ストーリー
STORY
この物語はメキシコから発掘された〈謎の石仮面〉にまつわる2人の青年の数奇な運命を追う冒険譚である!
19世紀、イギリス――。貴族階級の一人息子、ジョナサン・ジョースター(松下優也/有澤樟太郎)は、“ジョジョ”の愛称で呼ばれ、父ジョースター卿(別所哲也)の厳しくも温かい教育の下で“本当の紳士”になるよう育てられていた。そのジョースター家に、スラム街で生まれ育ったディオ・ブランドー(宮野真守)が養子として迎え入れられる。病死した父ダリオ・ブランドー(コング桑田)が、かつてジョースター卿の命を救った恩人であったため、ジョースター家に引き取られたのだった。
二人は対等に育てられ、逞しく成長していくが、ディオは、“ジョジョ”の全てを奪おうと画策していた。愛犬ダニーや友人たち、初恋の相手エリナ・ペンドルトン(清水美依紗)、ついにはジョースター家の財産までも次々と侵略していこうとする。ディオの邪悪な企みに気が付いた“ジョジョ”は、ロンドンの貧民街・食屍鬼街(オウガーストリート)に向かい、そこで仲間になったスピードワゴン(YOUNG DAIS)の協力を得て、ディオの陰謀に加担したワンチェン(島田惇平)を連れて屋敷に戻る。絶体絶命となったディオは、ジョースター家に飾られている、闇の力を持つ〈謎の石仮面〉を利用し、強大な力を得る。
圧倒的な力を手にしたディオに対抗するため、“ジョジョ”は〈謎の石仮面〉を追い続けるウィル・A・ツェペリ(東山義久/廣瀬友祐)の厳しい修行に耐えて〈波紋法〉を体得し、スピードワゴンとともにディオとの決着をつける旅に出る。一方、ディオは切り裂きジャック(河内大和)や伝説の騎士たちなどを従え、邪悪な帝国を築いて“ジョジョ”の訪れを待つ。
“ジョジョ”とディオの長きにわたる因縁が、その奇妙な冒険が、いま始まる——。
インタビュー
INTERVIEW
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』で、主人公のジョナサン・ジョースターをダブルキャストで演じる松下優也さん、有澤樟太郎さんにインタビュー。奇しくも同じ兵庫県出身で同郷だという「縁」を持つおふたりに、作品の魅力や役への意気込みを聞きました。
(左から)松下優也さん、有澤樟太郎さん
「突き抜けた」正義感、
真面目さがジョナサンの魅力
――世界中で大人気の作品が初の舞台化となりました。どんな気持ちで臨まれますか。
松下 僕は「やる気」しかないですね! 「初舞台化」の「初」という言葉、なんかいいじゃないですか。昔から「初」や「前例がない」というものが大好きなので、今は本当に「やる気」しか感じていません。
有澤 僕も同じですね。名作である『ジョジョの奇妙な冒険』がミュージカルになるなんて、ファンからしたら大きな期待があると思いますし、そこでジョナサン・ジョースター=“ジョジョ”を演じられるのは、やる気とともに楽しみたいという気持ちが大きいです。
松下 1980年代に始まった原作コミックの連載が、現在もなお第9部となって続いているのもすごいですよね。ジョナサン役が決まってからは、コミックスもアニメも見れば見るほどジョナサンが可愛く思えてきて、どんどん好きになっています。ジョナサンは、「可愛い」「突き抜けている」「カッコいい」!
有澤 ジョナサンは「突き抜けた」というところが大切ですよね。突き抜けた正義感、突き抜けた真面目さ、突き抜けた人間らしさ……。ジョジョシリーズの中で、第3部からは「スタンド」という、ある意味「生身で戦わない」という新しい概念や戦闘法も出てきますが、「ファントムブラッド」はまだそれがない時代。より「人間らしさ」にフォーカスしているストーリーは帝国劇場という劇空間の世界観にもマッチしている気がします。
――舞台は19世紀のイギリス。貴族階級に生まれたジョナサン・ジョースターは「本物の紳士」であることを大切にしている誇り高い若者です。どう演じていかれるのでしょうか。
松下 「紳士」ということで言えば、ミュージカルはそもそも18世紀、19世紀を舞台にしたものが多いんです。だから僕も実は何度か経験があって……今作にも「ジャック・ザ・リパー(切り裂きジャック)」が出てきますけど、なんなら僕、舞台でジャックに出くわすの3回目ですからね(笑)。いろんな世界線のジャックを知ってます。だからそういう意味では、舞台となる時代設定や紳士的な存在にはあまりハードルは感じません。一方で意識するのは、さっき有澤くんが言っていたように、ジョナサンが「突き抜けている」っていうところですね。ジョナサンには表面的な紳士ではない、ちょっと「尋常じゃない」ところがあると思うので、それをどう表現していくのかは、まだまだ未知の部分が大きいです。
有澤 そうですね。文字通りの「紳士的」といえば、ジョナサンの父親、ジョージ・ジョースター役の別所哲也さんをはじめ、紳士の役柄に精通された方がいらっしゃるので、そんな方のお芝居から学んでいきたいと思っています。ただ僕も、外側はもちろん大切ですが、ジョナサンの内面をどれだけ出せるかが大切だと思うので……今は準備稿を拝見したりしていますが、「あのセリフが歌になるんだ!」ということも楽しみでワクワクしています。
――ちなみに、おふたりがご自身で思う「ジョナサンに似ているところ」とは?
松下 そうですね、正義感に溢れていて、ピュアで真面目なところ……むしろ似ていないところを探す方がむずかしいんじゃないですか(笑)。
有澤 僕は20歳前後の頃、「“ジョジョ”が似合いそう」って言われたことがきっかけで作品を読んだのですが、当時は今よりもっと細かったこともあって、「全然似てへんやんか!」と思ったことを覚えています(笑)。似ているところは……正義感があって突き抜けているところ……?言葉にするとちょっと恥ずかしいですね。
松下 いやいや、お互いそこで選ばれているからね!(笑)
有澤 あはは、そうですよね(笑)。それでお願いします!
長谷川寧さんの演出なら
「ただのアクション」にはならないはず
――今作はかつて同じ荒木飛呂彦作品である『死刑執行中脱獄進行中』の舞台を手がけた長谷川寧さんによる演出です。先行ビジュアル撮影でもポーズ指導があったということですが、長谷川さんの印象や、どんな舞台になりそうというイメージはありますか。
松下 先行ビジュアル撮影では、カメラの横に寧さんがいらっしゃって、かなり細かく指導していただきました。なかなか難しかったです(笑)。夏には、今作に取り組むにあたって寧さんのワークショップにもお伺いしたんです。
有澤 同じ日ではなかったのですが、もう、すごかったですよね?ゾンビをやったり、水になったり……。
松下 そうそう(笑)。僕は、線の上を歩いているんだけど、ある一点で押されたら、再び別の点で押されるまで、それをずっと感じたまま動く、みたいなワークショップをやりました。
有澤 僕が言われたのは、箱に入って、自分が水になっていると思って全部の枠に触ってください、みたいな。そういう身体的な表現を学ぶことももちろんなのですが、「脳」を使ったワークショップもいろいろとやって、「ジョジョってそんなにいろんなことをやるのか」って、びっくりしましたね。
松下 演出家の方だし当然ではあると思うのですが、寧さんにはすごく「アート脳」みたいなものを感じました。僕は小さい頃からずっとダンスをやってきたのですが、今回のようなワークショップは初めてで。動きに対するアプローチがもう全然違うんですよね。0から0.1を作るその入り口からして全く別物だと思いました。それがいわゆる「コンテンポラリー」と言われる表現なのだと思いますが、この体験がすごく新鮮で、面白かったです。ワークショップは、最終的に目指す形に行き着く前に、小さなところから積み重ねる、そんなアプローチのひとつなのだろうなと感じました。
有澤 そうですね。ただ僕は2時間くらいのワークショップに参加しただけなのに、足がパンパンになりました。ストレッチして臨みたいと思います(笑)。
松下 ハードだよね(笑)。それから寧さんに関しては、僕はどこか勝手に「こんな作品を作る方とは、なかなか打ち解けるのは難しいのかな」と構えていた部分があったのですが、一緒にワークショップをやってみると、とても気さくな方で。寧さんがやりたいことを一方的に僕たちが表現する、ということではなく、お互いにセッションというか、ディスカッションしながら進めていける、僕たちのアイディアも受け入れてくださるという、そんな器をお持ちの方だという印象を受けました。
――それは稽古で出来上がっていく部分も楽しみですね。
松下 はい。とにかく“ジョジョ”の舞台は、一対一で肉弾戦で戦うシーンも、ただのアクションにはならない、ということは言えるかなと思います。指をピュッてやるだけで、すっごいことになるかもしれない(笑)。
有澤 (笑)。長谷川寧さんももちろんですが、美術や衣裳など今回関わるクリエーターの方たちが、もちろん普段から舞台演劇に関わっている方もいらっしゃいますが、それに加えてファッションデザイナーさんだったり、ある意味「異種格闘戦」みたいなところがあって、本当に面白い舞台になると思います。キャストには宮野真守さんや別所哲也さんなどベテランの俳優さんとともに、ラップや音楽をされている方もいらっしゃって、果たしてどんなエネルギーのぶつかり合いになるのか……。みなさんの「“ジョジョ”愛」の中で、僕もしっかり役を演じていけたらと思っています。
実は同じ兵庫県出身!
分かち合えるものがあるかも
――松下さんと有澤さんは今回が初共演かと思いますが、お互いへの印象はありますか。
松下 有澤くんはまず、「デカい」! 僕もそれなりに身長はあるのですが、とにかく背が高いなって。あとは「爽やか」。つまりまさにジョナサン!僕は今33歳で、有澤くんは28歳かと思いますが、あの頃の僕にはそんな爽やかさはなかった気がする(笑)。もっと人を信じていなそうな目をしていたと思います……。
有澤 いやいや(笑)。僕は松下さんが僕と同じ兵庫県出身で、同郷ということを知っていましたので勝手に注目していました。舞台『花より男子』で道明寺役をされていたこともあって、「こんな役できる方がいるんだ!カリスマ性があるな」と思っていて。実は前の舞台の稽古場が同じだったんですよ。でも、別の作品の稽古中ですし、なんとなくそこではお会いしたくなくて……。数日前にようやくお会いしたのですが、嬉しくてすぐにインスタグラムをフォローしちゃいました(笑)。
松下 確かにすぐにされていました(笑)。
有澤 実際にお会いしても、思っていたイメージ通りの方で。
松下 そうね。カリスマ性しかないの(笑)。
有澤 (笑)。そんなこと言っても一切鼻につかないですし(笑)。これから仲良くさせていただけたらと思っています。
――今回はそんなおふたりが「ダブルキャスト」ということですが、「ダブルキャスト」への期待や思いはありますか。
松下 ……(有澤さんに)ダブルキャスト、多い?
有澤 いえいえ、まだ3回目くらいかと。
松下 自分もそんなに経験があるわけではないのですが、一番最初に「ダブルキャスト」に取り組んだときは、「ライバルっぽくなるのかな?」と思ったこともあるのですが、実は全然そんなことはなくて。ひとりでやるよりも「1.5倍は良くなる」というのが実感です。というのも、(これは演出家さんのやり方にもよりますが)相手が稽古している姿を見られることで、自分が見逃していた部分にも気がつくことができたり、より良いアプローチを取り入れたり……ということがお互いにできるんです。僕たちは自分の役に対してプロフェッショナルと言えるものを目指しますが、それがふたりいるわけですから、単純にクオリティが上がるし、心強いですよね。それに、同じようにセリフを言って、歌って、動いたとしても、キャストが違えば絶対に同じにはなりません。そこで対峙する他の役者さんもいるので、そのケミストリーの違いはお客さんに楽しんでいただけるんじゃないかなと思いますね。
有澤 僕は基本的にひとりだと視野が狭くなってしまったり、ある一点ばかりに気を取られていっぱいいっぱいになってしまうことが多いんです。ダブルキャストという形になることで、おそらくある程度は自分や役を客観的に見られる機会が増えると思うので、安心感がありますね。特に松下さんは、先にもお話ししたように同郷なので……。だから、同じ役を演じるというところでもそうですが、個人としても分かち合えるものがあるんじゃないかという期待もあって楽しみにしています。
松下 兵庫公演もあるしね!
有澤 そうそう。今回は偶然にも千穐楽が故郷の兵庫、兵庫県立芸術文化センターなんです。まだまだ先になりますが、頼りにしています!
現代に通じるテーマまで含んだ作品。
楽しみにしていてください
――最後にジョジョシリーズ、また舞台『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』の魅力や見どころについて教えてください。
松下 原作の「ファントムブラッド」に関しては、ディオは「ただの敵ではない」というところが重要な気がします。ジョナサンとディオはどこか表裏一体、ディオがいるからジョナサンがいる、ジョナサンがいるからディオがいる……まさに最後のシーンでそんなやりとりがあるのですが、ここは舞台化においても非常に大切だし、自分が演じさせてもらう上でも魅力的だと思っている部分です。生身の人間だからこそできるものを大切に演じていきたいですね。
有澤 世界中で愛されている作品で、セリフも、独特のコスチュームも、ファンはみんな覚えている作品。前の舞台でご一緒したなだぎ武さんも大の“ジョジョ”ファンで、大切なフィギュアまでくださって応援してくださいました。「ファントムブラッド」は、長い長い“ジョジョ”シリーズの最初の物語でもあるので、大切に演じなければと思っています。
松下 準備稿を拝見しましたが、「あの物語をよくぞ!」というほどよくまとまっていたよね。もちろんト書きだけで想像がつかない部分もありますが、とても楽しみになりました。
有澤 火もいっぱい出てきますよね!「どうするんだろう?」とは思いますが、寧さんの演出で、きっと納得できる形になるのではないかと思っています。ファンタジー作品ですし、原作は80年代の作品ですが、寧さんが記者会見でもおっしゃっていたように、社会的格差や貧困の問題など、現代にも通じるテーマを含んだ作品なので、そのリアルさまで感じていただけるような舞台にしていきたいです。
松下 ただビジュアルを寄せるだけじゃない、厚みのある作品にしていきたいですよね。“ジョジョ”は現実離れしたところも多い作品ですが、生身の人間が演じますので、なんとか「千穐楽にぶっ倒れる」というエネルギー配分を意識して……「初日にぶっ倒れる」じゃなくてね(笑)、全員で走り抜けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
(取材・文/小川聖子)