INTERVIEW
女優 珠城りょうさん
── 第二次世界大戦直前の上海で“上海の薔薇”と呼ばれた実在の日本人ダンサー、マヌエラの半生を描く物語です。この作品のどこに惹かれて、出演を決めたのでしょうか。
物語自体にも非常に興味を惹かれたのに加え、この作品はダンス、音楽の要素も入ったエンターテインメントですが、ストレートプレイの要素も大きく、もともとストレートプレイに挑戦したいという気持ちが強くありました。しかもいつも拝見しているパルコのプロデュース作品に出られる喜びがあり、ぜひ挑戦させていただきたいなと思いました。
── 物語の印象は。
初演の台本を読ませていただいたのですが、舞台が第二次世界大戦直前ということもあり、非常にシビアなものが盛り込まれています。そこで生きる人たちが「今、この瞬間をどう生きるか」と葛藤している物語。それぞれのキャラクターが非常に人間臭く描かれているところが魅力的です。
──まだお稽古前だと思いますが、現時点で思う、マヌエラ……永末妙子さんの魅力は。
自分の意見をしっかり持って、それをはっきり言葉にして人に伝えることができる人。その分、まわりからはとても強い人間だと思われるし、キツい女性にも見られがちですが、この時代にこの場所で女性が生きていくことを模索していた人だと思います。ひとりの女性としての葛藤や、弱さ、儚さもたくさん感じました。その両極を表現していきたいです。台本を読むと、感情の層が幾重にもなっていて、本当に思っていることが見えるようで見えないんです。後半になると、本音をポロポロっと吐露していくのですが、そこまでは周囲の人間に本心を見せない。その心の揺らぎをどう表現するかは、研究していきたいところです。
── “上海の薔薇”って、すごくカッコいい呼び名ですよね。そう呼ばれる女性を演じることについてはどう思いますか。
たぶん見た目の美しさだけではなく、彼女の精神的な部分が気高いからそう呼ばれたのではないかと想像しています。だから彼女の誇り高い生き様が見えるように、役を作っていきたいです。また戦時下の上海は、陰謀渦巻くようなダークなイメージがありますが、そういう世界観だからこその大人っぽさ、色気も漂っている。そこに挑戦できることも、嬉しいです。
── 初演(1999年)は、マヌエラを天海祐希さんが演じていました。
その役を演じられることを嬉しく思います。ただ今回、演出家さんもキャストも変わり、まったく違う形になります。初演の方々への敬意を持ちつつ、自分たちなりの『マヌエラ』を、演出の千葉哲也さんと一緒に作っていけたらと思います。
── 共演者も個性豊かな面々ですね。渡辺大さん、パックンさんにはどんな印象をお持ちですか。
皆さん「初めまして」ですし、私からするとテレビでずっと見ていた方々。大さんは、現代劇はもちろん、時代物でもいつもピタッとはまり、とても落ち着いた、大人の包容力みたいなものをお持ちの方ですので、この時代の人物である和田海軍中尉をどう演じられるのか、私も楽しみにしています。勝手に、大さんにはぴったりな役なんじゃないかなと思っています(笑)。パックンさんは、実は俳優として芝居をすることに夢を抱いていたというインタビューを拝見しました。それが念願叶って……と答えていらしたので、とても前向きでよいエネルギーを作品に持ち込んでくださるんじゃないかなと思います。皆さんご一緒できるのを楽しみにしています。
── 公式サイトなどに「音楽とダンスと芝居が融合するエンターテインメント」「DANCE ACTとして新たに甦らせる」と書いてあるのも気になるところ。ダンスの要素も多い舞台になりそうですね。
踊りはやはり感情を身体で伝えるということが原点だと思います。宝塚時代から、どういう心情を動きで伝えたいのかを大切に踊ってきました。おそらくそこに、より重きを置いて踊っていたのがマヌエラさんだと思うので、そのあたりをお芝居と融合させつつ、感情を燃やしていけたらいいなと思います。
── マヌエラの踊りをするために、準備したいことなどはありますか。
資料などを拝見すると、妙子さんが踊っているのはスパニッシュだということで、括りが大きくてそれがフラメンコなのかわからないんです。ですので、振付の本間憲一さんがどういうダンスを作られるのか、演出の千葉哲也さんがどういうダンスを求めるのかに委ねる気持ちですが、何が来ても対応できるようなベースは作っておきたいですね。今まで踊ってきたのはジャズダンスがベースではありますが、“男役”というジャンルのダンスでしたので、マヌエラとして踊れるように、研究していきたいです。
── マヌエラは「私は踊るために生まれてきた」と言いますが、ずっと舞台に立ってきた珠城さんも、その心境は共感できるところでしょうか。
舞台で表現する時、その瞬間は、何にも縛られない。自分自身の心の赴くままに存在できます。妙子さんも、踊っている時が自分自身を一番強く感じられる瞬間だったんじゃないかなと思うので、そのあたりはやはり共感しますね。
── メインビジュアルでは、赤いドレスを着ていらっしゃいます。この撮影時はどんな心境でしたか。
こういうドレスで撮影するのが初めてで、非常にソワソワしました。男役の時は、だいたい身体の表面が布で覆われていますので(笑)。ただ、このドレスや照明など、色々なものに助けていただき、『マヌエラ』の世界観を体感できました。あのドレスを着た時に、「こういう感じの方なのかな」とマヌエラ像が湧き上がってくる感覚があり、楽しかったです。
── ドレスと言えば、珠城さんはドラマ『マイファミリー』でウエディングドレスも着ていらっしゃいました。宝塚卒業から1年で、どんどん男役時代にはなかった新しい役柄を演じられていますが、この環境の変化をご自身はどう感じていらっしゃいますか。
楽しいです! 宝塚在団中は、もちろん応援してくださっていた方々は男役の自分を好きでいてくださった。ですので、こうやって活動していくことを皆さんがどう感じるのかは非常に気になっていたのですが。宝塚にいた時は、自分が男役であることにすべてをかけていましたし、私生活でも男役であることを意識して生活していた。その分、退団したら自然と本来の自分の良さが出ていけばいいなと思っていたので、その点は非常に気持ちの面でスムーズにできていますし、俳優としてもいいスタートを切れていると思います。また、ありがたいことに、ファンの皆さんも「男役・珠城りょうも好きだったけれど、それ以上にただの珠城りょうさんが好きです」とおっしゃってくださる方が非常に多いんです。こういう気持ちで様々な役に挑めるのも、ファンに恵まれたのが大きいです。
── 最初にストレートプレイに挑戦したかったともおっしゃっていました。様々なインタビューなどを読むと、珠城さんは本当に演劇がお好きなんだろうなと感じていますが、ストレートプレイへの思いをもう少し詳しく教えてください。
そうなんです、本当にお芝居が好きで。宝塚の下級生の頃から、東京公演に来るたびにひとりで蜷川さんや野田さんをはじめ、色々な演出家さんの舞台を観に行っていました。ストレートプレイはリアリズムを追求しますが、宝塚はある意味真逆の、夢の世界。宝塚でもその世界の中でのリアルを追求していましたが、やはりひとつのエンターテインメントとしてお届けするところに重きを置いています。でもストレートプレイでは、より人々の葛藤や醜い部分も含め、リアルな心情が表現しているところが面白く、どんどん私は芝居にのめり込んでいきました。お芝居って、演じる側も観る側も、それが嘘の世界だとわかっているのですが、ストレートプレイはよりそれが現実のようにリアルに感じさせてくれるんですよね。なので、いつか言葉のやりとりだけで物語を紡ぐストレートプレイに挑戦したいとずっと思っていました。
── これから千葉哲也さんの演出のもと『マヌエラ』を作っていくという段階で答えづらいかと思いますが……将来的に、この人の演出作品に出てみたい! という夢はありますか?
それは“ご縁”だと思っているのと、口に出したら来なくなっちゃう気もするので、言わないようにします(笑)。言わずに巡ってきたら、それこそ運命だと思うので。声がかかる俳優でいられるよう、頑張りたいです。
── 最後に、『マヌエラ』を楽しみにしている皆さんにメッセージを。
2023年の幕開けに『マヌエラ』に出演させていただきます。今この時代にこの作品を再演するということに、必ず意味があると思っています。この作品の中に込められたメッセージを、今の私と、今のキャストで、一番いい形で表現し、ご覧いただく皆様にこの『マヌエラ』の世界観をお届けできるよう精いっぱい努めたいと思います。ぜひ劇場に足をお運びいただけたら嬉しいです。
(取材・文・撮影:平野祥恵)