インタビュー
INTERVIEW
名作映画を舞台化!強い男の生き様を見て、人生に対する見え方が変わる作品です。
名匠・黒澤明と名俳優・三船敏郎の二人が初めてタッグを組み、1948 年に公開された伝説的な映画「醉いどれ天使」。この名作が三池崇史演出の舞台となって2021年9月から上演されます。戦後の混沌とした時代を生きる人々の葛藤を描いた本作。松永役を演じる桐谷健太さんに本作の見どころや意気込みを伺いました。
俳優 桐谷健太さん
―― 今回の舞台が決まった時の率直な感想を聞かせてください。また、黒澤明監督の伝説的とまで言われる作品ですが、プレッシャーを感じることはありますか?
作品の偉大さはもちろん感じましたが、それよりも三池監督とまたご一緒できることや、ギラギラした目が似ていると言われたことがある三船敏郎さんと同じ役をやらせていただくことに運命的なものを感じました(笑)“つながったな”という感じです。
プレッシャーはないですね。自分ができるすべてを出し切れたらいいなと思っています。
―― 映画版と舞台版で違いはありますか?
映画版は作品と同じ時代を生きている人には理解出来るのでしょうが、現代の人たちが観た時にちょっとわからない部分もあると思います。舞台版は現在の人たちが観て、心に染み込んでくる脚本になっていますね。舞台の脚本を見た時に素晴らしいと思いましたし、すごく好きです。
僕が演じる松永という役も、どうして闇市という場所に辿り着いたか、どういう思いでヤクザ稼業をやっているのか、なぜ生きることに対する執着がこんなにもあるのかというのが舞台版だとわかりやすくなっています。
―― 舞台への出演が12年ぶりということですが、舞台の魅力を教えてください。
生で演じるというのは舞台でしか出せないものですよね。出演者、お客さんと生で同じ空間を共有するというのは今の時代で大切になってくると感じています。
舞台は2回目ということで未知の感覚もあります。光なのか影なのかはわかりませんが、新たに自分から出てくるものがありそうな予感はしています。
映像と舞台でやり方を変えるつもりはありませんが、会場の隅々まで自分のエネルギーや感情が届くようにしたいです。これから稽古や本番で新しい自分を見つけていけるのを楽しみにしています。
―― 桐谷さんの役者人生の中で今回の作品はどう意味を持つと思われますか?
舞台で演じる中で自分が予期していなかった感覚も出てくると思います。もしかしたらずっと稽古してきて感じなかったことが本番になって想像していなかった松永が出てくるかもしれません。その時に自分に湧いてきた感情を自由に表現したいなとも思っています。これまでになかった感覚によって自分の幅も広がりますよね。そこで今後のお芝居への関わり方や捉え方も変わってくるはずです。今回の舞台は自分の中で大きな変化をもたらしてくれそうな気がします。どう変化するかは乞うご期待!(笑)
―― 今回の見どころを教えてください。
松永という男の悲しさや不器用さなどいろいろな部分があるんですけど、結局は戦争を経て、なぜ自分は生かされているのか、なぜ生きるのかという葛藤を伝えられたらと思います。
その時代の人たちは1日1日がすごく濃かったと思うんですよね。人間の強くて熱い血が流れている、まるで獣のような感覚を見せることができたら今の時代にやる意味があると感じています。
―― 桐谷さんから見て、松永はどういう人間ですか?
映画を観た時、なぜ松永はこんなにも不器用なんだろうと思いました。酔っ払った天使である医者の意見を聞いていれば、もっと違う方向にいったんじゃないのかなと。舞台の脚本を読ませていただいた時は、松永という男がすっと入って来たんですよね。だから松永はこんなに頑なだったんだと答え合わせができました。戦争に行ったのに生きて帰って来てしまった人の後ろめたさを感じます。故郷に母親を残しているから会いに行きたいけど行けないというものすごい葛藤もありますね。その葛藤が染み入るように入って来ました。そこをちゃんと表現したいと思います。それを毎日演じるのはすごくエネルギーを使うので、全公演終わったら15kgくらい痩せているんじゃないでしょうか(笑)毎日公演があるので生きて帰れるかなという感情と、生きて帰れるかと考えながらやってはダメなんじゃないかという思いもあります。とにかく全力でぶつけてやってみます。
―― 出演が決まってから、準備したことはありますか?
脚本を読みながら松永はその時にどう思ったのかを探ったり、時代背景の感覚を染み込ませたり、戦場に行った仲間が死んでいくという場面を深く想像したり、実際に体験した人に話を聞いたりもしました。
―― 三池さんの演出で期待していることは何ですか?
三池監督の作品はデビュー前からずっと見ていて、面白い監督だなと思っていました。今回、映画を舞台化する中でどんな動きや舞台転換をするのかが興味深いです。三池さん自身はシンプルで強いものを作品として撮られる方なので、舞台でもそういった強さが感じられるものになるのではないかと思います。一緒に風を吹かせられるんじゃないかなと感じています(笑)
―― 共演者の方の印象はいかがですか?
髙嶋政宏さんは以前ご一緒したことがありますが、初めて共演させていただく方がたくさんいるので、どういった相乗効果が生まれるのか楽しみですね。
高橋克典さんと一緒にポスター撮影をした時に、高橋さんの包み込んでくれるような優しさが印象的でした。その優しさを跳ね返すような松永の獣感から、真田(高橋克典さん)の情の深さにだんだん心地よくなっていくという様を自然と見せられるんじゃないかなと感じました。
―― 最後にお客様へのメッセージをお願いします。
「醉いどれ天使」の舞台は、明日があるかどうかわからないという人がたくさんいた時代。死ぬように生きるのか、命を使い果たすように生きるのかで人生は変わって来ますよね。今も違った意味でどうしたらいいかわからない状態。暗い気持ちになってしまったり自暴自棄のようになってしまうこともあると思います。でも自分が変われば見え方が変わってくるはずです。生きることに執着することによって死というものも濃くなっていきますが、強い生き方をすることで1日の終わりや朝目覚めた時の感覚が輝いてくる気がします。そういった強い生き方を垣間見れる作品ですね。光と影が強い作品なので、そこを感じてもらえるだけで今この時代に上演する意味があると思います。
舞台に気軽に行ける世の中ではなくなってしまいました。生で感じるのは物語の内容もそうですが、役者を含め創り手から出るエネルギーが体に伝わっていきます。舞台を見終わった時に、足取りが軽くなってしたり、空の色が違って見えたりという変化を感じてもらえるように全エネルギーを放出します。ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
※ポスター撮影と同日のため、ポスター撮影仕様のメイクです