「俳優だからいいこと言わなきゃなんて思わない」「完璧な人間を見ても面白くないじゃないですか」…。「シェイクスピアも太宰も全然知らないんです」と前置きしていたのに、インタビュー中にこぼれる言葉からは、一筋縄ではいかない独特の思考とユニークな個性がかいま見え、ハムレット役にも太宰作品にも親和性を感じさせる俳優・木村達成さん。近年はミュージカルからストレートプレイ、さらには映画やドラマまで幅広い活躍を見せる木村さんに、作品への思いを聞きました。
木村達成さん
『新ハムレット』は僕のバイブル的な存在になるかも?
──まずは、シェイクスピア作品や、作家・太宰治にお持ちの印象があればお聞かせください。
それが全くないんです(笑)。僕はちょっと「ノー知識」過ぎるかもしれませんね(笑)。ただ今作の『新ハムレット』については、予備知識がゼロだった分、純粋にのめり込めている気がしています。
──『新ハムレット』を読まれて、ハムレットはどんなキャラクターだと思われますか。
ナイーブなことをいろいろと言う人物ですが、自分自身への自信というものはしっかり持った青年だと思います。だからこそ周囲は彼に「嫌だな」とか「好きになれない」という感情を抱くのではないかなと。台本を読み終わって、僕はハムレットにはとても共感しました。特に「苦しみが苦しみを生み……」や、「苦しいときに苦しいと言って、なぜいけないんですか」という、思ったことをそのまま口に出した彼のセリフは、とても人間らしくていいなと思いました。僕自身、「木村達成」として生きていて、「どうして僕が思っていることを理解してもらえないんだろう」と思う瞬間や、こんなインタビュー取材の中でも、「役者だからって、いいこと言わなきゃいけないの?」「役者ってそんなに完璧でいる必要ありますか」なんて疑問を感じることはありますから、そんな僕の気持ちにも近いこの作品は、もしかしたらバイブル的な存在になるかもしれません。さらにこの作品をきっかけに、自分が自分らしく、もっと確かな自分を持った自分に変わっていけたら嬉しいですね。稽古や本番で、五戸さんや他のキャストの皆さんとこの作品に取り組むことで、僕自身のことをたくさん教えてもらえるのではないかと思っています。
──とても「ハムレットっぽい」部分がおありなのですね。役作りのプランはありますか。
あまり考えすぎないようにはしたいですね。たくさんセリフがある分、自分で下手に感情をつけすぎないようにはしていきたいです。時代が変われば表現も変わるので、「僕がやるハムレットはこうなりました」くらいの、自分の感覚でやっていきたいです。セリフは多いですが、僕、滑舌がいいんですよ(笑)。そこは武器だと思っていますし、絶対に相手の胸に届ける自信はあります。
──作品内でハムレットはオフヰリヤに、「愛を言葉にしてくれ」と口にしますが、オフヰリヤは「そんな愛はしらじらしい」と返します。木村さん自身は、愛についてどんな風に考えていますか。
愛の質問ですか(笑)。うーん。ふたりのやりとりを読んでいて感じるのは、「愛しているならなんでそう言えないの」ということですね。「愛は言葉だ」というハムレットのセリフは、愛しているからこそ出る言葉でもあると思うんです。直接的な「愛」という言葉じゃなかったとしても、叱責だったり、アドバイスだったりする言葉も「愛」じゃないですか。どうでもいい相手には言いませんから。同時に、「愛に実体があると思ったら大間違い」というセリフもその通りだと思います。行動で示す愛もありますが、行動って気がつくのに時間がかかるじゃないですか(笑)。でもハムレットが今欲しいのは、徐々に浸透してくる愛じゃなくて、その瞬間脳に快楽物質を与えてくれる「愛の言葉」なんですよね。「ああ、今オレやばい!」っていうときに、一気に元気の源になるもの。そういう愛の言葉は、僕も絶賛募集中です(笑)。
「ハムレット役にぴったり」と言われても「本当かな?」って(笑)
──共演には島崎遥香さん、加藤諒さんらがいらっしゃいますが、キャストの皆さんとはどんなふうに関係を築いていこうと思っていますか。
そうですね、もちろん僕だけが頑張っても素敵な作品にはなりませんから、みんなで息を合わせて頑張っていきたいです。ただ、結局一緒にやってみないとわからないことが多いので、今はそんなに軽々しく、「誰々には、こんなことを期待しています」なんてことは言えないです(笑)。それから、これは僕の性格ですが「こんな役だから、仲良くなろう」とアプローチしてくる相手は、僕は遠ざけてしまいますね。ちょっと猫みたいな性格というか、「こう来るなら、そうはいかないぞ」って(笑)。そんな過程で仲良くなったところで、お芝居には絶対に出ないので……。だからもう普通に、仕事関係なく接してくれるほうがいいなと思います。
──今回は、読売演劇大賞(『コーヒーと恋愛』『貴婦人の来訪』『毛皮のビーナス』)も受賞されている五戸真理恵さんが演出を務めます。もうお話されていますか。
お会いして、対談インタビューの機会もいただきました。そのときに、「木村さんはハムレットにも、太宰作品にもぴったり」と言ってくださったのですが、「本当に?」って(笑)。僕、基本的に人には疑いから入ってしまうんですよ。だから五戸さんの言葉はとても嬉しかったのですが、つい「本当に心から言ってます?」と疑ってしまう。だって思ってもいないことを言われて嬉しくなっているとしたら、すっごく悲しいじゃないですか。だからつい、去勢を張って、そんなことを思ってしまうところが自分にはあると思います。
──五戸さんは実際、木村さんのそんなところに「太宰っぽさ」を感じられたのかもしれませんね(笑)。作品についてもお話されていますか。
はい。シナリオは何度か改訂版をいただいていて、今(注:公演のおよそ1ヵ月半前)はもう、9割がたセリフも覚えました。つい最近、製本された最終版が届いたのですが、前のものと照らし合わせていく中で、「ここはひとつ前のものの方が好きだったな」という部分がありましたので、そこはお話ししました。ハムレットとして読んでいる印象としては、以前のものの方が、ハムレットが包み隠さず、格好つけずにしゃべっている感じがしていたんです。もちろん、面白い表現に変わったところもたくさんありますし、全く問題はないのですが、ハムレットとして感じたこととしてお伝えはしました。今後もそんな話し合いはたくさん出てくるのではないかなと思います。
人の目を惹きつけるために健康的である必要はない
──ここからは「俳優・木村達成」についてを教えてください。活躍の幅をどんどん広げていらっしゃいますが、役者として大切にしていることはありますか。
職業的には「役者」ということになるのかもしれないですが、自分のことを特別役者だとも思っていないんです。「舞台に立って何かやるっていう仕事」だというだけで、そこにこだわりみたいなものは一切ありません。舞台の上では何にでもならなければいけないので、ひとつのジャンルに決めるのはもったいないなって。だから、「なんとか俳優」みたいにレッテル貼られるのもすごく苦手。ただひとつ、「木村達成」としての存在を信じていきたい、それだけです。そうして取り組むものの中には、うまくいくものもあれば失敗するものもある。でも、失敗することがあるのは別にいいと僕は思っています。ときには失敗するのが人間ですし、その人間らしさにこそ、魅力は宿るものだと思っています。今は「舞台に立つ人=完璧でいなければ」という風潮がありますが、僕は「俳優だからいいこと言わなきゃ」なんて、全然思わないです。
──人間としての魅力は、完璧さの中にあるわけではない、ということですね。
そう。完璧な人間や健康的な人間を見ても、ちっとも面白くないじゃないですか。僕が面白いと思うのは、その人自身の美学だったり、その人しか持っていないものを持っている人。これはまた少し話がズレるかもしれませんが、僕、イライラしている人からも、いっぱい魅力が出ていると思っています(笑)。だって、ついつい目が行っちゃうでしょう。それと似ていて、舞台上やスクリーンでも、人の目をひきつけるためには必ずしも健康である必要はなくて、むしろちょっと欠けていたり、不思議だったりする存在のほうが魅力的に見えることもあるんじゃないかなって。だから、失敗してもいいし、不得意なこともあっていい。そしてその上で僕が「木村達成」として生きる中でずっと考えているのは、「人を笑わせたい、人を笑顔にしたい」ということ。それが僕の活力になっています。
──枠にとらわれない活躍の背景にはそんな思いがあるのですね。今まで、お客さんや共演者の方、ファンの方から言われたことで残っている言葉はありますか。
ポジティブな言葉というより、あるとき急に(同業者の人に)「お前は挫折を知った方がいい」と言われた、その言葉が残っています。そのときは、「挫折なんか知らないで、そのまま走り抜けた方がいいだろう」とか「挫折を挫折と思わない人間もいるかもしれないじゃないか」なんて反発を覚えたりもしたのですが、今は逆にその言葉が原動力になっているというか。僕もときには落ち込むこともありますし、このまま走り続けられないかも、と思うときもあります。そんなとき、「そもそも走るのなんてやめていいし、今は止まることができる力もあるじゃないか」という気持ちとともに、その、僕のことをまったく理解していない人間に、「お前は挫折を知った方がいい」と言われた強い言葉が、自分の背中を押してくれるんですよ。僕が新しいことに挑戦したり、走り続けたりできるのは、この言葉のおかげかもと思うこともあります。
──ネガティブな言葉をエネルギーにされているんですね。
そうかもしれません。デビュー当時から、「お前の代わりなんかいくらでもいるから」と言われ続けてきて。それはもちろんその通りで、ほとんどの作品は、自分が役を降りたら絶対に誰かが代わりを務めて進んでいくものです。でも、それでも自分が降りた瞬間に、「じゃあ無理だね、もうこの企画やめよう」って言われるくらいの存在になりたい、そう思っているんです。そのためにしているのは……できるだけ日々を一生懸命生きること。限界まで生きること。僕、明日の予定も聞きたくない人間なんです。今日を目一杯生きたいから。夜に教えてもらいますけど(笑)。そんな毎日はもちろんしんどいですよ。めちゃくちゃしんどいのですが……今はそうやって生きていますね。
──ありがとうございます。最後に、舞台を見にきてくださる方にメッセージをお願いします。
はい。お客様の中には「きっと彼ならこう演じるだろう」なんて、色々な予測を立てたり、期待を寄せてくださる方がいらっしゃると思うのですが、そういうのを全部ぶっ壊すような気持ちで(笑)!「木村達成は、皆さまの考える範疇に収まらない男だ」というところを見せたいと思っています。それができれば、僕の中ではこの作品はオッケーです。どうぞ、劇場へ足をお運びください。
(取材・文:小川聖子)
(撮影:森 浩司)