インタビュー
日本ミュージカル界を牽引するふたりのレジェンドを筆頭に、魅力的なキャスト陣が勢ぞろいする本作。市村正親と鹿賀丈史は、残りの人生をかけて市民のために公園を作る男、主人公・渡辺勘治を、全身全霊をかけて演じる。渡辺勘治とうまくコミュニケーションがとれない息子・光男役には、再演から引き続き村井良大。物語の語り手でもある小説家役を、平方元基と上原理生がダブルキャストで演じる。渡辺勘治に再び生きる力を与える女性・小田切とよ役に高野菜々、光男の妻・一枝役に実咲凜音、ヤクザの組長役に福井晶一。そして登場人物の中で最も腹黒い助役を、鶴見辰吾が演じる。
今回は、小説家役を務める平方元基さんと上原理生さんにインタビュー。作品や役に対する思いから、お互いに感じる魅力、お客様へのメッセージなどをお聞きした。
(左から)上原理生さん、平方元基さん
── まずはミュージカル『生きる』をご覧になったときの感想と、出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
平方元基(以下、平方) 幕が開いた瞬間に、昭和27年という戦後の世界…空気感、温度、ニオイ、いろいろなものがちゃんと存在していたのが驚きでした。ミュージカル作品で日本の文化や歴史に触れることはなかなかないけれど、言葉も世界観もリアルで違和感なくスッと入ってきたんです。
上原理生(以下、上原) 本当に。よくぞ、あの黒澤明監督の映画作品を、舞台として完成させたなと思いました。
平方 そう!まずそこがすばらしいよね。初演は確か「赤坂ACTシアター」で、あの劇場は舞台面が低いんですよ。だからより舞台が近く感じて臨場感もあった。あのときはまさかその作品に自分が出るとは思っていませんでしたけど。
上原 出演が決まったときは、まず驚き。そして、「やったぁ!」と思いましたね。僕も自分がまさか出るとは思わずに初演や再演の舞台を観ていましたけど、自分なら小説家の役だろうと思っていたんです。息子役ではないだろうなと。
平方 そうかな(笑)。全然合うって、息子も。
上原 いやぁ、ちょっと、俺が息子だと強すぎるじゃん。
平方 いま想像してみたけど、すごく荒れ狂っている息子かもね。一度すねたら部屋から出てこない感じもする(笑)。
── 小説家の印象と、現時点ではどう演じたいと思っているか教えてください。
上原 小説家は、主人公の渡辺勘治さんがそれまでの人生で関わることのなかった部分というか、勘治さんとは反対側で生きていた人物なんだろうなと思っています。最初に観たときはアウトローとかアナーキーな印象がありましたね。何かの記事で読んだのですが、黒澤映画の「生きる」の脚本の中で、メフィストフェレス(ドイツのファウスト伝説に現れる悪魔の名前)のようなというト書きがあったそうなんです。これは役のとっかかりになるかもしれないと思い、ゲーテの戯曲「ファウスト」を買って読み始めたところで…、いま調査中です。
平方 僕たちの間で「調査中」というワードがツボになっていて。どんどん使っていこうと思っているんですよ(笑)。小説家はストーリーテラーでもあるので、お客様に向かって喋っていることと、物語の中で小説家として生きているということ、ふたつの次元が同時進行なわけです。僕は、そこをきちんとやらないとこの役が存在する意味がないんだなと感じました。その課題をクリアすれば、より深く物語に没入できるし、俯瞰の目でお客様に説明することができる。その役割を全うしたいです。
── 平方さんは、何か調査中のことはありますか?
平方 「調査中」に触れていただきありがとうございます(笑)。ミュージカルなのでもちろん歌があるのですが、いきなりバーンと歌ってしまうのは違う気がする。どんな言葉をどんな風に旋律に乗せればより世界観が伝わるのか、そこをちゃんと意識したいと思っています。でもまだ楽譜をもらっていないので、台本を読みながら調査中です!
上原 元ちゃんの話を聞いていて思ったのですが、黒澤映画版だと余計な説明をあまりしないじゃないですか。役者の表情で伝えるというか。観る側もそこから考えさせられるし、想像が広がっていく。ミュージカルとして歌を入れると説明っぽくなってしまうこともあると思うのですが、ミュージカル『生きる』は、もとの世界観をすごく大切にして丁寧に作られていると感じました。「歌です!」っていう感じではなく、物語や台詞にとても寄り添っている、一体になっているなと。
平方 すごく盛り上がって歌が前に出てくるシーンは、極力絞られているイメージがありますね。ここぞというところはドーンと歌うし、当時は使われていない楽器も舞台上では鳴るわけですけど、絞られているからこそそれがとても効果的なシーンになっていたりします。
── おふたりは久しぶりの共演とのこと。お互いに、役者として魅力を感じているところはありますか。
上原 以前共演したのは2011年なので、12年ぶりですね。
平方 理生の魅力的なところは、こんな風にすごく落ちついて朴訥としている感じなんですけど、胸板の中身が…。
上原 胸板の中身!?
平方 そう、胸の中がわーっと燃えているのがわかる俳優さん。見た目で熱いというのではなく、中身、心で表現する人だなと思います。だから歌を聴いても惹かれる。本人が素敵なのはもちろんだけど、その歌自体が素敵に聴こえるし、役自体がよく見える。役より自分が前に出ないけれど、そこにちゃんと気持ちが入っていて、とても魅力的な俳優さんです。別のインタビューで役者という仕事が自分の使命だと言っているのを聞いて、そこもすごいと思いました。
上原 だってこれしかできないもん。一般企業には就職できないよ、どうしよう?
平方 これしかできないって言えるのがすごいよ。腹がすわっているんでしょうね。
上原 元ちゃんとは、この12年間なかなか一緒に仕事をする機会がありませんでしたが、活躍する姿はずっと見てきました。自分がなかなか普段やらないような役柄をされていて、素敵だなぁ、すごいなぁと。
── そんなおふたりが今回はダブルキャストですね。
上原 役者としてのデビューも同じようなタイミングで、お互いにいろんな経験をしてきて、こうして同じ現場で同じ役ができるとは…。どんな元ちゃんが見れるのか楽しみです。
平方 12年前と全然変わっていなかったらうけるね(笑)。
上原 変わってないわけないと思うけどね(笑)。
平方 生きていれば紆余曲折いろいろあるけど、生きているからこそまた会えるんですよね。本当に、そういうことを感じさせてくれる作品で再会できたのがうれしいです。
── 最後に、公演を心待ちにされているお客様にメッセージをお願いします。
平方 コロナ禍が落ちついたのに、全然すっきりしない気持ちって、皆さんきっとあるのでは?その答えが、このミュージカル『生きる』という作品の中にあると思います。もっと人生炸裂していいんだという希望を持って帰れると思うし、とにかくエネルギーに満ちています。生きたい人、生きている人は見るべき作品です!
上原 本当にその通り。いま、どう生きていけばいいのかわからない人も少なくないと思います。こんな混迷した世の中で、自分の核となるものを見つけて生きていくことは難しいかもしれない。でも、どんな小さな核でもいいから持って生きるということ、それがどういうことなのかを投げかけてくれる作品じゃないかな。ミュージカルを観たことがない人や、ちょっと敷居が高いと感じている人は、ミュージカルだと思わずに劇場に来てください。映画という二次元だったものが、舞台という三次元で開幕しますよということなんです。作品に興味があったらぜひご覧ください。絶対に感動すると思います。
<スタッフ>
スタイリスト:八木啓紀 / ヘアメイク:真知子(平方)
スタイリスト:岡本愛香 / ヘアメイク:yuto(上原)