INTERVIEW
2019年の日本初演に続き、2021年には2ペアで再演、好評を博したミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』。待望の3度目は、2021年公演からの続投となる太田基裕さん×牧島 輝さんペアとともに、山崎大輝さん、小野塚勇人さんがアルヴィン、トーマスを演じます。「新ペア」として期待が集まる山崎さん、小野塚さんのおふたりに、作品への思いと意気込みを聞きました。
(左から)山崎大輝さん、小野塚勇人さん
ニール・バートラムの音楽がふたりの関係を表しています
──まずは、作品が決まったときのお気持ちから伺えますか。
山崎 最初にお話をいただいたときは、もちろん嬉しさはありつつ、ミュージカル、ふたり芝居、110分出ずっぱりという部分に「ものすごく大変そうだな」とは思いました。ただ、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』は再再演となる人気作品ですし、実際に知った内容も素晴らしくて、出演させていただくことはとても楽しみでした。
小野塚 僕も同じです。今回のような出演者が少ない舞台は久しぶりですし、「きっと大変なんだろうな」という予感はありました。その上で台本を読んだら、そこには「作品としての難しさ」もあって、さらなる大変さを痛感したのが正直なところです(笑)。ただ、再再演だからという気負いはなく、ひたすら自分ができる『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』をやっていくしかないな、という覚悟はそのときに固めました。
──今作は、故郷を同じくするふたりの男、アルヴィンとトーマスの友情、魂の交流を描いた作品です。作品の魅力についてはどのように感じていますか。
山崎 身近にあるテーマを扱った、とてもハートフルな作品だと思いました。ただ最初に台本を読んだときは、文字だけではなかなか想像できない部分があって。それが、過去の舞台映像を見ることで、「なるほど」と腑に落ちました。この作品は、会話のテンポ感や、ニール・バートラムの素晴らしい音楽があって完成するものなんですね。特に音楽は、僕たちが演じるアルヴィンとトーマスの関係性をものすごく色濃く演出してくれる大切な存在だと思いました。
小野塚 そうですね。僕も台本からだけでは想像できない部分があったのですが、映像で演出や楽曲が入ったものを見て、この『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』という作品の世界観が理解できました。ですが、実際にやるとなると……。今は稽古が始まったばかりのタイミングですが、まだまだ難しさを感じています。
──そうですよね。山崎さんはアルヴィン、小野塚さんはトーマスを演じられますが、ご自身が演じるキャラクターについてはどのように捉えていますか。
山崎 アルヴィンは、他の人とはちょっと違う感性で物ごとをとらえ、自分で自分の世界をどんどん展開していく人。この作品の中では、トーマスを振り回す存在です。アルヴィンの魅力は、子どもの頃に抱いた世界をずっと持ち続けているところです。そこが、トーマスを羨ましがらせるところでもあるし、この物語が生まれた意味でもあると思っているので、役づくりの上でも、アルヴィンの世界というのは大切にしていきたいです。役の表現としては……アルヴィンの気持ちがニュートラルから喜怒哀楽へと動く瞬間に、彼らしさが出てくるのかなという気はしています。そのあたりはこれまでの演じ方なども踏襲しつつ、探っていきたいところで。ヒントとしては、日常でも時折、本人は一生懸命楽しそうに話しているけれど、周りはそのとき彼が何を言っているかわからない、でも出来上がったものは素晴らしくて、「ああ、あれはこういうことを言っていたのか」ということが後々わかってくるような、天才肌の人に出会うことがあります。アルヴィンはそういう人にも似ている気がするので、研究していきたいです。
小野塚 アルヴィンが感覚的な人間なら、僕が演じるトーマスはその反対で、頭でしっかり考えて動くタイプ。ベストセラー作家ではありますが、天才的なひらめきや、人と違う感性で作家になったというよりは、真面目さや努力が人並み外れていたから成功した、というような人。だから、どこか周りの空気を読んだり、世間体を気にしたり、人に流されやすいところもあって……。思い切ってはみ出したいと思っても、どうしてもはみ出せないようなところもあります。だから、自由にのびのびと振る舞うアルヴィンには羨ましさもあるし、苛立ちもあるし。自分が悩んでいることを軽々と超えていたり、自分にないものを持っているアルヴィンには、憧れとともに嫉妬のような感情も持っている、それがトーマスだと思っています。
勇人くんからは厳格なトーマスらしさを感じます
──今作が初共演のおふたり、稽古も始まったばかりと聞いていますが、今の時点でお互いに「役と似ているな」と感じるところなどはありますか。
山崎 似ているところ……まだお互いを知ろうとしている段階なので、少し難しいですね(笑)。ただ、勇人くんの見た目はなんとなく「トーマス感が強いな」と思っています。なんて言うんだろう、ちょっと厳格な雰囲気がありますよね。
小野塚 ええ〜、それは事務所や『劇団EXILE』のイメージじゃないですか(笑)。
山崎 そうかな(笑)。トーマスの、決められた社会の枠組みの中でちゃんと生きられるところや、言われたことをきちんとこなせる力などは、勇人くんからも感じます。
小野塚 なるほど。確かに僕は劇団に所属していることもあって、組織的に動くことも多いし、楽屋もみんなで一緒に使うことがあるので、そういう面はあるかもしれないですね。大人数の集団の中だからこそ発言に気をつけたり、悪目立ちしないようにする、ということは確かに自然にしてきました。
──どこか、アルヴィンを受け入れるトーマスのようですね。
小野塚 そうだと思います。後輩にしても、上下関係が厳しかった僕の頃と今とではだいぶ環境が違います。ただ、それを羨ましいと思うこともなくて。当時の自分がその厳しさを受け入れたのは、その頃はそれで認められたり、気に入られたりすることが自分にとっても良かったから。自分で選んで、合わせてきたわけです。その態度は実は、作家として売れたい、自分の夢を叶えたいと思って周囲に合わせてきたトーマスとも重なるところなんじゃないか、と今は思っているんです。
──確かに重なるかもしれませんね。
小野塚 一方アルヴィンは、そんな忖度を全くしない人間。大輝くんの「アルヴィンぽさ」はまだわかりませんが、僕には大輝くんのアルヴィンがアルヴィンなので。大輝くんが今作ろうと思っている、探しているアルヴィンが、僕にとってはアルヴィンになっていくんじゃないかな、と思っています。
子ども時代はみんなアルヴィンみたいだったかも
──この物語は、アルヴィンの死によって、かつて幼馴染だったふたりの過去や交流が紐解かれていく、という内容になっています。おふたりがご自身の過去や子ども時代を振り返って、思うことはありますか。
小野塚 うーん。子どもの頃は、みんなアルヴィンみたいだったんじゃないですか。周りの空気なんて読まないし、怒ったらそれをそのまま口に出して。でも大人になった今は、いろいろ考えてから話し出しますよね。劇中の歌の中にも、トーマスが一瞬考えてからアルヴィンに発する言葉があるんですよ。もっと端的な言葉はあるけれど、それを言ったら本人は傷つくかもしれない。だからあえて別の言葉を選ぶ、という箇所が。この「考えてから話す」というあたりが大人と子どもの違いで、社会性があるかないかの違いなのかな、という気がします。
山崎 確かにそうですね。
小野塚 大人としての良識があるトーマスなら、仕事で多くの人に出会って、ときには何時間も興味のない話を聞き続けたり、付き合いを続けることができます。その中で、尊敬できる人に出会ったり、考え方に影響を受けてさらに大人になっていく……ということがあるのだと思うのですが、それがきっとアルヴィンにはできなくて。つまらない話だと思ったら、アルヴィンは帰ってしまうでしょう(笑)。本当は僕たち大人だって帰りたいときはあるけれど、それはできないんですよね。
山崎 そうですね。僕は15歳くらいから芸能の世界にいるのですが、その前の記憶はややおぼろげです。ただ、学生時代は、クラスの活発なグループと、そうでないおとなしいグループ、両方と付き合うようなポジションにいたな、という記憶はありますね。どちらに属するでもなく……。
小野塚 学生時代は確かにグループごとに個性がありましたね。僕はどちらかというと賑やかなグループにいましたが、それでもいろいろな子としゃべっていた気がします。作品の中にはアルヴィンが他の人からいじめられるシーンも出てきますが、そのときトーマスがアルヴィンを助けたのは、気の毒だからという理由だけではなく、実はアルヴィンの生き方こそ、トーマスが本当は自分が生きたい生き方だったから……という部分もあると思います。
山崎 仲間同士で微妙な雰囲気になるの、僕も嫌でしたね。その頃から人を笑わせたり、その場の雰囲気を作ることは好きだったので、そんなときは「普通はやらないでしょ」ということを思い切ってやって、空気を変えようとする、みたいなことをしていました。
──わかっていても、あえて空気を読まずに行動するところはアルヴィンぽいですね。
山崎 そうですね、そこはアルヴィンと似ているところかなと思っています。
僕たちが演じる新ペアにどうぞ期待してください
──これからさらなる稽古、舞台を共にされるおふたりですが、どんな関係を築いていきたいと思われていますか。
山崎 これはもう、仲が良ければ良いほど舞台は良くなると思っていますので……。
小野塚 キャストがたくさんいる中でのふたりではなく、舞台にはこのふたりしかいませんからね。だから自然とディスカッションは多くなって、関係は深まっていくんじゃないかと期待しています。
山崎 そうですね。一緒の時間を共有していくことが当たり前になっていけたらいいですよね。今はまだ稽古のために集まっていますが、これが当たり前になったら、その雰囲気はアルヴィンとトーマスの雰囲気にも反映されると思うので、ぜひそうなりたいです。
──では最後に、舞台をご覧になるお客様にメッセージをお願いします。
山崎 この作品はとてもハートフルな友情の物語です。音楽も素晴らしいですし、観る方によって受け取るメッセージも変わってくるような作品です。当たり前だと思っていたことの中にある尊さにも気がつかせてくれる作品なので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです。
小野塚 過去にもこの作品を見たことがある方には、新たなキャストで見ることの面白さ、新しい捉え方を楽しんでいただけると思います。僕たちのペアにもきっと新鮮な面白さがあると思いますので、ぜひ2ペアを見比べてみていただけたらと思っています。歌も稽古ももう、大変なので(笑)!決して「頑張ったね」と言っていただくためにやっているわけではありませんが、ひとりでも多くの方に作品を見ていただけたら嬉しいです。
(取材・文/小川聖子)
(撮影/森 浩司)
ヘアメイク/北 一騎
■小野塚勇人
スタイリスト/大川好一
■山崎大輝
スタイリスト/内田考昭 (A-T)
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