INTERVIEW
突然犯罪加害者の家族になってしまった弟・直貴を演じる村井、弟のために強盗殺人を犯す兄・剛志を演じるspi、ふたりはそれぞれどう役と向き合っていくのか。話を聞いた。
村井良大さん spiさん
── おふたりの共演は2015年のミュージカル『RENT』以来ですね。お互いの俳優としての印象は?
spi 良大、あの時は何歳だった?
村井良大(以下、村井) 25歳でした。
spi 25歳のわりには、いい座長だったよ。人生、何周目? という……(笑)。すでに一回は一生を経験している(達観した)感じはしますよね。
村井 そう(笑)? 『RENT』の時のspiはすごかった。spiは3回目の『RENT』だったし、安定感があったけれど、それ以上に僕は「こんなに自由な俳優、見たことがない!」と思った。稽古前、みんながアップしたりしている中、セットの裏で寝ているんですよ。
spi そういう“自由”!?
村井 うん(笑)。漫画みたいだなと。決勝戦で最強のライバルとあたるという状況を前に寝ているキャラとか、いるじゃないですか。「こいつ、この大舞台で寝てやがる……」みたいな。そんな印象でした。
spi ハハハ! 良大は勤勉だし、俳優としてバッチリですよね! 結局、人生経験がものをいう職業ですので。私生活で得た経験を舞台上に持ってくる。もちろん私生活と俳優としての表現を完全に切り離しているタイプの方もいますが、僕は持ってくるタイプで、良大もきっと一緒かなと思っている。
村井 まさに。僕も今まで生きてきた中で得たものを切り取って舞台上で使っている感じ。“生”っぽくないものは好きじゃないんです。本当は、ミュージカルだと絶対にマイクを使うのですが、生声でやりたいくらい。オーケストラに勝てないから無理ですし、劇場の隅々まで声を届かせてくれる技術はありがたいのですが、すべてがマイク頼みになるとつまらないなと。その人の持っている呼吸を感じられると楽しいのにな、と思うんです。
── まさにこのミュージカル『手紙』は、“生っぽさ”が大切になる作品ではないかと思いますが、出演が決まった時はどう思われましたか。
spi 俺は「やったー!」でしたね。(演出の)藤田さんと仕事ができる、村井君と仕事ができる、やったー! と。……僕、日本の演出家で無条件に出たい! と思うのは、藤田俊太郎さんと小川絵梨子さんのおふたりなんです。
── spiさんはもう何度も藤田さんの作品に出演していて、村井さんは初めてのご出演ですね。spiさん、藤田さんってどういう方ですか?
spi フィールドだけ用意してくれて、「あとはどうぞ!」と俳優の自由にさせてくれます。俳優が何をしてもいい空間だと思わせてくれる。寛容ですし、心理的な安心を与えてくれるので、俳優が自分のポテンシャルを余すことなく使えます。「俺はこっちから出たい」と言えば「どうぞ」と言ってくれる。基本的に「NO」がない。
村井 すごく役者さんが安心して演じている印象がある。でも、役者が自由に動いているんだけれど、最終的に藤田さんのカラーにまとめているんだよね。それがすごいなと思う。
spi そうそう。藤田さんも自分のビジョンがあるんだけれど、俳優が別の動きをしたら「あ、その可能性もあるね」と受け止めてくれる。自分の考えに固執しないというか、柔軟な方なんですよね。
──村井さんは、出演が決まった時はどう思われましたか。
村井 僕は今回、藤田さんと初めましてなのですが、ひと言で言えば「ワクワクする」。いつも藤田さんの作る作品から刺激をいただくんです。それこそ先ほど言った“生っぽさ”、一昨年、藤田さん演出の『NINE』を観に行った時、最後に主人公のグイドを演じていた城田優さんの独白があったのですが、そこだけマイクレベルが落ちていて、生っぽかったんです。藤田さんに訊いたら実際にマイクレベルを落としていたと。やっぱりそういう真実の瞬間は、生の声で届けるんだなと、非常に共感したのを覚えています。また今回の『手紙』は、台本を読んでいるだけですでに面白いんですよ。このシンプルがゆえに美しい物語を、藤田さんがどういう角度で切り込んでいくのか、それが楽しみですね。
spi あと、今の時代にぴったりだよね、この物語。今は人の内なるものが外にむき出しになることが多い時代だから。
村井 うん。ちょっと前は「そういう家族もあるんだな」だったけれど、今は「ああ、あるよね」と納得しちゃう。
spi 一昔前だと環境にクローズアップしていたかもしれないけれど、今はその環境の中で生きている人物の心にクローズアップしていくようになっている。ちょうどいいんじゃないかな、今この時期にやるというのは。
──この物語の中で、村井さんが弟の直貴、spiさんが兄・剛志を演じます。まだお稽古は先かと思いますが、現段階でこの役柄をどう捉えていますか。
村井 “役を捉える”というか、本当に、居酒屋でごはんを食べている隣のテーブルの人がそうかもしれない、というくらいの身近さを感じるんです。
spi うん。彼らのこの物語は、誰にでも起こりうるんです。だからキャラクターをどうしようか、ではなく、この環境の中に置かれたら、そうなるだろうなという。そこに個性を乗せる。……例えば村井良大にお兄さんがいて、その兄がこうなってしまったら、良大は自分の人生をどうするか? という。その状況になったら自然とそう動くんじゃないかというような……。だから、役作りより“環境作り”という感覚かな。もちろん俺だったら、どんな状況になっても剛志のように人を殺したりはしないけれど。でもそれは剛志はちょっと短絡的だからという個性の違いでしかないかな。
村井 そうだね。もちろんストーリー、道筋はあるけれど、“そういう運命に陥ってしまった”というか。役というより状況ですよね。そういう意味で言うと、とても完成されている本なんです。あとは……「すごく日本的だなぁ」と思った。
spi わかる。日本だよね。本当に。
村井 日本の問題点だよね。だからこそ感情移入もするし。無言で人を追い詰めていく、無言でいじめられていく。
spi 海外だともっとあからさまだよね。もっと露骨。日本ほど隠していない。
村井 海外だと“いじめる”となるところ、日本だと“いじめ”になるというか……。息ができないという言葉が近いのかな。息が詰まる。
──確かに社会が個人を追い詰めていくシリアスな面がある作品です。一方で、やはり兄弟愛、許しというような光が差す部分もきちんと描かれているところがこの物語の魅力だと思いますが、お互い兄弟として愛せそうですか?
村井 僕はspiのことをすでに愛しているので、大丈夫です!
spi 俺も全然問題ない。この話、ずっと兄弟が一緒にいて、事件が起きた、そこからスタートするのですが、その前段階の「兄弟だ」というところは、すでにクリアしてますね!
──おふたりの兄弟像、楽しみにしています。最後に、日本オリジナル・ミュージカルというところも本作の大切なポイントだと思います。ミュージカル界は近年、非常に盛り上がっていますが、まだ日本オリジナル・ミュージカルはそう多くはない。その中で今回、貴重な日本オリジナル作品に出演するにあたって思うことは。
spi 俺は一度NYへ行きましたが、日本のミュージカルをやりたくて戻ってきているので。メイド・イン・ジャパンの舞台をやるぞ、日本のミュージカル界を盛り上げるぞ、それが俺の社会貢献だ、という気持ちでやっています。単純に、この作品でミュージカルっていいなと思う人が増えたら、それは業界への貢献になります。日本で、字幕なしに自分たちの言語で観ることができて、共感できて、感動できて、こういう世界があるんだなと思って応援してくれる人が増えたら、また日本のミュージカルも世界に広がっていくんじゃないかな。ミュージカルは、一度観たことで人生がガラリと変わったりもする。そういう経験ができるエンターテインメントですので。
村井 日本から世界に発信できるものって、歌舞伎や、最近では2.5次元舞台などもありますが、この『手紙』は東野圭吾さんが世界的に著名ということもあって、題材としてどこの国でも通じるものだと思います。そういう意味では日本オリジナル・ミュージカルとして育んでいきたいですし、今回の再々演に、少しでも僕がお力添えできるように、頑張っていきたいです。……ところで、“手紙”って、いいよね。
spi 俺らはメール世代だからね。
村井 手紙が来るって、なんでこんな感動するんだろうね。ほかの映画とか見ていても、手紙が来ると「ずるいよ」と思う。「手紙、来ちゃったよ……」って(笑)。
spi 手書きの、アナログの魅力だよね。
村井 そう。温もりを感じる。僕らは職業柄、手紙をもらうことも多いけれど、たまに「すみません、手紙だけで……」と書いてくる方がいらっしゃるじゃない。もうそれだけあれば十分ですよ、書いてくれたその気持ちだけで嬉しいし、手紙を書く労力ってすごいよ!? と思う。
spi 手紙だけで十分、本当にそうだよね。その時間を割いてくれたことがありがたいよね。
──稽古に入るにあたり、お互いに手紙を書いてみるとか……。
村井 それはふざけちゃいそうだな(笑)。
spi 照れちゃうよね。(真面目に書けず)絵とか描いたりしちゃうかも!
(取材・文・撮影:平野祥恵)
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村井良大
ニット¥38,500・靴¥59,400 (共にuniform experiment)・パンツ¥26,400(SOPHNET.) / SOPH.
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