INTERVIEW
再びあの不思議な世界の住人になれることが嬉しいです
2020年の初演時に続き、“圧倒的な悪”として存在する綿谷ノボルを演じる大貫勇輔さん。近年はミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 〜北斗の拳〜』のケンシロウ役が高い評価を得たほか、2023年は大河ドラマ『どうする家康』での浅井長政役も話題を集めるなど、目覚ましい活躍を見せている。3年ぶりに綿谷ノボルを演じる現在の心境や、作品にかける意気込みを聞いた
俳優 大貫勇輔さん
初演で「衝撃的」と言われたクレタとのダンスシーンが見どころ
── 2020年の初演につづき、このたび3年ぶりとなる『ねじまき鳥クロニクル』で、大貫さんは再び綿谷ノボル役を演じられますね。まずは、今のお気持ちからうかがえますか。
2020年の公演はコロナ禍により、東京の数公演と、大阪での上演が中止になってしまいました。やはり、全公演できなかったことへの心残り、悔しさがありますので、こうして再び同作に取り組めるというのは本当に嬉しいことです。3年たった今だからできる、新しい『ねじまき鳥クロニクル』があるはずなので、それを探していきたいです。
── この3年でご自身が変わったところはありますか。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 〜北斗の拳〜』で主演をやらせていただいたことは大きいです。もちろんまだまだではあるものの、自分の中では役者としての自信がつきました。そんな成長した実感を携え、再び綿谷ノボルに臨んだら、自分がどう変化しているのか、どう進化しているのかが感じられるかと思いますので、それが楽しみでもありますね。
── 再び取り組む綿谷ノボルというキャラクターをどう作り上げるか、すでに何か考えていらっしゃることはありますか。
そうですね、いろいろと考えてます。綿谷ノボルは、決して感情豊かなキャラクターではなく、感情に起伏がない中、淡々としゃべって、偉そうにして……という人物です。歩いて、踊って、座った状態で歌って……という動きの中、どれだけ「怪しさ」を出せるのか、そんなところが課題になるかなと思っています。また、この役では劇中で歌を歌うのですが、前回は音程を取るのも必死、というところから始めたのですが……あれから僕も経験を積み、今回は恐らくもう少しいろいろなことに意識を向けて歌うことができるようになっているのではないかと思っています(笑)。大きな見どころとしては、クレタに乱暴する様子を踊りで表現するシーンですね。本当によく考えられた振り付けですし、照明とのコントラストも見事で……お芝居なのか、踊りなのか、その境界が曖昧なところがインバルらしく、演出とあいまって素晴らしい総合芸術になっています。僕の良さが発揮できるシーンでもありますね(笑)。
── 前回も話題になったシーンですね。悪役を演じる楽しさのようなものはありますか。
それは役によりますね。綿谷ノボルは正直、楽しいとは言えないですよ(笑)。もちろん精一杯演じるのですが、明るくもないし、性格も良くないし、人を傷つけるし……。悪役で言えば、少し前に、ミュージカル『マチルダ』でミス・トランチブルを演じたのは楽しかったですよ。子どもたちを恐怖で押さえつける人物でしたが、ビジュアルも強烈でしたし……。綿谷ノボルを演じる楽しみな点を挙げるとすれば、今回綿谷ノボルは僕の憧れのダンサーである、首藤康之さんとのダブルキャストであるところです。首藤さんとは前に一度だけお会いしたことはあるのですが、今回のようにしっかりコミュニケーションを取るのは初めて。首藤さんがどんなふうに綿谷ノボルを作りあげていくのかを見るのが楽しみですし、その姿からはきっと影響を受けたり、刺激をいただいたりということがあると思います。僕が作るものとはきっと全然違うものになるでしょうから、そこは予測がつきません。でもだからこそ本当に楽しみにしています。
人間の思考はこんなにも自由なのだと驚されます
── 次は、作品自体について教えてください。舞台『ねじまき鳥クロニクル』はどんなところが魅力だと思われますか。
今作は、イスラエル出身のインバル・ピントとアミール・クリガーが演出を務め、藤田貴大さんが脚本を、大友良英さんが音楽を手がけた作品です。舞台は、原作を読んだときの、夢なのか現実なのかわからなくなる感じや、なにか不思議な映像を見ているような感覚が見事に表現されていてとても美しいんです。僕はこの舞台の世界観が大好きなので、再びあの世界の住人になれることが嬉しくて。2020年度の上演では、村上春樹さんご本人もとても喜んでくださったことを覚えています。
── 前回公演で印象に残っているシーンはありますか。
間宮中尉を演じた吹越満さんのシーンですね。あのシーンは稽古にとても時間をかけたんですよ。夢のように移り変わっていくセットチェンジもいいのですが、照明をどのタイミングで切り替えて、小道具を誰がいつどこで掴んでという細かなところもしっかりと詰めて。大変でも、こだわって時間をかけて作ったシーンは面白くなるんだと実感しましたし、吹越さんが演じる間宮中尉がとにかく素晴らしくて……。とても好きな時間です。今回はダブルキャストなので、客席からも見られるんじゃないかな。それも楽しみですね!
── 大貫さんは、『ねじまき鳥クロニクル』という作品自体には何か印象をお持ちですか。
そうですね、僕は作品が伝えるメッセージももちろんですが、「あぁ、人の思考ってこんなにも自由なんだ」「人間の可能性って無限なんだ」ということを一番強く感じました。「村上春樹さんの頭の中はどうなっているんだろう」ということとか……そんな村上さんの偉大さ、人間の偉大さみたいなものが感じ取れる作品だと思っています。
── 最後に、劇場に足を運んでくれるお客さまにメッセージをお願いします。
僕は近年、特にこの一年は舞台から映像まで本当に幅広く、いろいろな役をやらせていただき、「役者になってよかったな」「役者って楽しいな」と思うことが増えています。前回の舞台『ねじまき鳥クロニクル』をご覧になった方には、そんな3年間を過ごした僕の進化も見ていただきたいですし、初めての方にもぜひこの不思議な世界を体験していただければと思っています。前回は、「チケットを持っていたのに見られなかった」というお声もたくさん聞きましたので、そんな方にもぜひ! ようやくとなりますが、見ていただけたら嬉しいです。それから実は僕、『ねじまき鳥クロニクル』と同じ時期に『ハリー・ポッターと呪いの子』にも出演しているんです。『ハリー・ポッターと呪いの子』の本番を行いながら、今作の稽古をして本番を迎える……映像作品と舞台の同時進行はありましたが、舞台と舞台は初めてで。まるで違う役を演じるので、自分でもどうなることやら(笑)。劇場に足を運んでくださるお客様の中に、二役の違いを楽しんでくださる方がいたら役者冥利につきますし、大変嬉しく思います。