新生PARCO劇場の幕が開く
生まれ変わった新PARCO劇場のお披露目。
そして多彩なオープニング・シリーズの記者会見は興味深い話題と笑いに満ちていました。
1973年、渋谷PARCO開店と同時にオープンしたPARCO劇場。当時は西武劇場と呼ばれ、独自のセレクトによる公演を行ってきました。オープン以来43年間に上演された作品は約1200。芸術監督を置かず、劇場のスタッフとクリエイターがタッグを組んで作品をつくりあげてきた軌跡が、その多彩な作品の数々に現れています。
2016年、渋谷PARCOの建て替えに伴い休館。約3年半の建て替え工事、準備期間を経て、2020年1月15日、新生PARCO劇場がお披露目されました。旧劇場と比較すると、ステージのスペースも客席も約1.5倍に。お客様がゆったり観劇を楽しめると同時に、ステージも広くなり、様々なチャレンジへと可能性がさらに広がりました。
今回のオープンに続いて1月24日からはこけら落とし公演。そして、3月13日よりオープニング・シリーズとして全14作品が、翌2021年5月まで上演されます。
会見前には黒い緞帳が降ろされ、旧PARCO劇場で上演されたさまざまな作品の中からピックアップしたポスターが緞帳上に飾られました。43年のPARCO劇場の歴史の一端を物語る、素晴らしい作品の数々。壮観ですらありました。
そして、オープニング・シリーズの記者会見がスタート。
これまでのPARCO劇場の歴史を踏まえ、新生PARCO劇場のお披露目と共に、3月から来年の5月までオープニング・シリーズ14作品のラインナップに従って、3月スタートの第一弾から、演じる俳優、演出家、脚本家などが次々と舞台の上に。藤井隆さんが司会・進行されました。
最初の作品は35年前に旧PARCO劇場で山崎努さん、渡辺謙さんによって上演された『ピサロ』。粗野な成り上がりの老将軍ピサロがインカ帝国に170名の兵を率いて攻め込み、王を生け捕りにして莫大な黄金を手にする、そしてその後はというストーリー。
今回、35年前にインカの王アタワルパを演じた渡辺謙さんがピサロを、アタワルパには宮沢氷魚さんが演じます。
渡辺謙さんは「『ピサロ』は私にとって本当に大きなエポックになる作品で、今度は逆にピサロに挑戦をします。私たちキャストもスタッフも万全の準備をして初日を迎えたい。お客様と一緒に、またこの劇場をつくりあげて行きたいと思います」と挨拶。
宮沢氷魚さんは「PARCOのオープニングシリーズの第一作ということでプレッシャーはありますが、それを楽しみつつ思いきり謙さんとキャストの皆さん、作品に対して体当たりで向き合いたい」
5月公演は『佐渡島太吉の生涯』
この作品では、佐々木蔵之介さん演じる他吉の一代記を描きます。
脚本の森新太郎さんは次のように挨拶。
「この作品は織田作之助が書いた短編小説「わが町」を舞台化したもの。森繁さんをはじめとする東宝の演劇人の方々がこの小説を脚本化し、また存分に話しをふくらませて、40年にわたる男の一代記として仕立てられました。主演の佐々木蔵之介さんは「人間、体を攻めて働かな、一人前にはならへん」というのが口癖の、熱くておバカでまっすぐな無骨な、そういう男の一生を演じきります。この作品は舞台のほとんどが大阪で、全編が大阪弁ですので、関西弁ネイティブのキャスティングにもこだわりました」
出演するNONSTYLEの石田明さんは「この新生PARCO劇場の顔に泥を塗らないように頑張っていきたい」
2020東京オリンピック開催の期間に重なる6月から8月は、三谷幸喜さんの三作品。
6月から新作『大地」、7月から8月は14年間のロングランを成し遂げた『ショーガール』、8月は三谷文楽『其礼成心中』という、バラエティに富んだ3ヶ月です。
三谷幸喜さんからの挨拶。
「新生パルコ劇場で3本の舞台。最初がオリジナルの新作『大地』。関係者の皆さんに嬉しいニュースがあります。もう本はできています。私の頭に中に。後は書くだけです(笑)2本目がショーガール。福田陽一郎先生のショーガールを僕なりにアレンジしています。主演は川平慈英さんとシルビア・グラブさん。3本目が三谷文楽。三谷文楽は2012年にPARCO劇場で初演以来、笑えて泣ける作品。今年3本、東京オリンピックと丸かぶりですが、スポーツに興味のない方はどうぞよろしくお願いします」と三谷さんならではのスピーチで会場は爆笑に。
6月の『大地』は役者についての物語。三谷流俳優論で、PARCO劇場の舞台出演は初めての大泉洋さん。「北海道で演劇をしていた20歳の頃、憧れて見ていたPARCO劇場に、ついに出るのかと本当に感慨深いです。台本は脚本家の頭に中にすべてあると言っていましたが、私は頭の中にすらないと思います(笑)どんな舞台になるのか、とにかくおもしろい舞台になるのを祈るばかりです」
同じく『大地』に出演の山本耕史さん。
「僕は1993年、1999年と続いて今回20年ぶり3作目になります。その間、PARCO劇場にはいろんな俳優さんの作品を観に来て、エネルギーをもらう客席側に座っていましたが、今回は皆様にエネルギーを与えられるよう挑戦したい」
そして同様に『大地』出演の竜星涼さん。
「僕が産まれるずっと前からあるPARCO劇場に初参戦、そして初三谷作品です。僕らのような若い世代が、日本の演劇界を背負って努力して、この新しいPARCO劇場で新しい風を吹かせながら挑戦し続けられたら」
8月の三作目は、三谷文楽「其礼成心中」。文楽による、笑いと涙に溢れた人情喜劇で、文楽の伝統と技芸を忠実に踏襲しながら、文楽の魅力を三谷幸喜の筆と演出で自由に創作された超・古典エンタテインメントです。
9月の公演は新作『ゲルニカ』。
ゲルニカとはスペイン内戦の最中、ドイツ軍による人類初の無差別空爆が行われた小さな町の名前で、その爆撃報道を聞いてピカソが一枚の絵を書いたことで、人間の暴力の時代を告げる象徴となりました。
「日本を代表する演出家の栗山民也さんからゲルニカという大変なお題をいただいてしまいました。2020年の今、私が脚本を書かせていただくなら、暴力の連鎖、その先を考えたい。暴力を起こすのも人間ですが、それに打ち勝つことができるのもまた人間だけです。そんな思いを込めて、新作の人間ドラマの執筆に挑みます」と脚本家の長田育恵さん。
10月は『ねずみの三銃士〜獣道一直線』
この作品は『鈍獣』『印獣』『万獣こわい』に続く作品シリーズで、脚本は宮藤官九郎さん、演出は河原雅彦さん。そして出演はお馴染みの生瀬勝久、池田成志、古田新太の三氏です。
生瀬さんは「獣道一直線。今、ネットで調べるとAVのタイトルが出ます。それを舞台化したものだとイメージしていただければいい(笑)」
池田さんも「『獣道一直線』がPARCOの猥雑でふざけた方も少しでも広めていけたら」
古田さんは「どれだけ下品なことができるかと今、企んでおりますので、シモネタ大好きな人は観に来てください」とそれぞれ楽しいトーク。
11月は脚本家前川知大さんの新作。
「PARCO劇場は3回目です。2015年にカタルシツ『語る室』という作品を書きましたが、それにもう一度取り組みたい。これをベースに今、もう1回新しく作り直してみようと準備を進めています。今日は秘密ですが、非常におもしろい俳優のキャスティングを予定しています」と前川さんから楽しみなメッセージ。
12月は宮本亜門さん演出『チョコレート・ドーナツ』
2021年1月は『志の輔らくごinPARCO2021』、『ラヴ・レターズ』
2月は井上ひさしさんの作品『藪原検校』を杉原邦生さんの新たな演出で。
「演劇界の世界では2月はいちばんお客様が入らない月ですが、客席の半分くらいは招待者なしで埋めたいと思います(笑)」と主役の杉の市を演じる市川猿之助さん。
3月は、天海祐希さん主演の『レディ・マクベス』
悪名高い女性の代名詞とも言える「レディ・マクベス」にフォーカスを当て、その人生と人物を描く新作です。
「PARCO劇場は21年ぶりで、宝塚を辞めて初めての舞台がこの劇場でした。今、また新生PARCO劇場に出させていただけるということは、とても幸せで大きなターニングポイントになれば」と天海さん。
4月は中井貴一さん主演の『月とシネマ』
会見当日、中井さんは他のお仕事でPARCO劇場に来れず、演出のG2さんが持参したiPadで参加しました。中井さんからは
「初めてストレートプレイを見に行ったのがPARCO劇場でした。そのとき、もし自分が舞台に出ることがあったら、ぜひPARCO劇場にというのが私の夢になりました。そして旧PARCO劇場では何本も舞台に上がり、夢のような時間を過ごしました。来年にはまたその舞台に出ることができ、新しいPARCOの歴史をつくっていく思いです」
G2さんは「作品は半年くらい前から中井貴一さんといろいろ打ち合わせを重ねて、先日、タイトルが『月とシネマ』に決定しました、ベテランのちょっと疲れた映画プロデューサーがとある地方都市の映画館の再建にからむようなお話になりそうです。わかりやすく、笑えて、でも何か深いところに染み渡るような作品にしたいと中井さんも私も思っています」
オープニング・シリーズ出演の俳優、脚本家、演出家の皆さんのご挨拶の後は、質疑応答の時間になりました。
三谷幸喜さんへ、手がけられる三作品がオリンピックに負けない秘策はあるかと質問が。
「ないですね。そんなときに私の作品をやってくださるというPARCOさんに信頼感を感じましたので、大いに応えたいと思います。ただ、出演者の中にオリンピックの聖火ランナーをやる人間がいて、裏切りやがってというのがちょっとありますけど(笑)」
次に、今後のPARCO劇場の方向性を打ち出していくオープニングシリーズのラインナップになったのは?という質問に対して、株式会社PARCO執行役 エンタテインメント事業部の井上肇氏は次のように回答。
「PARCO劇場にいる、プロディーサーたちが知恵を絞り、キャストの皆さんとも話して、こういうラインナップをつくりました。このようなプロデュース公演をずっと続けていくのが、新生PARCO劇場の使命だと思っています」。
『藪原検校』について、演出の杉原邦生さんと市川猿之助さんに、どのような藪原検校にしたいか、歌舞伎の演出も入るのかという質問。
杉原さんは「歌舞伎の演出は、今回はストレートプレイということなので、あまり意識して使わないようにしていこうと思います。渋谷の街に突然現れる『藪原検校』の世界をイメージし、今までにない井上さんの世界観、藪原検校の世界を演出でつくりたい」
猿之助さんは「歌舞伎役者は自分が演出をしていますが、なるべくそういう面を封じて、演出家の言いなりになりたいと思います(笑)」
最後は渡辺謙さんに。『ピサロ』が、オープニング・シリーズ第一弾を飾ることについて、気持ちを伺いたいとの質問。
「一作目ということでプレッシャーはありますが、まず私たちキャスト、演出、スタッフも含めて『ピサロ』の舞台をつくりあげる。それから、自分も参加した35年前の作品に負けないように。PARCO劇場はこんなふうに始まったという幕を開けたい」
司会の藤井さんの、時には少し毒を含んだ軽妙なトーク、登壇した俳優、脚本家、演出家の皆さんの楽しいご挨拶で、新生PARCO劇場のお披露目、オープニング・シリーズの記者会見は、笑いと暖かい雰囲気に満ちていました。
いよいよ幕が開く新PARCO劇場、3月からのオープニング・シリーズ。今まで以上にPARCO劇場から目が離せなくなりそうです。
PARCO劇場
オープニングシリーズ
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2020年3月13日(金)~4月20日(月)
「ピサロ」
作:ピーター・シェーファー
翻訳:伊丹十三
演出:ウィル・タケット
出演:渡辺謙 宮沢氷魚 栗原英雄 和田正人 大鶴佐助 首藤康之 長谷川初範 ほか -
2020年5月13日(水) ~6月7日(日)
「佐渡島他吉の生涯(さどじまたきちのしょうがい)」
原作:織田作之助「わが町」より 脚本:椎名龍治
潤色:森繁久彌 演出:森新太郎
出演:佐々木蔵之介 石田明(NON STYLE) 壮一帆 谷村美月
藤野涼子 大地洋輔(ダイノジ) ほか -
2020年6月20日(土) ~8月8日(土)
「大地」
作・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋 山本耕史 竜星涼 栗原英雄 藤井隆
濱田龍臣 小澤雄大 まりゑ 相島一之 浅野和之 辻萬長 -
2020年7月16日(木) ~8月7日(金)
PARCO MUSIC STAGE
「三谷幸喜のショーガール」作・演出:三谷幸喜 振付:本間憲一
作曲・編曲:荻野清子
出演:川平慈英 シルビア・グラブ
演奏:荻野清子(ピアノ) 一本茂樹(ベース) 萱谷亮一(ドラムス) -
2020年8月13日(木) ~8月20日(木)
「三谷文楽『其礼成心中(それなりしんじゅう)』」
作・演出:三谷幸喜
作曲:鶴沢清介
出演:竹本千歳太夫 鶴澤清介 吉田一輔 ほか
囃子:望月太明蔵社中 -
2020年9月
「ゲルニカ」
作:長田育恵 演出:栗山民也
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2020年10月
「獣道一直線!!!」
作:宮藤官九郎 演出:河原雅彦
出演:生瀬勝久 池田成志 古田新太 ほか -
2020年11月
前川知大 作・演出作品
作・演出:前川知大
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2020年12月
「チョコレートドーナツ」
作:トラビス・ファイン 脚本:谷賢一 演出:宮本亞門
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2021年1月
「志の輔らくご in PARCO 2021」
出演:立川志の輔
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2021年1月
「ラヴ・レターズ」
作:A.R.ガーニー 訳:青井陽治 演出:藤田俊太郎
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2021年2-3月
「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」
作:井上ひさし 演出:杉原邦生
出演:市川猿之助 ほか -
2021年3-4月
「レディ・マクベス(仮題)」
作:ジュード・クリスチャン 演出:ウィル・タケット
出演:天海祐希 ほか -
2021年4-5月
「月とシネマ」
演出:G2
出演:中井貴一 ほか