INTERVIEW
咲妃みゆさん(左)、昆夏美さん(右)
── ミュージカル界に欠かせない女優であるお二人ですが、同じ作品に携わるのは、初めてでしょうか。
咲妃 以前、『Billboard Live presents Premium Musical Selection』というミュージカルコンサートでご一緒させていただきましたが、お芝居でご一緒するのは初めてです。
昆 役でももともとゆうみちゃん(咲妃)が宝塚歌劇団に在籍されていた時から面識はあり、実はもう長いお付き合いなんです。
咲妃 ね。最初に会ったのは何年前だっけ?
昆 赤坂でごはんを食べたから……赤坂ACTシアターで『ローマの休日』を公演していた時? もっと前だっけ?
咲妃 私、まだ月組に在籍していた時のような気がするなあ……少なくとも7、8年は前からのお友だちです。それ以前も私はもちろん一方的に存じ上げていましたが。
昆 こっちも一方的に観ていましたよ(笑)!
咲妃 共通のお友だちを介して知り合いまして……って、なんだか馴れ初めを語る、みたいになってきた(笑)。
── では、お互い女優さんとしてどう見ていらっしゃいますか?
昆 大っ好き、です!
咲妃 あたしも大好き!
昆 本当に大好きで……。
咲妃 大好き(笑)。
昆 (笑)。私はゆうみちゃんのお芝居の表現が、客席からファンとして観ている時から大好き。私とは持ち味がまったく違っていて、だからこそ憧れました。役がかぶることはないだろうなと思っていたので、まさか同じ役を演じさせてもらう日が来るとは……と感慨深いです。
咲妃 私が初めて昆ちゃんの舞台を観たのは『レ・ミゼラブル』。彼女が上手花道のセットに座っているシーンがあるのですが、それだけで惹き付けられた。客席に座っているんだから、舞台との距離は変わらないはずなのに、昆ちゃんのエポニーヌがぐぐっと近付いてきたと感じたくらいすごい存在感だった。空気を支配する女優さんですよね。
昆 いやあなたですよ、それは。この方こそ空気を支配しますよ!
咲妃 嬉しい(笑)。もちろん歌声も好きだし、すべての瞬間において手を抜かず、ちゃんと感情をフル稼働しているお芝居も好きで……。
昆 あとゆうみちゃんの目が好き! 目はその人の内面を映すと言いますが、ゆうみちゃんの目を見ていると、役の生き様がわかる、そこが尊敬する。……この褒め合い、あと1時間はかかりますよ?
咲妃 永遠に続いちゃいそう(笑)。
── (笑)。本作はオーディションだったそうですが、その仲良しのお互いが同じ役を受けているのはご存じでしたか?
咲妃 知らなかったです~。
昆 私も、知らなかった!
咲妃 だから昆ちゃんとダブルキャストでミス・ハニーに決まったと知った時はすごく嬉しかった!
昆 私も「えーーーー!! ゆうみちゃんと!?」ってなりました。
咲妃 両親は「いよいよゆうみも昆さんと同じ役をさせてもらえる役者になったのか」と喜んでくれました。ほんとよ?
昆 やめて(笑)。
咲妃 お友だちであるけれど、尊敬する女優さんだというのは、今までもこれからも絶対に変わらないから。昆ちゃんに穴が開くくらい、稽古場から観察させていただきます!
昆 私もそうします。頭のてっぺんからつま先まで。
咲妃 お互い、穴だらけになっちゃうね(笑)。
── お二人が演じるミス・ハニーは主人公マチルダの先生で、マチルダの味方になっていく存在ですね。お稽古に入る前だとは思いますが、現時点ではどんな女性だと捉えていますか?
昆 現代の大人の誰もが共感できるだろうなという女性です。そして、この物語の中で成長する人。ミス・ハニーは生い立ちやトランチブルから受けた経験がトラウマになっていて、前に進めていないのだけれど、別に自分は不幸ではない、自分はこれが幸せなんだと思っている。つまり自分で自分の可能性の範囲を決めてしまっている。それは大人としてわかるところだし、共感しやすいと思います。でもマチルダと関わることによって、彼女自身も成長していくという、彼女自身の成長物語でもある。作品のテーマにも繋がってくる責任のある役だなと思います。
咲妃 オーディションの時に「楽しい、嬉しいことばかりの人生を送ってきてはいない女性だけど、過去をマチルダに語る時に、自分のことを可哀想だと思って話さないで。彼女は悲劇の女性ではないということを念頭に置いて芝居をして」と言われご指摘いただきました。壮絶な人生を歩んでマチルダに出会う女性なので、お客さまが見たら、辛い人生を送っていた人だと思われるかもしれませんが、彼女には彼女なりのマイライフ、マイステータスがあって、その中で楽しみや幸せを見出そうと頑張っている。健気だけど芯は強かったり、色々な面を持ち合わせているんだと思います。まだ掴み切れていないところもありますが、稽古を重ねて見えてくるのでしょうし、挑みがいのある役に出会えて幸せです。
昆 うん、私もオーディションで「自分を可哀想だと思わない、嘆いているわけじゃない」と言われたのを覚えています。しかもマチルダを子ども扱いせず、対等なひとりの人間として唯一見ている大人。そこもやっぱり私は、子どもを前にすると対大人とは違う喋り方をしてしまったりするので、難しいです。可哀想でもないけれど、強いわけでもなく、しかもマチルダと同じ目線で喋れる相手という微妙なバランスをどうブレンドし表現するかが課題になってくると思います。
咲妃 お稽古場でもたくさん壁にぶつかるだろうことが想像に難くないので、昆ちゃんという良き相談相手がいてくれて、本当に心強い!
昆 ゆうみちゃんにそう言っていただけて光栄です(笑)。
咲妃 もうね、この笑顔が好き~!
昆 (笑)。私は、ゆうみちゃんのこのキャラが好き。
咲妃 また褒め合いが始まっちゃいました(笑)。
── ところで主人公マチルダはとても魅力的な女の子ですが、お二人の子ども時代は、マチルダに似ているところはありましたか?
咲妃 私は父が国語の教師で、幼い頃から本を読みなさいと教えられてきて、0歳の頃からずっと両親に読み聞かせをしてもらっていました。言われすぎて逆に読書から遠のいてしまった時期もありましたが、実家にはまだ、手の届かない高さまで本が詰まっている子ども用本棚があります。マチルダと同じく、それくらい本に囲まれて育ちましたが……もっと読書しておけばよかったな、と思っています(笑)。
昆 私は本はあまり読まない子どもだったな(笑)。マチルダに似たところは……あまりないかもしれません。彼女は自立しているし自我もしっかり持っている。私は周りから浮いてしまうことが嫌なタイプで、例えば「昆」という苗字も周りには誰もいなく、珍しがられるのが嫌だった。でもきっとマチルダだったら「これが私よ」と言えるんだろうな。尊敬するばかりです。
── 改めて、お二人が感じているこのミュージカル『マチルダ』の魅力を教えてください。
昆 私はまだこの作品を生で観てはおらず、脚本という文字を通してしか観られていないのですが、展開が早く、どんどん先が気になるお話。その中にマチルダのパワフルな魅力が詰まっています。さらに舞台はカラフルで、大きなブランコなども出てきたりする、とても立体的なセットと演出です。劇場であるシアターオーブがマチルダの世界に染まるはず。そして製作発表でマチルダ役の4人の子どもたちが「Naughty」を歌うのを観て、子どもたちが全力で表現するからこそ出てくる魅力って、大人には出せないと思ったし、私も一瞬で彼女たちに惹かれました。彼女たちに寄り添っていきたいですし、生みの苦しみはあると思いますが、作品を作り上げる初演キャストならではの楽しみもきっとあるはず。今、楽しみでワクワクしています。
咲妃 魅力はおそらく数えきれないほどあります。マチルダたちが闘う大人たちは、子ども目線では悪役ですが、キャストの顔ぶれを拝見しますと、どこか愛着の沸くような魅力的なキャラクターばかり。マチルダを取り巻くあらゆるもの、人が、何一つ欠けても物語が成立しないんだろうなと感じています。その中でミス・ハニーを演じるのは相当なエネルギーがいるとは思いますが、昆ちゃん同様、稽古が始まるのがワクワクですし、期待が膨らんでいます。きっとご覧いただくお客さまの想像を上回る感動や驚きをお持ち帰りいただける作品になると思います。
(取材・文・撮影:平野祥恵)