲良くなりたいとかかと思った。
木村 違いますよ(笑)!
須賀 僕はまだそれほど作品について深く触れていないのですが、今回は新たな翻訳の脚本になりますので、そのイメージを大事にしたいと思っています。もちろん戯曲としては世界中で、色々な形で上演されている物語ですが、そこに囚われずに、僕たちなりの『血の婚礼』を模索していく時間が大事になる。……話の筋でいうと、わりと単純で「男が花嫁を奪う」というものなのですが、そこに人間らしさがどう乗ってくるかで、物語が深まっていくのだと思います。それが役者としては楽しみな部分。お客さんがどんな感想を持ってくれるのか、今からワクワクしています。
木村 '07年版はかなり戯曲としてはカットされた部分もあって、(木村と須賀扮する役柄の)決闘のシーンなどは描かれていなかったみたい。今回はどうやらそれもあるらしいので……。
須賀 僕たち、決闘するんだ!
木村 僕らの出会いは殺陣ですから。またああいうのを健太とやれると思うと、ドキドキワクワクですよ!
──演じる役柄は、木村さんがレオナルドで、須賀さんが“花婿”。レオナルドは花嫁の元恋人で、結婚式の日に花婿から花嫁を奪い去ります。ひとりの女性を取り合う関係性ですが、この役については現時点でどう思っていますか。
木村 レオナルドはわりと強気で勝ち気、「お前は俺しかダメなんだ」みたいな、ちょっと俺様的な男。でもその一挙手一投足に、ちゃんとしたバックボーンが感じ取れるようにしたいですね。
須賀 僕の演じる“花婿”は、たぶん100人見たら100人が可哀想だと思うようなポジション。愛する人を、しかも結婚式というタイミングで別の男に取られてしまうわけですから。でも「可哀想だな」に収めたくないなと思っています。実際に起きた事件がモデルになっていて、その中で大切な人を奪うとか、人と人が殺し合うといったことが描かれているのですが、その激情を受けるこちら側も、どこか狂気的なものを内包していないと、その選択にならないと思うんです。そういうところをきちんと描きたい。なので「可哀想」と思われているうちは正解じゃないのかな、と……。いや、まだ台本ができていないので、実際はじまったら「いや、これは可哀想だわ」となるかもしれませんが(笑)。
木村 こういうインタビューの場で発言したことと、本番に入って変わってくることって、よくあるよね(笑)。
須賀 でも大前提として、可哀想なら可哀想だとしても、その一色にならないようにというのは、自分の中で大切にしたいポイントです。
──おふたりの共演に期待が高まるばかりですが、例えば『ハイキュー!!』の頃と、作品や稽古に対する向き合い方が変わってきたな、というようなところはありますか。
木村 以前はいい意味で“抜けて”いました。それは『ハイキュー!!』などだと肉体的な疲労度のコントロールが必要だということもあったのですが「このシーンをやっている間は休んでいないとしんどい」とか、そういう計算もしていたんです。でも最近は、どの作品も死ぬ気でやっているし、突き詰めている。役に入っている間は自分に戻らないよう常に心掛けています。このやり方は、いつか自分の身を滅ぼすのではと思っているのですが(苦笑)……、一瞬でも気を抜くと“木村達成”になってしまうんですよね。そうならないように務めています。もちろん稽古では素の自分になっているし、ましてや今回は信頼の置ける健太が隣にいるので、健太に助けを求める瞬間もありそうですが。
須賀 僕は、実は毎回稽古に入る前に「稽古って、どうやっていたかな」「どうやって芝居をしていたかな」と思うんですよ。ある意味新鮮な気持ちで毎回作品に向き合えています。ドキドキするし緊張もしますが、一度稽古場でリセットするのも大事なことだと思っています。だから今回は“『血の婚礼』の中の須賀健太”でいられるようにしたいです。
木村 僕も小心者だし、稽古に入る前はビビっている。でも稽古場は恥をかいて、お互いを知り合っていく経験をする場所だと思います。弱みをみせた時に相手の芝居が変わるということもあるだろうし。
須賀 うん。そうだよね。
木村 たとえば僕は、できるだけ台詞は歌いたくないし、リズムで芝居をしたくない。そして10人いたら10人その言い方をするというものではない“100分の1”を見つけていきたい。それを突き詰めることが、僕が演じる意味になっていくんだと思います。色々な作品を経験すればするほど、上には上がいて、自分の手が届かないものもたくさんあると身に染みて感じています。でもそれを掴みにいきたいし、そのためには一瞬も気を抜いていられません。
──お話を聞いていると、おふたりとも「今やる意義」を感じていらっしゃるようですが、今作にどんな期待感を抱いていますか?
須賀 ある種、『ハイキュー!!』や『NARUTO』が特殊だった部分もあると思うんです。原作があって、僕らがどう考えようが、観に来てくれるお客さんは原作を絶対的な大前提としてご覧になる。その土台の上で僕らは芝居をする。そういう場所で僕らは一緒にやってきて、お互いの関係性とかもその中で捉えてくれる方もいたと思います。その後僕は緻密な会話劇や、逆に劇団☆新感線のようなフルスロットルで魅せるものなど、けっこう両極端な作品を経験させてもらっていますが、今回はわりとその両方の経験が使えるのかなと考えています。芝居で生々しく見せないといけない部分もあり、一枚絵のように美しい瞬間もあるかもしれない。自分の中に、その両方の引き出しは確実に増えていると思うので、今やる意味はそこにあると思います。
木村 うん。今も僕は、漫画が原作で、アニメ化、映像化もされている作品の舞台版をやっていますが(『四月は君の嘘』)、もちろん原作ファンも観に来てくれるのですが、作品をそのまま抜粋しただけだと舞台でやる意味はまったくないと思う。原作から受け取った感情で、新たな作品を構築する、それはある意味で別の作品になっているんだと思います。お客さまが「原作の方が好きだったな」と言うのは自由ですが、僕らがそれすら超越するものをお見せできたら、観た方は原作と比較するような感覚にもならないと思うんです。よく知られている戯曲であるだけにこの『血の婚礼』でもそういう重圧は感じています。「達成と健太が仲良しこよしやっている作品」と言われないように、愛と憎しみの物語をお客さまに届けることができたら、舞台上で毎日奇跡が起こせると思います。今までもたくさん上演されてきた戯曲であるからこそ、舞台でやる意味や日本でやる意味、僕と健太がやる意味を考えて、作品をぶち壊すくらい、新しい感覚で観てもらえたらいいですよね。
──最後に、今作で「これは自分にとっての挑戦だな」と思っていることを教えてください。
木村 わかりません(笑)。でも、わからないからこそ、すべてが挑戦だと思っています。現時点では、自分にとっては実力以上のものが求められる作品だと思っていますので、全身全霊で作品にぶつかっていこうと思っています。舞台上では、異質のオーラを放っていられたら、と思います。
須賀 聞くところによると生演奏があったり、音楽的要素が入ってくるらしいので……。
木村 得意でしょ?
須賀 いやいや。達成さんこそ音楽に関しては(ミュージカル経験も多く)百戦錬磨ですから。達成とは芝居で戦いたいし、お互いがどう成長したかはそこで測りたい。だからそれ以外の部分では、達成と同じ位置に立っていたいと思うんです。だから僕にとっては音楽の要素をどう作っていくのかが、ひとつ挑戦になってくるのではと考えています。
(取材・文・撮影:平野祥恵)
『血の婚礼』の制作発表記者会見には、演出家の杉原邦生、レオナルド役の木村達成、花婿役の須賀健太、花嫁役の早見あかり、花婿の母親役の安蘭けいが登壇。すでに本読みや歌稽古で交流を深めているという5人は、色違いの“血の婚礼Tシャツ”を身につけていた。時にお互いのコメントにツッコミを入れるなど、終始なごやかで楽しげなムードの中、新たな翻訳と新たなセンスで描かれる『血の婚礼』について、それぞれの想いや意気込みが語られた。
──ひとことずつ、ごあいさつをお願いします。
杉原邦生(以下、杉原)
海外の戯曲を演出するのは3年ぶりで、少しドキドキしています。今回は田尻陽一先生に新訳の台本を作っていただきましたので、皆さんに届きやすい言葉で『血の婚礼』をお届けできると思います。ご覧の通り美しいキャストの皆さんが、ドロドロの悲劇を演じてくれるので、美しい人たちのけがれっぷりにも注目していただけたらと思います。
木村達成(以下、木村)
この作品は、出てくるキャラクターが各々、別の欲望を持って突っ走っていきます。その中で僕のレオナルドという役は、唯一、名前が与えられている役。レオナルドの「レオ」は「ライオン」「百獣の王」「男の中の男」という意味を持っています。劇作家のロルカが思い描く理想の男性という役柄ですので、たくましく、そして自分にしかないオーラを大切にして、務めたいと思っています。
須賀健太(以下、須賀)
僕の花婿という役柄は、一番、親近感がわく役なのかなと個人的には思っています。お客様が物語に入っていく中で、入り口になるような役柄というか。ストレートに言うと、奥さんを奪われてしまう役どころなんですが、それが単純に可哀想な男に見えるだけでなく、人間の孤独などいろいろな側面を表現していけるように、チャレンジしていきたいなと思っています。稽古も始まっていまして、皆さんと本読みなどをしていく中で、徐々に、意思疎通というか、近づいていけているのかなと思っています。
早見あかり(以下、早見)
この作品は、どのキャラクターもエネルギーにあふれ、愛に対しての熱量がすごくて。まだ本読みの段階なのですが、稽古終わりはドッと疲れてしまうくらい、本当にパワーが必要な作品。でもこのパワーを、私たちが持っている熱量を、生で感じていただくことが舞台でやる意味だと思っています。本当にその熱量をお客様に伝えられるように、これからの稽古でブラッシュアップしていきたいです。あとはとにかく体力勝負だなと。この夏と作品に負けないように、よく寝てよく食べて、一生懸命稽古したいと思っています。
安蘭けい(以下、安蘭)
外の暑さに負けないくらいの、本当に熱い熱い舞台がお届けできるのではないかなと思っています。家で台本を読んでいるときに、なんてセリフが多いんだろう…と(笑)。覚えられるのかなという不安を覚えながら、みんなと本読みをしたのですが、それぞれの役を、それぞれの声で読んでいるのを聞いたとき、物語が自然に自分の中に入ってきた感じがして。セリフの量は多いけど、気持ちが入ってくれば覚えられるんじゃないかなと、少し明るい兆しが見えてホッとしました。これから立ち稽古が始まって、どうなっていくのか不安もありますが、この20代の3人のパワーをいただきながら、それ以上のパワーで、母親役に挑みたいと思います。とても愛憎あふれる激しい舞台ではありますが、その中でも生演奏の音楽があったりと、エンターテインメントとして楽しめる作品なのではないかと思っていて、演出家の杉原さんに期待しているところでもあります。
──スペインの情熱的な人間の、ドロドロなお話ということですが、どれくらいドロドロでしょうか?
杉原 花嫁役の早見さんと花婿役の須賀くん、この二人は婚約しているんですけど、実は花嫁の元カレがレオナルドで、花嫁はまだ元カレのことが好きで、夜な夜な逢い引きしているんです。それを知らずに、純朴な花婿は、花嫁のことを好き好き…となっているんですけど、こともあろうか結婚式当日に花嫁と元カレは駆け落ちしてしまいます。それくらい、ドロドロです!でもそういう、愛の欲望に突っ走っていく若者たちの姿というのは、清々しくもあり、カッコよくもあり、そして美しくもあると思うので、そういうところを一緒に見せられたらいいなと思っています。
──ロルカの戯曲には韻文や詩的な言葉が組み込まれているそうですが、今作のセリフについてどう思われていますか?
杉原 翻訳の段階で翻訳劇としてのセリフになっているので、僕らが日常で使っている言葉遣いとは違いますが、(今回の新訳は)俳優さんも喋りやすいし、観客も聞き取りやすいと思います。なので、翻訳劇だということを忘れて、劇の世界に没頭していただけるのでは。
木村 昨日の稽古で韻文と散文の言い回しをどうするかというのを話し合いました。口ずさんでしまいたくなるような言い回しで、それでいてそこに魂もこもっていて、セリフを歌うというか…。それでいてラップバトルのようにという話も出ていましたね。カッコいいセリフがいっぱい詰まっているので、注目して観ていただければと思います。
──愛がテーマの作品にちなみ、最近、“愛”を感じたことは?
杉原 少し前の話になってしまいますが、今年2月にコロナを発症してしまったときに、友人たちからびっくりするくらいたくさん食べ物などの差し入れをいただきました。送られてきたり、家の玄関にかけておいてくれたり。すごく愛を感じました!
早見 娘がいまして、今何でもかんでも真似をする時期で。家で台本を読んでいるときも「ママ、ママ」とずっと言われるわけですよ。そのときに、どうしたらちょっとおもしろくなるかなと思って、「ママで〜〜〜す!」と返していたら、ついに娘が真似するようになりました。愛だなぁ、可愛いなぁって。本当に愛してやまないものと言えば、娘です♡
木村 これ(早見さんの娘への愛)を超えられるものはないな…。これといって愛だなと思うことがなくて…身近な方々、誰か僕に愛をください。
須賀 よく行くお寿司屋さんで、ウニが2種とイクラが1種の丼があるんですけど、先日ウニが3種乗ってきました。愛です。ありがとうございます!
安蘭 何だろうな、愛って…と、日々思います。よく、自分を愛さないと人を愛せないと言われますが、なかなか自分って愛せなくて。ということは人に愛を与えていられてないのかなと思ったら、もっと自分を愛さなきゃいけないなと思う今日この頃です(笑)。
──生演奏や歌やダンスについて、想いや意気込みを教えてください。
杉原 音楽は角銅真実さんと古川麦さんにお願いしています。角銅さんとは過去に二度ご一緒しているのですが、人柄がふわ〜っとしていて、音楽は包み込むようなおおらかさと尖った部分を持ち合わせている。その両極端あるのが彼女の音楽の魅力だと思っていて。『血の婚礼』という作品も愛の物語ではあるけれど、愛って、優しいおおらかな部分と、それが行き過ぎると狂気や刺になる部分があると思うので、彼女の音楽がこの作品の魅力を引き出してくれるのではと。数曲できあがり、昨日、歌稽古をやったのですが、難しいんですよ。4分の5拍子という摩訶不思議な拍子をとらなきゃいけなくて、そこに結構難しいメロディーが乗っかっていて。でも、これがきちんと俳優さんの体に入って、舞台上に乗ったら、すごくカッコよくて良いものになるなと、歌稽古を通して予感がしました。なので、この拍子もメロディーも変えずに、頑張って練習してもらおうと心に誓いました。
早見 初めて聴いたときは、何もかもがわからない状態でしたが、耳になじむとすごくクセになるし、わかりやすく感じてくるんですよ、不思議なことに。あるメロディーが随所に出てきて、観劇後にお客様もちょっと口ずさんでしまうかも…と思っちゃうくらいです。まだ様子を見ながら歌っている段階なんですけど、もっと体にしみ込んでいったら、素敵なものになるのではと楽しみです。
木村 不思議な魔力がある曲ですよね。スペインの情熱的な作品をやるうえで、音楽は切っても切れないものだと思います。ミュージカルをやらせていただくことも多いのですが、それでも難しい曲ってまだまだたくさんあるんだなと。4分の5拍子は今まで味わったことのない拍子だったので、これから稽古する中で、この歌がどんな変化を作品に与えてくれるか楽しみです。
須賀 皆さん、歌稽古で譜面を見て「ここはこうなってるんだ」とか言ってましたけど、個人的にはひとつもわかってなくて…。譜面がまず読めない…。早く追いつかなければと思っています。生演奏の舞台は今までも経験させていただいたことがあって、役者からすると感情に寄り添って一緒に作っていける感覚が大きいので、そういう部分がすごく楽しみです。
安蘭 私は昨日の歌稽古がすごく楽しくて。聴いていると心地よくなる曲で、「スペイン」「血の婚礼」というイメージからは遠い曲調です。譜面を読めなくても、曲を聴いて体にしみ込ませれば、とても気持ちよく歌える曲だなと。それにしても歌稽古でのやり取りが楽しかったです。杉原さんが「もう1回!もう1回!」って何度もやらせて…。
木村 普通は、各々の役をつきつめるために一人ずつ別の方向に走って行っちゃうことが多いけど、ああいうタイミングで歌稽古ができて、みんなでグルーヴをつくったことで、一体感が生まれてとても良かったと思います。
早見 本当にすごかったです。「お願いします!」って杉原さんが一番率先して何度も稽古(笑)。
杉原 高校時代に学校行事王だったので、そのノリが出ちゃいましたね!合唱コンクールとか思い出しました(笑)。
須賀 本番も客席から歌っていただけるということでいいですか?
杉原 やだよ(笑)。
舞台『血の婚礼』の上演記念として、観劇チケット付きスペシャルトークショーが開催された。キャストの木村達成さん、須賀健太さん、早見あかりさん、安蘭けいさん、演出の杉原邦生さんが登場し、稽古開始直後ならではの雰囲気やキャスト同士のやり取りなど、普段は目にできない姿を特別公開!
トークショーの司会を任されたのは、花婿役の須賀健太さん。「司会をするということを前日に聞いた」と言いながらも、つつがなく進行していく。全員が簡単な自己紹介を行なったあと、「僕たちの仲がさらに深まっていく様をお客様に楽しんでいただけば。僕たちはこれからひと月かけて、ひとつの作品をともにつくりあげるわけですので、今日の時間を有意義に使いましょう!」という須賀さんのあいさつで、イベントが本格的にスタート。
まずは、お互いのことをより知るための質問コーナー。たくさんの質問の中から、一部をピックアップしてご紹介。
早見あかりさんから「髪を伸ばしているのは役づくりのため?」と聞かれたのは木村達成さん。
木村さんが「レオナルドという役名には、“男の中の男”という意味があるので、堂々としたオーラや男の色気を出せればと思い、ロン毛もいいんじゃないかなと。本番でどうなるかはわからないですけど」と答えると、演出の杉原邦生さんも「いいと思うよ!木村くん、ウェービーで長めの髪、色気あるよ」とお墨付きに。
続いて早見さんには、杉原さんから「結婚式の日に元カレと駆け落ちする花嫁役ですが、自分と重なる部分はある?」という質問が。
「日本人の私が持っている100%の愛と、この作品に出てくるスペインの人たちの100%の愛は絶対的に違うと、すごく感じています。この花嫁のような愛の強さは持っていないけれど、私は人生において、誰かに迷惑をかけたとしても自分の好きな道に突き進みたいという生き方をしてきた。わりと若いうちから重大な決断をいくつもしてきた。そういう部分では、似たものを感じています」と早見さん。それを聞いた木村さんは、「僕たち、性格が似ているかも!僕も自分の嗅覚を信じて生きてきたから。迷惑をかけてしまった人には、ごめんなさいとしか言いようがないけど」と意気投合。
次のターゲットは安蘭けいさん。早見さんと杉原さんから、「女性からカッコいいと思われる女性になる秘訣は?」「なんでそんなにカッコいいの?」と聞かれた。
「宝塚で男役をやっていたからだよ!カッコよく見えるように研究したし、もともとの性格もこんな感じだし。子どものころから、気風のいい女性やキャリアウーマンになりたいと思っていたから、今の私があるのかも。でも、その真逆の、支えてあげたいと思わせる女性に憧れます!」(安蘭さん)
須賀さんには、杉原さんから今回の役柄と絡めた質問が出た。「劇作家のロルカが自分自身を投影したのが花婿役、ロルカの母親を投影したのが花婿の母親役なんです。ロルカはすごくマザコンだったらしいのですが、須賀さんはどうですか?」と投げかけられ、間髪入れず回答。
「マザコンですね。お母さん大好きです。小学生までは母親と一緒に仕事の現場へ行っていて、母の大変さを間近で見ていたから、感謝しかありません。反抗期もなかったです。でも、4歳から16歳頃までついてくださったマネージャーさんがもう一人の母親という感じだったのですが、その方にはちょっと反抗期がありました(笑)」(須賀さん)
ラストは杉原さんに、「スタッフ側ではなく、表に出ていたこともあるんですか?」と安蘭さんから質問。
「大学の授業で、スタッフ志望であろうが役者志望であろうが、お互いの気持ちがわかるように学生の間は両方やれと言われていたので、学生時代は表に出る側もやっていました。でも、すごく恥ずかしくて…。人前に立って、言葉を発して、感情を出して、というのは照れてしまう。舞台を観るのもディレクションするのも楽しいのに、自分が出る側は一生無理…」(杉原さん)
すかさず、安蘭さんが「じゃあ、私たちのこと、恥ずかしいことやっているなぁと思って見てるの?」と突っ込みを入れる。「イヤイヤイヤ…」と慌てる杉原さんを見て、ステージ上も客席も笑いに包まれた。
和気あいあいとした雰囲気の中、チームワークの良さを感じさせるやり取りを繰り広げたあとは、作品の話へ。
「『血の婚礼』は海外の戯曲ということで、難しいイメージやとっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。作品のおもしろさや、杉原さんが考えている演出プランなどあれば、教えてください」(須賀さん)
「ロルカは偉大な詩人なので、難解な話かなと思われるかもしれませんが。簡単に言うと、婚約した花嫁と花婿がいて、花婿はマザコンで真面目に生きてきて、やっとお嫁さんもらえる、お嫁さん大好き!と思っている。でも花嫁は元カレのことを忘れていなくて、結婚式当日にやっぱりレオナルドがいい!と逃げてしまう。最後に花婿とレオナルドが決闘をして、さぁどうなるのか…という話です。すごくシンプルで単純。今の感覚で言うと、よくある恋の話であり男女の恋愛模様なわけですが、戯曲が書かれた当時のスペインの人たちからしたら、タブーを芝居にしたという衝撃があったと思う。当時と現代では同じ衝撃にはならないけれど、観た人に何らかの違った衝撃を与えられるように工夫できたらいいなと思っています。ご覧の通り、美しい4人が織り成すドロドロの愛の物語なので、美しい舞台で、美しい人々が、泥まみれに血まみれになっていく姿を、鮮烈に描けたらなと思っております」(杉原さん)
最後に『血の婚礼』の公演プログラムやオリジナルTシャツなど、作品関連グッズが当たる抽選会を実施し、トークショー参加者全員での記念撮影をして、イベントは幕を閉じた。