こまつ座 第152回公演「太鼓たたいて笛ふいて」のチケット情報

こまつ座 第152回公演
太鼓たたいて笛ふいて

インタビュー

『放浪記』で一躍人気作家の仲間入りをするものの、出版した本は発禁処分に。「戦さは儲かる」と説得され、戦前は「国家が求める物語」を書くことで国民を戦争へと駆り立ててしまった作家・林芙美子。戦後は贖罪のように創作活動に打ち込み、日本人の悲しみを書き続きた彼女の後半生を、独自の目線と切り口で描いた評伝劇が、『太鼓たたいて笛ふいて』です。2002年の初演時から、主人公の林芙美子を演じてきた大竹しのぶさんに、本公演への意気込みを聞きました。
大竹しのぶさん
大竹しのぶさん

戦争を間近に感じる今だからこそ刺さる作品

── 2002年の初演時から、主人公の林芙美子を演じていらっしゃいますが、改めてこの作品に対する思いと、2024年の今この作品を上演する意味をお伺いできればと思います。

『太鼓たたいて笛ふいて』は、私にとって大切な作品です。2002年の初演時、また2014年にも芙美子さんを演じましたが、その後ももう一度やってみたいという思いがありました。演出の栗山民也さんとは、2年前にも舞台『ピアフ』でご一緒しており、「いつできるかな」なんてお話もしていたので、今年ようやく実現できることとなり、とても嬉しく思っています。
前回の上演からおよそ10年が経ちますが、その間に「戦争」は以前より間近に感じられ、「戦争」について考える時間も増えてきています。オリンピックの開催は華々しく報じられる一方、悲惨な状況が続くウクライナやパレスチナの情勢はニュースでもあまり報道されない……。私たちが生きているのはそんな矛盾だらけの世界です。
この作品のオープニングでは、「聞こえてくる笛は、祭りの笛なのか、いくさの合図なのか……」という歌が歌われます。軽やかなメロディーに乗せて歌われる楽曲でありながら、歌われているのは実はすごく怖いこと。これはどこか「今」にも重なるような気がしています。私たちも、目の前の現実について、「今起こっていることは実はどういうことなのか」をきちんと捉えておかなければいけない……。こんな今だからこそ、この作品はより強く心に刺さるものになるのではないかと思っています。

── 今作は第二次世界大戦の頃を題材にしていますが、まさに今の世界情勢にも思いを馳せずにはいられない内容でもあると思います。大竹さんが演じる芙美子は、自身の日記をもとにした『放浪記』がベストセラーとなった流行作家。奔放なところはありつつも、人を愛し、愛されて生きる情の深い女性です。それでも戦前は結果として、戦争を煽るような作品を書いてしまいます。

作家なら自分の名前を世に出したいという欲もあるだろうし、本がたくさん売れて欲しいというのも正直な気持ちであると思います。そんな中、「こんな物語を書けば当たりますよ」「今の時代はこうですよ」と言われたら、「そうなのかもしれない」と思い込んでしまうことはあると思います。芙美子には調子に乗りやすいところもあったと思いますし、「それならやってみよう」と言われる方向へ進んでしまうことは、人間なら仕方がないこと、あり得ることだと思います。ただそれとは別に、「これは正しいんだ」と思い込んだものをみんなに伝えてしまう、それがどんどん広がってしまうことは、本当に恐ろしいことだと思います。

劇中の歌には、平和への思いが込められている

大竹しのぶさん
── 無邪気に「兵隊さんが好き」と言っていた芙美子も、実際に記者としてシンガポールやジャワ、ボルネオなどの南方戦線に従軍し、その悲惨さを目の当たりにしてからは、考えが大きく変化します。演じられていても、とても苦しいのではないかと思いますが……。

そうですね。この作品は音楽評伝劇なのですが、従軍記者として出発する前の芙美子が歌うのは「記者として、戦地の素晴らしさをみんなに伝えるわ!」という歌。そのときは本当にそれが正しいと信じて歌うんです。けれど、現実は想像していたようなものじゃなかった。そのことに気づいた芙美子は「日本は負けるしかない。私は日本を愛しているからこそ、この戦争は間違いであるということを言いたい」と話し、日本の四季の美しさ、貧しくても心優しく生きている日本の人たちのことを歌います。「ただ滅びるにはこの国はあまりにも素晴らしすぎる……」。ひとりひとりがこの歌のように平和を思っていれば、戦争なんて起こるはずがない、私もそう信じたいので、毎回願いを込めるようにして舞台に立っています。

── こまつ座では、「戦争“命”の三部作」をはじめ、井上ひさし作品をたびたび上演していますが、井上ひさしさんの作品について、大竹さんが思われることはありますか。

井上ひさしさんが作り出した言葉というのは、日本人の性質も、地方での生活もそこで作る農作物までみんなわかった上で書かれているので、本当に素敵だなと思っています。日本がどれだけ美しいか、豊かなのか、素晴らしい国なのか……そんなことがみんな詰まっているんですね。
この『太鼓たたいて笛ふいて』は、林芙美子さんの人生を題材にしたものですが、そこには井上さん独自の捉え方があり、作り出している世界があると思っています。どこか、ものを書く人間の根本的なところを問うているような気もしていて、ここに出てくる言葉はきっと、井上さんご自身の言葉でもあるんだろうな、ということは感じます。
中でも、「戦争で不幸になった兵隊さんを、これでまたひとり幸せにすることができた。本の上のことだけだけど」という芙美子のセリフには、「言葉によって伝えることこそが(作家の)使命」という井上ひさしさんの心が詰まっているのではないか、なんて思いながら演じています。

主人公以外の人生もそれぞれ生き生きと描き出されている

大竹しのぶさん
── 今作は新たなキャストで演じられることも大きな話題のひとつです。特に思い入れのある登場人物や、楽しみにされているシーンなどはありますか。

この作品に登場する人物はみんなみんな、素晴らしいんですよね。誰が主役というのもなくて、それぞれが生き生きと自分の人生を生きている。誰かが正しくて誰かが間違っているというわけではなく、みんなちょっとずついいところと悪いところがあるんですよね。そういうところが面白いんです。その中でも芙美子さんの母であるキクはずば抜けて面白い!今回キクを演じられるのは、高田聖子さん。初めて共演するので楽しみですね。私より年下なのに、母親を演じなきゃいけないのでちょっと可哀想ですが(笑)。
好きなシーンは、終盤のほうで戦地から帰った時男さんが、最後の最後に自分の物語を想像して作り出すところ。自分が戦争から帰ってきたら、奥さんはすでに別の男性に……という、悲しい物語になりそうなところをすごく面白くして(笑)。それで、その時男に向かって私が「おかえりなさい」ってお辞儀をするところがあるのですが、実はそこのト書きにね、「全世界の愛を込めて」って書いてあるんですよ。これ、お客様にはわからないと思うのですが、私はいつもそれを思い出しながらお辞儀しています。そのシーンはとても好きですね。

── ありがとうございます。最後に、舞台を観にこられるお客様にメッセージをいただけますか。

こまつ座さんの顧客の方は年齢層がやや高いとは思うのですが、この作品は決して遠い昔の話ではないし、今につながる内容でもあるので、これからの未来を担う世代にもぜひ見てほしい作品です。なので、できれば娘さんやお孫さんや……少し若い世代の方たちとも一緒に来ていただけたら、嬉しいです。
演出の栗山民也さんは、いつも舞台を通して世の中への批判や、ご自身の想いを叫んでいらっしゃる方です。私はちょうど2年前に『ピアフ』という舞台をご一緒したのですが、その舞台でもハッとしたことがあります。劇中の「戦争が始まりました」というセリフ、私たちはそれまでももちろん、心からの言葉で、リアルに演じてきたつもりだったのですが、栗山さんが「世界中で今、実際に戦争が起こっている。その状況をひとりひとりが感じながら、この言葉を言いましょう」とおっしゃって。そのおかげで、その後はより一層このセリフがリアルに響いていくような気がしました。もっと戦争を間近に感じるようになって、もっと怖くなったんです。それでキャスト同士も「今やっているお芝居で、戦争がどんなに愚かなものなのかを伝えていこう」という思いをさらに強くしました。
戦争がテーマと聞くと、難しいお芝居なのかと思われることもありますが、本当にわかりやすい言葉で話されますし、おかしくもあり、悲しくもあるのがこの舞台です。ぜひ、たくさんの方に見ていただけたらと思っています。

(取材・文:小川聖子)
(撮影:森浩司)

キャスト&スタッフ

【出演】

大竹しのぶ

高田聖子 近藤公園 土屋佑壱 
天野はな 福井晶一 朴勝哲

【作】
井上ひさし

【演出】
栗山民也

公演情報

公演名
こまつ座 第152回公演『太鼓たたいて笛ふいて』
会場
【東京】紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
上演期間
2024年11月1日(金)~11月30日(土)
料金
全席指定 定価:10,500円→
《ご優待価格》9,500円
公演名
こまつ座 第152回公演『太鼓たたいて笛ふいて』
会場
【大阪】新歌舞伎座
上演期間
2024年12月4日(水)~12月8日(日)
料金
S席(1・2階) 定価:11,000円
A席 定価:6,500円
A席 U-25チケット(観劇時25歳以下対象) 定価:2,500円
公演名
こまつ座 第152回公演『太鼓たたいて笛ふいて』
会場
【愛知】ウインクあいち 大ホール
上演期間
2024年12月21日(土)
料金
全席指定 定価:11,000円→
《ご優待価格》10,000円